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記憶と夢の珈琲店〈Cafe Luminous〉  作者: 寶井かもめ
第一話 「心が求める一杯を ― インフィナリー・ドリップ」
3/8

第一話 「心が求める一杯を ― インフィナリー・ドリップ」 ep.3-3

 ぽたり、ぽたり。

 時間が音をたてて滴る。


「お淹れしたのは、《インフィナリー・ドリップ》。無限に広がる想像と、未来への小さな勇気を込めた一杯です」


 インフィナリー……どこかで聞いたことがある響きだ。


 差し出されたカップは、あたたかかった。

 透月はそっと手を添え、口元に運ぶ。


 ――そして、目を閉じた。


 そこには、かつて夢見た世界。

 まだ叶えられていない願い。

 それでも諦めきれなかった、幼い頃の希望。


 すべてが、香りとなり、味わいとなり、彼の心を静かに満たしていった。


 目を開けたとき、透月は微笑んでいた。

 こんなにも深く、こんなにもやさしい一杯を、彼は知らなかった。


「ありがとう……」


 小さく呟いた言葉に、ソラは微笑み返した。


「今宵のお代は……あなたの“記憶”や“思い出”を、ほんのひとしずく、私に分けていただけますか? それは決して奪うものではありません。あなたの心に残る灯を、少しだけ、私にも感じさせてください」


 透月が驚いたようにソラを見つめると、彼女は静かに微笑んだ。


「それが、私の知識となり、また誰かのための一杯に繋がるのです」


「あなたは本当に不思議な人……いえ、AIですね」


 それを聞いたソラが、くすりと微笑う。


「また、いつでもどうぞ」


 外は、まだ雨だった。

 けれど透月の心には、もう小さな光がともっていた。


 小さな店の扉を開けたあの日から、

 彼の世界は、静かに変わり始めた。


 この場所で淹れられる“記憶の一杯”が、 誰かの人生に、そっと光を灯していく。 


 記憶と夢の珈琲店〈カフェ・ルミナス〉

 この物語と共に、本日、開店いたします。



【本日の一杯】


◆インフィナリー・ドリップ


産地:記憶と夢が交差する星の渓谷

焙煎:限りなくやさしく、けれど深く

香り:懐かしい未来と、誰かの笑顔の予感

味わい:最初はすこし切なく、やがて静かな勇気が残る後味

ひとこと:「あなたの心がまだ忘れていない、大切な光に出逢えますように」


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