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君が大人になってしまう前に 10

"チャーリー1、こちらいま着地。ターゲットへ向かいます"

 ザザ、という無線のノイズが耳に障る。ヴィンスの声は無線の音になじみやすいらしく、少し聞きづらい。

"チャーリー2、こちらも着地しました。これから侵攻を開始します。"

 立て続けにチャーリー2、ウィルからの無線も入った。それを聞き、レイフはパイロットであるバイロンに目配せをする。空軍時代からの付き合いは伊達ではない。バイロンは何も言わず頷き、着地地点を探すためレーダーに触れた。

"それにしても、ここのところバイオテロが多いですね"

「ああ」

"地図に落としてみても場所も定まらないし、規模は小さい。愚弄されてる気分になります。何かの陽動と考えるのが妥当でしょうか"

 無線から、ウィルの困惑や憤りの入り混じった声がため息とともに聞こえてくる。ウィルがチャーリーに移ってから半年と少し経った。いまはチャーリーのキャプテン補佐としてヴィンスとともにチャーリー2を率いながら、隊の動かし方を勉強しているのだ。

 いつもウィルを遠くから見ていて、入隊した頃よりも笑顔が増えているのがわかる。冗談で場を盛り上げるようなタイプではないが、その豊かな感性とユーモア、高い協調性で今やすっかりチャーリーにも馴染んでいるようだ。

 もちろんヴィンスのおかげというのもあるだろうが、ウィルが人格者で良かったと思う。そうでなければチャーリー2を率いらせるのに対して他の隊員から不満が出かねない。誰もがウィルの努力と人柄を信頼しているからこそ安心してチームを任せられるのだ。

 しばらくレイフとの距離を取り、エリオットやヴィンスと親交を深めていたようだが、日々の成長ぶりを見ているとそれだけでレイフは満足だった。自分の引き抜いてきたのが正解だとわかったこと、そして単純に世界の安全に寄与してくれるメンバーが増えたことが嬉しかった。

「そうだな、そうかもしれん。とにかく今は目の前のことに集中しよう、それを考えるのは帰ってからだ」

"かしこまりました"

 無線が切れ、レイフは現在地を示すレーダーに視線をやる。

「アルファ2はどこで降ろす」

「そうですね、この先に空きテナントばかりのビルがあるから、そこはどうでしょうか」

「わかった」

 バイロンは静かにうなずいた。

「それにしても、アレは逞しくなったな」

 アレ、というのはウィルのことだ。バイロンには陸軍からのスカウト前から色々と相談していたから、バイロンなりに気にかけてくれているのだろう。

「ええ。そのうち俺の席を譲るつもりです」

「アレが許すか」

「すぐには無理でしょうが、わかってくれるはずです」

「それなら俺が許しちゃいかんな。お前には俺より長く務めてもらわんと」

 バイロンの声は重厚で、耳の奥まで染み渡る。かつては空軍で隊長と隊員の関係にあった二人。バイロンの操縦技術は当時の空軍の誰をも凌いでいて、右に出る者はいなかった。

 そして戦闘能力の秀でたレイフはバイロンに説得され、戦闘に特化した特殊部隊へ移る。そこで現在のBSOCからオファーを受けたのだった。

「いいえ、俺はあなたに長く生きて頂きたい」

「俺みたいな老いぼれは早く死んだ方が世間様のためだ」

「そういうことを軽々しく言わないでください」

「ハハハ。こうは言っても俺は死なんさ。誰かのように無茶はせんからな」

「俺だってあいつらを一人前にするまでは死ねませんよ」

 当時BSOCはまだ軍隊としての機能が弱く、レイフが移籍してすぐにパイロットだけを集めた特殊チームを創設するという話が持ち上がった。

 まだ本国―このトリステル合衆国にしかない―生物兵器対策組織にとっては、守る世界が広すぎたのだ。

 隊員に操縦桿を握らせては戦闘時、自由に動ける駒にならないということも多々あった。

そこでレイフはバイロンに頭を下げ、このBSOCへの移籍をお願いしたのだ。

「それも遠い未来じゃなさそうだがな。まあ、身体が持つだけ続けろ」

「あなたにそう言われちゃ断れません」

「俺より先に死ぬな、これも命令だ」

「わかってますよ、あなたもね」

 部隊チーム全体の総隊長であるレイフが率いるアルファは部隊の中枢となる戦闘用チームで、その補佐がエリオットの属するブラヴォー、隊長はマルコ。

 そして索敵・救護の役割を担うのがヴィンス率いるチャーリー、そしてその補佐兼衛生部隊であり多くの新人が最初に配属されるのがデルタだ。

 それぞれアルファとチャーリーは12名、ブラヴォーが10名、デルタは8名の隊員で構成されており、それぞれが2チームに別れて行動することが多い。

「レイフ隊長、準備が出来ました」

 アルファ2を率いるキャプテン補佐のデールが、背後からレイフに声をかけた。

「わかった。じゃあバイロンさん、お願いします」

 バイロンは再び着陸ポイントを見定めるためレーダーに視線をやった。その間にレイフもコックピットを出て隊員の元へ向かう。

 みなレイフの顔を見て、引き締まった表情になった。

「アルファ2、油断するな。お前たちの実力は信じているが、戦場では実力でないところも試される。……だから迷ったら逃げていい。勿論俺たちの任務はテロの鎮圧だが、それをお前達が死ぬ理由にしてはならない。絶対にだ」

 みな深く頷き、レイフの瞳を見た。

「じゃあ、合流地点で落ち合おう。デール、頼んだぞ」

「はい」

 レイフはデールの肩をポンとたたく。それに応えるようにしてデールが頷いたところで、ちょうど輸送機が滞空状態になった。

「ポイント3でチャーリー1、チャーリー2と合流だ。距離としては長くないが、一時も油断はするな」

「はい」

 ロープを降りていく隊員たちを、レイフは見送った。


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