「ビター・スウィート・カフェ ― オーロラ・ブレンド」 ep.4-4
◇
数日後。晴れた午後のこと。春樹は並んで歩く彼女に向かって、明るく声をかけた。
「ねえ、美味しいコーヒーのお店、見つけたんだ。行ってみない?」
彼女は少し驚いたように立ち止まり、春樹の横顔を見つめる。
「えっ? コーヒーって、お豆屋さん?」
「違う違う、カフェだよ」
春樹が苦笑しながら言い直すと、彼女は小首を傾げた。
「でも春樹くん、コーヒー苦手だったんじゃ……ごめんね、私、気づかなくって」
「ううん、もう大丈夫さ」
春樹は、ふと空を見上げた。
高く澄んだ空に、白い雲がぽっかりと浮かんでいる。肩を並べて歩く足取りは、どこか軽やかで、春風のように心地よかった。
二人の会話は、やわらかな風に乗って、午後の街へと溶けていく。
春樹は、彼女の手をやさしく引いた。
胸にはほのかな希望を秘めて、あの小さな喫茶店へと駆け出していた。
ふたりで、同じ味を分かち合うために。
今度こそ、君の隣で、同じ温度のカップを――。
【本日の一杯】
◆オーロラ・ブレンド
産地:月影の谷――夜と朝が溶け合う高原の地で育つ、光を宿した実り
焙煎:蒼明の焰焙煎――淡い光でやさしく炙る、特別な浅煎り製法
香り:果実のようなやさしい甘酸っぱさと、白い花を思わせる清涼感
味わい:心にやさしい朝日が射すような味わい。苦味はほのかに、軽やかな酸味と柔らかな甘みが心に寄り添う
ひとこと:「“苦手”という記憶に、そっと新しい意味を灯してくれる一杯です。少し勇気を出して向き合えば、心もまた、やわらかく変わっていくのかもしれません」