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どんな未来にも愛はある 4

 巨大な倉庫は、はるかに想像を超えた広さだった。しかも、構内図を見ると焼却場は倉庫部分の下部にあり、かなりの地中深くにあるようだ。倉庫に降り立ってみて、自分の無線が

(廃棄する場所すら公にできないモノを、焼いているってことだ……)

 ウィルは直感的に感じた。しかもHQからの追加の知らせでは、この倉庫部分はカモフラージュらしい。なにか怪しい組織の根城になっているようだと市民が気付いたのは、ここ最近の話だったという。

 ウィルはヘリから降りると巨大な扉の前で一呼吸置いた。ここからどうレイフを探し出す? もしも出会えなかったら? このままもう二度と会えなかったら?

(いや、必ず見つけ出す)

 ウィルはぐっと相棒スナイパーの躯体を握ってから歩き出した。


 しばらく周囲を探索するも、どこも人々が逃げ出した様子しかない。雑然とした世界に取り残され、ウィルは途方に暮れた。

(……レイフさんの発信情報によると、発信機があるのは確かなんだ)

 それしか信じることがない。本人の存命は、神のみぞ知るというもの。

「クソ……」

 ウィルが唇を噛み締めた瞬間、不自然なほどに光るエレベーターのランプが点滅しているのが見えた。それを見て、ウィルの頭の中にあった不安が霧散した気がした。

(そうだ、焼却施設にいる。絶対に)

 この点滅が神の思し召しにも思えた。ウィルはすぐさまエレベーターへ駆け寄り、その中へ入って、何階とも記されない「焼却施設」のボタンを押した。


 地中へ降りる間は、重力の重みを両肩に感じるようだった。やけに長く感じた。思いのほか振動は少なく、ものすごい速さで下っていく。まるで地中に吸い寄せられているようだ。

 そこでウィルは途端にクレイグのことを思い出した。高校時代クレイグとよく海へ行っては潜って遊んだ。潜るつもりがなくても、ついつい勢いで飛び込んでしまうのは海が好きだったからだ。そのときも潜るたびに地中に吸い寄せられる感じがして、どこまでも潜れそうだった。それが楽しかったのだ。それなのに、今はこんなにも怖い。そしてそのクレイグとは、もう会えないかもしれない。なのに最後、喧嘩別れをしてしまった。自分の幼稚さが苛立つ。

 ウィルは胸元のポケットから手帳を取り出した。こんな場所で死んだら、誰にも見つけてもらえないかもしれない。それでも書き残さずにはいられなかった。

 まだ到着までは40秒ほどかかると液晶には表示されている。ウィルはボールペンを取り出すと地面に手帳を押し当ててクレイグに宛てた手紙を書き始めた。

「よし、これであいつに謝ってからいけるな……」

 手紙を書き終えたら自然と言葉が零れた。そのときの感情は、例えるなら安堵に近い感情だろう。このエレベーター内の雰囲気に慣れたのか、もう怖さはない。ポーンと到着を知らせる大きな音が響いて、地中へ到着したのを知らせてくれる。

(……ここからが勝負だ)

 ウィルはぐっと拳を握ると、開き出したドアの向こうを見つめた。


 地下は最新の焼却設備が整った場所だった。噂に聞いていた焼却炉はその何ともしれない存在が不気味だった。しかし人もクリーチャーすらもいない。全員避難できたのだろうか。

 電気が落ちて薄暗い室内に、どうも陰鬱な気持ちが払えない。ジユのことを思い出しては、それに重ねてレイフのことを思う。万が一のことがあったら? レイフの腕は信じていたが、100%ないとは言い切れない。ウィルはそう思うたびに胸に手を当てて落ち着けと自身に暗示をかけるのだった。そうでなくては、また涙が出て来て立ち止まってしまいそうだ。

 ウィルはぐっと拳を握って顔を上げた。レイフに会える可能性が0で無い限り、諦める理由はどこにもなかった。


 長い廊下を進み、”セキュリティエリア”と書かれたドアを押す。どうやら誰かが先に行ったようで、そのセキュリティシステムは銃で破壊されたあとだった。落ちていた薬莢を手に取り、それが自分の持つハンドガンの弾と同じものだと確認する。

 ウィルは確かに、それをしたのが誰なのかわかって高揚した気持ちになった。

 セキュリティエリアは頑丈な防弾コンクリートで作られていた。しかしところどころに傷やなにかの染み(おそらくは血液)がついていて、ここで何かがあったことはわかる。しかし直近のものではない。普段からクリーチャーの研究に使われていたのだろうか。

 人の気配はなかったが、ゆっくり慎重に進んでいく。音の反響がひどく、有事の際音が響いて居場所がばれてしまう。

 歩いていくと、看守のためか寝泊まりするベッドのある個室が並んだ廊下に繋がった。そこでふいに、見覚えのある人影がみえた気がした。

「キャプテン……!?」

 さっきまで敵に見つかることを恐れて物音を立てないように歩いてきたくせに、大きな声で叫んでしまった。

「ウィルか!?」

 その人影が通り過ぎたところを戻ってくる。そして見えたのは、ここまで追って来たレイフの姿だった。

「キャプテン……! 会いたかった……!」

 思わずどちらともなくひしと抱き合う。その腕に込められる力は強く、その相手の思いに答えようと懸命に力を込めた。

「ウィル、どうしてここへ……」

「極東から本部へ出動要請があったんです」

「出動要請? かなり地上は悲惨な状態ということか?」

「はい。ですがうちのチームメンバーたちの応援のおかげで、かなり落ち着いていると思います」

 マルコやヴィンス、ユリシーズたちの尽力のおかげで地上も落ち着いて来ている頃だろう。殆どのクリーチャーたちは幸か不幸か、自身で起こした火災によって命を落としてしまっていた。

「そうか……ちゃんと極東のメンバーを守ってやれなかったのが悔やまれる……。自分が極東にいるときのテロだったのに、こんなことになってしまって……」

「今は後悔するときじゃない。先へ進みましょう。あなたが単独で乗り込んだということは、ここに何かがあるということでしょう?」

「ああ。ここに、オークワイオ・シティ・ビル事件の残党がいる。そして、そいつがこのテロの首謀者だ」

「オークワイオ・シティ・ビル事件?」

(確か、ヴィンスさんとエリオットさんの……?)

「なぜそれがわかったんですか」

「オークワイオのあと、エリオットが妙なマークの入ったケースを持った男たちを見たと言ったんだ。その記録もある。そのマークと同じマークが、この倉庫全体に刻まれてる」

「えっ……」

 すぐ近くにある柱にも、そのマークが刻まれていた。

(そういえば、そんな記録があったような……)

 オークワイオの事件については、それほど印象に残るものはなかった。被害者もそれほど多くなく、現場にてオズウェルとエリオットが迅速に対処したため、被害もそう大きくはならなかったと聞いている。

「なぜオークワイオの連中が……?」

「……わからんが、今は進むしかないな」

 レイフの悔しそうな横顔を見る。ここに至った経緯は後から聞けばいい。今はとりあえず、進むしかない。

「さ、行きましょう」

「ああ」

 2人は目を見合って頷き合った。2人が揃えば、もう怖いことはないとさえ思えた。何があっても、背中を守ってくれる人がそばにいる。ウィルの頬にも、レイフの口元にも、いまは笑みが残っていた。

 ウィルは横開きのドアを、開けたまま左手で固定し、右手でレイフにアサルトライフルを手渡した。その瞬間、けたたましいサイレンが館内に響き渡る。そしてウィルが支えていたドアが勢い良く閉じようとした。

「キャプテン、はやく……!」

 瞬発的にウィルはそのドアを押さえて止めた。レイフもドアを押さえてくれ、そこをなんとか通り抜ける。

「気づかれたか?」

「わかりません。ですがはやく動くに越したことはない」

「ああ、進むぞ」

 二人は並んでその場を後にした。


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