巡る地球儀 11
今日はひどく寒い。曇天から冷気が降りてくるようだ。
オフィスであいにくの天気にアリシアが嘆いていたのを思い出す。
「じゃあな、お疲れさん」
「ああ、ありがとう」
ウィルはあの日から、クレイグとともに訓練を再開していた。ウィルは特例で24時間シフト制を免れているから、クレイグと同様17時に仕事を終えて、急いでトレーニングルームの鍵を受け取ると、クレイグと二人きりで行う。HQだけではなく、部隊のメンバーにも見つかってはいけないからだ。
HQにトレーニングルームにいるところがバレることはそうないだろうが、部隊のメンバーは気軽にトレーニングルームに入ってきて、相席よろしくトレーニングを始めるし、いくつかあるトレーニングルームが埋まっていれば片っ端からノックして相席を頼むような練習熱心な連中だ。バレるのも時間の問題だと思い、二人きりで行うトレーニングでは施錠が当然になっていた。
だからだろうか。最近は、レイフと過ごす時間も随分減ってしまった。復隊まではしばらく、こんな生活が続くだろう。レイフにも理由を話せず少し心苦しいところはあったが、仕事量が増えたとばれそうな嘘でつないでいるのが現状だった。
最近以前よりレイフの態度がそっけなくも感じている。今日もマルコと出かけるというし、ここ数週間ろくに夜の相手もしてくれない。疲れているのだろうと気遣ってくれているのはわかるが、それだけではないのかもしれない。
レイフの心が、自分から離れているのかもしれないと思うと、ウィルはどうしようもなく気が狂いそうになる。ウィルはいつでもレイフのことを一番に考えて来たし、いまも当初と変わらず一途に愛し続けている。それどころか愛情は増え続けてついに極限に達しようとしているというのに。
だが冷静な自分がいう、もしレイフが自分と離れたいと言ったら、潔く身を引けと。…実際そんなことは出来ないだろうが。
ウィルはクレイグの背中を見送るとトレーニングルームの鍵を締めて、いつものように管理部へ向かった。
「お疲れ。今日のトレーニングはどうだった?」
問いかけられて、近くのシフト表を見ながら答える。
「ぼちぼちかな。明後日少し鍵を取りに来るのが遅くなるかもしれない。ん、いつもありがとう」
「これも仕事だからね」
管理部の事務所にいる夜勤警備のダリウスとはいつしか顔見知り以上になった。ウィルのことは何も知らない独立した存在だからこそ、こんな他愛もない会話が出来るのだろう。シフト表には、ダリウスの次回出勤日が明後日であることが示されていた。
「雨降ってるから、そこの傘持っていきな。どうせ持ってないんだろ?」
「ほんとだ、降ってきたのか…ありがとう、助かるよ」
事務所から覗いた外は暗い雨を落としている。激しくはないがそれなりに降っていて、傘なしでは家に着くまでにずぶ濡れになってしまうだろう。
「じゃあまた明後日な。今週はずっと雨だっていうから、次は傘持ってこいよ」
「うん、ありがとう。おやすみ」
ウィルは傘をさして外にでた。雨粒が傘を叩く。風はなく空から真っ直ぐに降りてくるその雨粒たちの音は、ウィルの耳を楽しませた。
駐車場につき、車に乗り込む。今日はレイフが家で待っているわけではないから、急ぐ必要もない。お気に入りのミュージックをセレクトして、ゆっくりと車を出した。




