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記憶と夢の珈琲店 -A.I cafe Luminous-  作者: 寶井かもめ
第十四話 「ソラに咲く花、ミライへの祈り ― メモワール・ブリーズ」
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「ソラに咲く花、ミライへの祈り ― メモワール・ブリーズ」 ep.7-7


 ◇


 ――さらに数日が過ぎたある日の午後。病院の自動ドアが開く。


「……お母さん、ありがとう。本当にごめんね」


 花音はふらふらとした足取りで涙を滲ませながら、母親の肩に掴まりようやく歩けるような状態だった。


「……いいのよ。お母さんこそ、ごめんなさい」


 外に出た瞬間、花音の肌にやわらかな風が触れた。陽は高く、真っ白な雲がいくつも流れていた。車通りの少ない通り沿いには季節の草花が揺れていて、ビルの谷間から差し込む光はどこまでも穏やかだった。


 大きく息を吸い込むと、鼻先を通る空気がほんのり甘く感じられた。何の香りかはわからない。ただ、「生きている」と思えた。


 足元には影が落ちていた。花音自身の影――けれど、かつてよりも少しだけ背筋を伸ばしている気がする。


 後悔するほど何かを決めたわけじゃない。まだ、何も。


 でも、自分で歩いてここに来た。それだけで、ほんの少しだけ世界との繋がりを取り戻した気がしていた。


 空を見上げると遠く飛行機雲が引かれていた。その白い線はどこまでも真っ直ぐで、そして少しだけ滲んでいた。


 花音はゆっくりと目を閉じる。そして、お腹に手を添える。そこに命があったかもしれないという事実。その重さをようやく真正面から抱きしめるようにして――。


「お母さんに、今度紹介したい人たちがいるんだ」


「そう、どんな人なの?」


「私を助けてくれた人たち。それに、誰よりも優しい“心”を持ったAIだよ」


 母の手がそっと花音の手の上に重なる。


「……会ってみたいわ、その人たちに。花音がお世話になったお礼を言わなくちゃ」


 花音は目を細めて微笑んだ。


 風がやさしく吹いていた。


 花音の髪を撫でるように、確かな未来の気配を連れて。


 太陽に照らされた花がきらめいている。


 小さな蕾が静かにほころび始めるように――心はまだ揺らいでいた。


 けれど、あの日ルミナスで交わした言葉たちが、花音の中で確かに根を張っていた。



【本日の一杯】


◆メモワール・ブリーズ──「記憶と呼吸を、そっと整える風のように」


産地:眠葉のねむりばのおか風がやさしく草木をなでる、穏やかな丘陵地帯。記憶の風が吹くと言われるこの地で摘まれる、月明かり育ちのハーブたち


素材と製法:レモンバーム、カモミール、リンデンの繊細なバランスに、ほんのわずかなバニラの香りを添えて。低温でじっくりと抽出し、香りと効能を最大限に引き出す「ブリーズ・インフュージョン製法」


香り:安らぎを誘う、優しい草原のような香り。ほのかに甘く、胸の奥に懐かしさを残すバニラの余韻


味わい:口に含んだ瞬間、体がふっと軽くなるような穏やかさ。心のざわめきを洗い流し、静かな呼吸へと導く


ひとこと:「選び取った道の先に、正解はないのかもしれません。けれど、心が覚えている限り、その灯はきっと、未来のどこかで、また輝きを放つでしょう――旅の終わりに。あるいは、旅のはじまりに。そして、その光がまた、誰かのはじまりを照らしますように」



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