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巡る地球儀 10

「レイフ! ただいま帰りました」

「おっ、おかえり。早かったな」

「早くあなたに会いたくて」

 ソファから立ち上がってウィルを迎えようとしたレイフに正面から抱きついた。

「レイフは飲んできてないんですか?」

「少し飲んだよ。……まあ、今日は早く帰って来たかったんだ、俺も」

少し照れながらそういうレイフに、ウィルは気付いていながらわざと少し気取って言う。

「それは俺に早く会いたくてって解釈していいんですか?」

「……ああ」

「うん、……嬉しいです」

ウィルはそういってレイフの首に顔をうずめた。レイフもそれを幸せそうな表情で受け入れる。

「それよりウィル、今日のプレゼン、参加者からも好評だったぞ。みんなに声をかけられたよ。お前の元部下は凄いなって。だから自慢しておいた。まあ、…元部下って言い方は少し傷ついたけどな」

 そういいながら二人でなだれ込むようにソファに腰を落とした。ウィルはレイフにべったりと抱きついている。レイフはわかっていた。ウィルの密着度と一日の精神的ストレスが比例していることを。今日はきっと、プレゼンで気を張っていたからその無意識のストレスが彼をこうさせているのだろう。最も、HQに所属した後はその前よりずっと抱きついてくる時間は増えたが。

「そうですね……でも、事実です。いまはあなたの部下じゃない、恋人だ」

「そういうことじゃなくて……」

「わかってますよ。俺のいまの上司はアリシアさんだ。あなたじゃない。まあ、あなたの部下だったって知れていたのは少し驚きですが……」

 そういいながらウィルは上着を脱いだ。そしてネクタイを緩める。そんな仕草のひとつひとつが艶やかに見えてレイフの胸が高鳴った。部隊にいた頃は年に二、三回しか着なかったスーツも、いまじゃ見慣れたほどだ。だが自分の生活に馴染みのなかったものだからやはり、その格好に惹かれる要素はあるのだろう。

「俺も散々みんなに自慢してたし、何よりお前は次期キャプテンだと全員が認識していたよ。知名度もお前が思っているよりずっと高い」

「俺は部隊にいたってキャプテンなんかやらないんです」

 そういって拗ねたため息をつくが、レイフはなにも言えなかった。ウィルにはHQから部隊に戻りたいと言われているが、あんなことがあった手前、正直言うとこちらに戻したくないのも事実である。レイフは迷っていた。確かにウィルがいるのといないのでは戦力面でも精神面でも大きく違うのはわかっている。それでも、もしかしたら次は命もないかもしれないのだ。

 レイフは何も言えずに口を閉ざした。

「レイフ、シャワーまだですね? 一緒に入りましょう」

「ああ」

 二人でバスルームに向かう。ウィルは何故だかご機嫌だ。

「何かいいことがあったのか?」

「いいえ、別に」

「HQの居心地はどうだ? 上司からもえらく気に入られているようじゃないか」

二人で並んで廊下を歩く。その短い距離でもウィルは手を繋いだまま離さなかった。

「そんなことありません」

「俺は……正直、お前の周りを女性がうろつくのが少し心配だよ。お前は女性にモテそうだから……」

「あなたは男性にモテますけどね」

 皮肉とも不安ともとれるその発言にレイフは苦笑する。男性に告白されたのはウィルが初めてではなかったことを話したことがあったから、それを少し根に持っているのだろう。

シャワールームは二人で入っても少し余裕がある。レイフは今日の汗をシャンプーで豪快に洗い落とした。そして何となしに、最近の実感を口にする。

「HQにお前はいい影響を与えているようだな」

「だといいのですが」

「最近、会議でもそれを感じるよ。前みたいにだんまりを通したり、こっちの提案には耳を傾けないということも減った。さっきお前の話にあったアリシアという女性が、積極的にHQのあり方を変えようとしているように見える」

 事実アリシアは、会議ではいつも率先して部隊メンバーの言うことを聞いてくれていた。部隊の中心となるレイフの意見は殊更重要視してくれるように思う。

「ああ、確かにそんな雰囲気はありますね。結構そのことで部隊にいた頃はどうだったのかと聞かれます」

「そうか……そうやってお前からHQに部隊でのやり方も伝わっていけばいいな」

「ええ」

 レイフはウィルの頭にシャワーをかけてやる。チームみんなで入るときもよくじゃれあいの一つでやるからその癖なのだろう。それをウィルもなんの違和感もなく受け入れる。

それから少し他愛のない会話をしてバスルームを出た。ガウンを羽織った瞬間、ウィルの眼差しが変わる。ソファにたどり着くと二人で倒れこんだ。大きめのソファはウィルの希望だった。

「レイフ……」

「んん」

「最近すれ違ってばかりで、あまり時間がなかったから」

「ああ……」

 そういってレイフの耳たぶをウィルが噛む。その熱い吐息にレイフがくすぐったそうに身をよじった。ウィルはそれに口角を上げてくすりと笑ってから首筋に唇を這わせる。レイフの表情に色がさした。

背後からレイフの頬をつかんで唇を塞ぎ舌をねじ込む。レイフは少し無理やりにやられるのが好きなのだ。

「レイフ? キスだけで感じてるんです?」

「そんなこと───」

「愛してます、レイフ」

 ソファの上にレイフをうつ伏せに寝かせてその手首を束ねた。そうすれば体格差で封じられることもない。たまに感じ過ぎた勢いでレイフは暴れるからウィルもそれに対抗する術を覚えた。

 うつ伏せのレイフのシャツをめくり、指先で愛撫を繰り返す。レイフが次第に敏感になっていくのがわかってウィルは悦に浸った。自分で感じてくれるのが嬉しい、この感覚はどんな女と肌を重ねても感じることのなかった感覚だと思う。丁寧に服を脱がせながらキスを繰り返して、レイフが一糸纏わぬ姿になった。

「やめろ、恥ずかしい……」

「どうして? こんなに綺麗なのに……もっと俺に見せてください」

 そういって胸板に舌を這わせるとレイフが小さく呻いた。優しく、時折歯で甘噛みしてレイフの敏感な部分を攻めると、レイフの下半身がいきり立った。

「もうこんなになってます……、はやく解放してあげたいけど…」

 レイフは知っている。ウィルが言葉を区切るときはいつも焦らしのサインだ。硬直した下腹部のそれが、ウィルに触れられるのを待っているをそしてウィルが、悪巧みを思いついた子どものようにある種の無邪気さで微笑んだ。そして、ウィルの手がレイフのそれを包む。

「あとどれくらい我慢できます? 出来ませんか?」

「出来る……!」

「じゃあ、我慢してもらいますね」

 手が上下運動を繰り返し、レイフの絶頂の手前ですっと離れた。レイフから余裕が奪われていく。

「ウィル……おかしくなりそうだ……」

 その後も何度となく、絶頂を迎えそうになると手を離されるなどして焦らされ、いよいよウィルに懇願する。もう恥じらう余裕すらもない。

「それは、挿れて欲しいってことですか?」

「……ああ」

「よく出来ました」

 素直に頷いたのをみて、ウィルが満足げに笑った。そしてとびきり優しいキスをくれる。

「レイフ、辛かったでしょう。すいません、いじめ過ぎた。あなたがそんなに俺を煽るから」

そういって手首を解放し、正面から抱きしめてくれる。そしてそっと、ウィルのそれを挿れた。

「あ、……ウィル……」

「動きますよ」

「ああ……」

ウィルがゆっくりと腰を動かす。次第にその動きが激しさを増してきた。

「……あ、……あぁ……」

「レイフ、……いきそうですか?」

「あ ……」

「一緒にいきましょう、レイフ」

 激しく二三度突かれた衝撃で目の前が白くなった。そして、レイフのそれからも、白濁液が漏れる。

「あなたとのセックスはとびきり幸せだ。こんなに幸せでいいのかなって思ってしまいます」

「俺もだ……幸せすぎて苦しいよ」

 レイフがそうこぼすと、ウィルがそのレイフの頬を両手で掴んで額をくっつけた。限りなく優しい瞳を向けられて、レイフの胸がまたきつく締め付けられる。

「俺はあなたが思っているよりずっとあなたにぞっこんです。女性のいる職場だから心配?そんなの心配するくらいなら、下半身と体力のこと心配して下さい?俺はまだいけます、むしろまだ足りない」

 そういって笑いながら向けられた瞳は優しいものではなく、獣のように鋭い。すぐに笑みもなくなって、噛み付くようなキスがくる。

「まだ夜は長いので、たっぷり付き合ってもらいますよ」

 ウィルの笑みに込められた欲は、かけがえなくそして純粋そのもの。それを全身で受け止めようとレイフは覚悟した。



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