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最長距離の遠回り 3


「すみません、遅くなりました」

「おおウィル、お疲れ様」

「おつかれさん」

「いつも悪いな」

「いえ、隊長のためならお安い御用です」

 会議室にはすでにクレイグとレイフが揃っていた。2人とも雑談をしていたようだが、すでにテーブルには資料が並んでいる。

「それで、そのことなんだが……」

「なんです?」

「実はさっきクレイグ君には言ったんだが、今度の偵察の前に国際パーティがあるんだ。それにも出席しなくてはならないらしい。それがもう今週末の話でな」

「えっ、もう3、4日しかないですよ?」

 ウィルは壁のカレンダーを見る。今日が火曜日、週末といえば土日だろうがそれでももうスケジュール的に余裕はないだろう。

「そうなんだ。だから困っていてな。布石を打つためにもそこで少し極東の件についても話したいと思っている。それで、……どちらか、それについてきてくれないか? もちろんHQも主催者側にも了承は取れてる。人前に出て話すようなことはしないと思うが、パーティで色んな人と交流はしてもらうことになると思う」

 ウィルとクレイグは顔を見合わせた。だがすぐにウィルがその視線を外し、レイフに向き合う。

「そういう専門的な場には、やはりオレよりクレイグのがいいでしょう。最も世間が聞きたいウイルスの話などは、オレからするよりクレイグからした方が──」

「あー、俺はそういうパーティとか無理ですよ。それに、戦線で戦うアルファの隊長と補佐が行く方が、喜ぶんじゃないでしょうかね」

 クレイグは真っ向から否定した。そして言葉に詰まるウィルに少し笑う。それを見てレイフが眉尻を下げた。

「……ウィル、一緒に来てくれるか? 1人じゃ心細いんだ。HQにわがままいってどちらか連れて行けることになったし、……まあ俺と2人でというのも気が進まない原因かもしれないが……」

 どうやらさっきのウィルとクレイグのやりとりが、どちらもいきたくなくて言い合っているというようにレイフには見えたらしい。それを理解した途端に、そんなレイフが可愛く思えた。

「あ、いえ、そういうわけじゃないんです! あー、えっと、オレ行きます! 行きたいです!」

「ホントか!」

「ええ勿論。医療系のことも勉強します、これから」

「ありがとう、本当に助かるよ!」

 勢いで握手し合う2人をクレイグが笑いを堪えながら見ている。もちろんそれから、毎日の会議の時間が伸びたのは言うまでもない。



”ウィル、悪い。レイフ隊長との会議、間に合いそうにない”

「どうしたんだよ?」

 訓練終わり、いつもの会議室に誰より早く着いて勉強をしていたウィルの元に、クレイグから電話がかかって来た。その声からは疲労が滲んでいる。

”ウイルスの培養に失敗したグループがあってな。そこの手伝いに駆り出された”

「そうか……わかった。じゃあオレからキャプテンに言っておくよ」

”悪いな。頑張れよ”

「ああ。じゃあな」

 電話を切って時計を見る。もう予定から10分も過ぎているのにレイフからは連絡がない。

 ウィルはレイフの番号を呼び出し通話ボタンを押した。

「あ、もしもしキャプテン?」

”ああ、ウィルか、どうした?”

「いや、あなたが来ないので……」

”……もうこんな時間だったのか! すまない、ちょっと野暮用があって遅れそうだ……あ、すまないついでにちょっと頼みがあるんだが……”

 レイフの声の反響具合からいるのは室内のようだ。しかも雑音がないところを見ると自室や会議室の狭いところに2人でいるらしい。

「なんです?」

”俺の部屋に、来てくれないか?”

「わかりました。すぐ行きます」

 ウィルは電話を切った。そして画面を見て通話が切れていることを確認した。

「はあー、もう、キャプテン……そんな無防備に……あー、もうだめだオレ……」

 大きなため息と同時にもれた。もう本当に自分はレイフにベタ惚れだ。時折うっかりしているところも、戦場では誰より強くてしっかりしているところも大好きだ。もちろん会議などのときはしっかり理性的にやってはいるが、一緒にいられるのは本当に嬉しいと思う。

 ウィルは立ち上がった。部屋に来てくれなんてどんな用だろうか。

 会議室には冷房を入れていたから、廊下がひどく蒸し暑く感じた。会議室からレイフの部屋へ向かう途中、医療チームの前を通るとガラス張りの向こうでクレイグが懸命に作業しているのが見える。クレイグがふとこちらに気づいて顔を上げた。ウィルが口パクで頑張れよ、という。クレイグは手元を動かしながらも任せろと返してくれた。ウィルは笑ってその場を去った。


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