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どんな未来にも愛はある 3

 テギョンを見送り、しばらくジユと共に敵の掃討に勤しんだ。

「ウィルさんでしたね? 相当の腕の持ち主と見える」

「そんなことないさ。君は優しいな。テギョンは君の上司か?」

「ええ。まだ入隊二年目なんですが、そんな俺にずっと入隊からよくしてくれてて」

 ジユはアサルトライフルを構えながら話す。勿論ウィルもその後ろで背中合わせになりながらライフルを構えていた。

「俺はこの地に、尊敬する上司を探しに来たんだ。勿論極東支部の援護が最優先だけどね」

「まさかあのレイフ隊長のことですか!?」

「ああ、そのまさかだよ」

 残り数匹、1,2,3,4匹と目で数える。人型のクリーチャーが多く、おそらく人間にウイルスを投与し、クリーチャーにしたのだろう。

「彼は俺の憧れです。あの人の下で戦えるなんて!」

「あの人に陸軍から引き抜かれたときは、君と同じことを思ったよ。だから絶対に、あの人と生きて帰らなくちゃならない」

「レイフ隊長とあなたがいれば、BSOCの未来も明るいでしょう」

「ジユ、後ろ!!」

 こちら側の敵を一掃し、ウィルは残りを探そうと振り返る。転んだ女児を抱き上げようとしたジユの背後に、人型のクリーチャーが顔を出した。

「助かりました……」

 ウィルは同じく、ライフルでその身体を撃ち抜いた。一度その変異種は転がったものの、再度立ち上がって来る。

「クソ……これでも死なないのか……。ジユ、その子を連れてはやく逃げろ。オレは生存者をかき集めて最後に行く!」

 もう一度クリーチャーに弾を撃ち込んでからウィルは叫んだ。ようやく変異種の息の根を止められたようだ。

 ウィルは辺りを見回す。もう殆ど生存者はここにはいない。みんなテギョンとジユが連れて行ってくれたようだ。

「こちらウィル! マルコさん聞こえますか!?」

 ライフルを手にマルコへ無線を飛ばす。

”ああ、お前がライフルぶっ放した音も聞こえたよ!”

「こちらに応援をお願いします。クリーチャーの変異種を確認、おそらく人間が元だと思います。ただ、変異がかなり進んでいるので、助からない。理性はありません。大至急応援を頼みます!」

 そういいながら現れた数匹の変異種を確実にヘッドショットで仕留めていく。

”すぐに向かうよ”

「あと、オレの現在位置から海側へ1キロほどいったところにコンテナの集積所があるらしく、そこへ殆どの支部メンバーや生存者は集まっていると聞きました。負傷者がいると思われるのでそちらにデルタ、チャーリーを向かわせてください」

”わかった”

 マルコのその応答を聞いた瞬間、後ろから女児の泣く声が割れんばかりに響いて来た。ウィルが慌てて振り向く。

 そこには首と切り離されたBSOCの制服姿の死体。変異種が、血のついた刀を振り回して威嚇をしている。

「……ジ、ユ……?」

 急激に口が乾いた。変異種は何かを叫んでいるが耳にその声も届かない。

 とても長く感じたその一瞬から、女児の泣く声がウィルを現実に引き戻した。変異種の目が女児を捉える。

「……クソ……ッ!!」

 クリーチャーの脳に弾を撃ち込むとそのままウィルは駆け出した。泣きじゃくる女児をそのまま抱えて走り続ける。切られた首からたくさんの血が流れていた。自分があんな近くにいながら救えなかった。

 熱風がウィルの頬を撫でる。ウィルの目から涙が溢れた。テギョンが走って行った方向へ向かうと、遠くにコンテナが集まっているのが見える。そのコンテナの上空に、さっき自分が乗っていた輸送機が滞空している。

 ウィルがこんなに間近で人の死を見たのはこれが初めてだった。

「ウィル!! 無事だったか! ……ウィル……?」

 コンテナ集積所に入った瞬間声をかけてくれたのはヴィンスだった。ウィルが女児を降ろしそのまま膝を付いたのをみて駆け寄って来てくれた。

「大丈夫か? どこか怪我でも?」

「……い、え……」

 ウィルは顔を上げてテギョンの姿を探す。

 テギョンはユリシーズと話し合っている途中らしく、こちらに気付いていないようだ。ウィルがよろよろと立ち上がる。

「テギョンさん、……」

「おおウィル! 無事だったか! ジユはどうした?」

 テギョンは疑うことなくジユの居場所を尋ねて来る。その視線に耐えかねたウィルが、視線をそらした。

「……おいおいウィル、不吉なところで黙るなよ。な?」

 冗談めかしてテギョンがウィルの肩を叩く。だがその眼差しは、ウィルの真意を探ろうとしている。

ウィルはぐっと拳を握り込んだ。

「……オレがそばにいながら…、本当にすみませんでした……!」

「……おい、……嘘だろ……?」

「あの子を助けようとして……」

 ウィルが振り返った先にはヴィンスに寝かされている女児の姿があった。テギョンが膝から崩れ落ちる。

「あ、いつ……本当にお人好しだな……」

「……すいません……」

 ウィルの目から涙が止めどなく落ちる。テギョンはなんとか堪えようと上を向いた。

「……あいつ、最後はどうやって逝ったんだ……? 親御さんに、伝えてやりたいんだ。骨は拾ってやれないから、せめてな……」

 堪えきれず零れた涙がテギョンの頬を伝う。

「……あの、……変異種に……刀で、首を落とされて……」

 その瞬間、テギョンの表情が強張る。ウィルは俯いたまま、地面に大粒の涙を落としていた。

「……あいつは、そんな呆気なく死んだのか……?」

「……いえ、最後まで……」

「……許さない、絶対に。クリーチャーを、このテロを起こした犯罪者を……!」

 テギョンの感情が悲しみから怒りにギアチェンジした。周りはテギョンの怒りについていけず黙り込んだままだ。

「ウィル、悪いな取り込み中」

 そういってウィルの袖を引くのはマルコだった。

「……すみません、なんですか……?」

 ウィルが涙を拭いながらマルコに向き合った。するとマルコは端末を取り出して同じようにウィルに端末を取り出すよう顎でしゃくる。

「ここから約2km先の山間部に、製薬会社の倉庫とその奥に焼却施設があるらしい。かなりの高温で焼くから燃えないものはないって噂だ。HQ曰く、ここからレイフ隊長の端末の位置情報が一度、検知されたと。かなりそれから時間は、……もう2時間ほど前だな」

 マルコが腕時計を見て付けたした。マルコはウィルの端末にも同じデータを移してくれ、ウィルは自分の端末を見つめる。

「だがこんな山奥だ。ここにキャプテンがまだいるかもしれない。そんで、こんなところで何してるかって言ったら、……もうひとつしかないだろ?」

 恐らくマルコの言いたいことはわかった。レイフは首謀者を突き止めたのだ。そしてそれを追って、ここへ来たに違いない。

「あの人の手前、いまこんなことは言えないが……首謀者は殺さず裁く必要がある。ここへお前先に向かってくれないか? あの極東支部の奴らの面倒はとりあえず俺が引き受ける」

「……わかりました」

 ウィルはこちらに背を向けてユリシーズと打ち合わせを始めたテギョンを見た。完全に我を忘れてしまった瞳だ。

 マルコが頷いて、ウィルの前にその姿を遮るように入ってくれる。ウィルは振り返ることなく走り出した。


 極東支部のヘリに乗り込み、座席に着くとウィルは手を組んだ。その姿は神への祈りにも見える。機体は小さく、英語が得意ではないヘリ操縦士と二人きりの機内には何の言葉もなかった。

 少しずつ夜が近づいて来て、空が紫に染まってゆく。


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