どんな未来にも愛はある 1
「こりゃ酷い……」
「……こんなの、今までにない規模なんじゃ……」
輸送機から地上を見下ろすと、街は紅く燃え上がり焼け野原と化していた。ウィルはマルコと並んで窓から地上を見下ろす。
「……南部戦争を思い出すな……」
ウィルの隣で呟いたユリシーズは空軍時代の2年間、7年前終戦を迎えたトリステル合衆国と南部の戦争を経験している。
「……この中から、どれだけの人を救えるでしょうか……」
ウィルの呟きは、輸送機の揺れる音に消えた。
「ウィル、バイロンさんが呼んでるよ」
ヴィンスに呼ばれ、コックピットに向かう。バイロンはコックピットのドアが開いたのに気づくと真っ直ぐ前を見たまま地上を指差した。
「あそこが極東支部だ。見ての通り、あそこに着陸するのは難しい」
バイロンは熟練のパイロットだ。そしてレイフの空軍時代の先輩でもある。
「……ええ」
「あっち、あそこなら着陸できるが、およそ支部からは2kmあるな。目測だから正しいか知らんが」
指を指したのは山間にある学校の校庭だった。もうおそらく今後、この事件のせいで使うことはないだろう。
「……レイフとは連絡ついてるのか」
「……いえ、それが……」
「わかった。とにかくあそこに着陸するから、5分後までに準備を整えておけ」
「わかりました。ありがとうございます」
ウィルは一礼するとドアを閉めた。そして機内に向けてアナウンスする。
「これより5分以内に着陸する。体制を整えて着陸態勢に入れ!」
みな自分の体をベルトで機体に固定する。普段はヘリでの移動が多いが、今回は遠方だったため年に一度あるかどうかの輸送機の移動となった。そのため各自がきちんと着陸態勢に入れているか、不備はないかをウィルは目視で確認する。
ランプが赤く点灯し、機体に大きくGがかかった。
「これより救助・支援をデルタとチャーリーに、侵攻・鎮圧をアルファとブラヴォーで行う。デルタとチャーリーはヴィンスさん、指示を頼みます」
「ああ。ブラヴォーとチャーリー、こっちに来てくれないか!」
アルファ、ブラヴォーとデルタ、チャーリーに分かれて円になる。
「まず第一に、無茶はしないで下さい。これだけの惨状だ。自分たちが無茶をして助かる人が一人増えるかどうかも怪しい。いくら鎮圧を目的としていても、絶対に捨て身なことはしないで下さい」
メンバーたちが深く頷く。まさかウィルは、自分が代理で指揮を取るこの2週間にこんな大規模なテロが起こるとは想像もしていなかった。だからこそ、ピンチを乗り越えるための結束を持たなくてはならない。
「チームは全体で4つに分ける。アルファ2とブラヴォー1は協力して極東支部を目指し、武器の調達を。アルファ1とブラヴォー2はオレと一緒に街の鎮圧に向かいます」
レイフのように堂々と、指揮を取ることは出来ない。時々混じる敬語はそれと動揺の表れなのだろう。だが、怯んだところを見せてはならない。ブラヴォーはまだエリオットが抜けて不均衡な状態だし、ロブの表情を見る限り、いまは恐怖の方が勝っている。
「ロブ、お前はブラヴォー1だったな?俺について来い。絶対に離れるな」
「はい!」
恐怖を堪えてロブが大きく返事をした。ウィルはロブを安心させるために口角を上げて頷く。
「その他のメンバーも絶対に連絡を怠るな。ここで誰一人失うつもりはない。キャプテンも連れて、全員で生還するんだ」
街の火事に照らされたウィルの横顔は赤く燃えていた。




