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記憶と夢の珈琲店〈Cafe Luminous〉  作者: 寶井かもめ
第七話 「再出発の音色 ― シュクレ・セレナーデ」
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「再出発の音色 ― シュクレ・セレナーデ」 ep.3-5

 数日後——、再びルミナスにアケミが訪れていた。静かな午後のカウンターで、ソラと穏やかに談笑している。


「でもさ、ミルクティーって不思議だよね。甘いのに、なんか切なくなるときがあるっていうか」


「それは、アケミさんの心に、何か甘くて切ない記憶があるからかもしれませんね」


「なにそれ……うわ、今のちょっと沁みたかも」


 アケミが笑いながらカップを傾けたとき、扉の鈴がもう一度鳴った。


 ソラがそっと顔を上げる。


 そこには、あの日と同じように、長い髪でそっとうつむいた少女の姿があった。


 ——このか。


 肩から小さなトートバッグを下げている。今日は、その肩を預けられる人もなく、ひとりだ。


「いらっしゃいませ」


 ソラはいつもと変わらぬ、けれどどこかやさしさの滲む声でそう告げた。


 アケミが驚いたように振り返る。


「……あっ、あのときの子……!」


 このかは少し戸惑ったように足を止めたが、すぐにソラのやわらかな微笑みに安心したように、小さく会釈した。


「今日は……おひとりですか?」


 問いではなく、確認するようなその言葉に、このかはほんのわずかに頷く。


「……家にいると、お母さんが……すごく心配するから。できるだけ、出かけるようにしてて……」


 その声はか細いながらも、自分で選んだ言葉だった。


「クラスの子には、会いたくなくて。だから、人通りの少ない道を歩いてたら……ここに来てて……」


 アケミがふわりと笑みを浮かべた。


「うん、それ正解。ここは、ちょっと休むにはぴったりの場所だよ」


 ソラもそっと目を細める。


「ようこそ。ご無事にたどり着いてくださって、嬉しいです」


 このかはかすかに微笑み、入り口の近くで少しだけ迷った末、前回と同じ窓際のテーブルへと歩き出した。


 その背中には、誰にも気づかれないくらい小さな、でも確かな決意が宿っていた。


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