第6話 仲間
〜あの日の前日〜
「明日に決行するのか?あの作戦を」
「ああ、話した通りだ。頼んだぞ?シュルツ」
まったく。心配性で計画性が高すぎるやつだ。もっと戦いには大胆にいかなくてはならない。シュルツの戦い方は綺麗すぎる。
「標的は副団長の男だな?」
まただ。質問が多い。徹底しすぎている。
「だからそうだと言っただろう?明日になれば分かる。そんな質問する意味はない」
「戦いには計画性がなくてはならない。計画性がない戦いは戦いではない。ただの衝突だ」
「ハッ。くだらねぇ。計画性のある戦いに面白味なんてねぇ」
「面白味なんてなくていい。私たちはあの方からの使命を成し遂げるだけなのだから」
あの方?魔王様のことか?でも魔王様ならなんでわざわざあの方なんて言い方は…
「まあとにかく明日は頼むぞ?」
「ああ、五大官の二として為すべきことを為すさ」
さて、どう伝えようか。魔王城からマルクスへと戻ってきた俺は悩んでいた。そしてどうするか決めるわけでもなく俺は家へ帰った。行く前に出ていた三日月は雲に隠れて月明かりもない夜だった。
「ただいまー」
「おかえりートウヤー」
「ちょうど良かったトウヤさん。今みんなでピザを食べようと話していたんです」
「っ………」
出かかった言葉が喉の奥へ引っ込んでいった。ここで言うべきだったのかもしれないが、俺は言い出す事はできなかった。アンデットらしからぬ人間の理性が邪魔をしたのだろう。
「食べようか」
「よし!じゃあ俺はチキンとポテトのピザで」
「私は……トウヤさんはなにがいいですか?」
「じゃあ俺はトマトのやつで」
「それじゃあ私は余りのベーコンのやつで」
そして俺たちは特に当たり障りのない会話を楽しみながらピザを食べた。
「ふー。お腹いっぱいだー」
「おいしかったですねー」
二人はピザを食べ終えてとても満足そうだ。
「トウヤー洗い物しとくぞー」
「ありがとう」
部屋には沈黙が流れ、洗い物の水音だけが流れた。時計はもうすぐ1時を指そうとしている。
「なあ、一ついいか?」
何も考えずにただ言葉だけが出てきた。
「どうした?」
言葉を発するのに躊躇いが生まれた。この空気を壊したくなかった。
「何かあるなら言ってくれトウヤ」
リューニー…
「実は……」
諸々の話をしたあと、二人は黙ったまま下を向いていた。初めに口を開いたのは意外にもカンレだった。
「倒すんですか?戦うんですか?シャラクと」
なぜそんなことを聞く。戦うしかないだろと思いながらおれは聞き返した。
「戦う以外の選択肢があるのか?」
「いえ…それは…。でも、戦うことがどれだけ危険でどれだけ過酷なのか、それは分かります!リューニーが勝てなかった五大官のうちの一人となれば、一筋縄ではいかないと思います」
「なあ、トウヤ。一つ聞きたい。シャラクの強さはシュルツと比べてどうなんだ?」
カンレの言葉を聞き、シュルツのことを思い出したのだろう。かつて手も足も出ずに敗北した相手と比べるとはなかなかなことだ。
「そうだな、はっきり言ってほとんど変わらない。シャラクの方が戦い方が荒々しい分少しだけ劣るかもしれないが大差ない」
「そうか…」
戦いのことを思い出し、リューニーは悩んでいた。しかししばらく経ったあと、リューニーは覚悟を決めた。
「戦おう」
「「!!」」
「本当に言っているの?リューニー!相手は五大官よ!?」
「カンレ、俺たちが戦わなかったら戦うのは騎士団だ。団長がいなくなり混乱を極めている騎士団が戦って勝てるはずがない。被害を最小限に収めるには俺たちが戦わないといけない」
「………」
「リューニーが言っているのは正論だ。でも、簡単じゃない。死ぬ可能性だって大いにある。それを覚悟してでもやるのか?」
「やるよ。どうせ騎士団にいても同じことになってた。俺はどこに行こうとこういう生き方をするんだ」
「リューニー…」
カンレは少し心配そうな、どこか悲しそうな表情でいた。俺よりもリューニーのことをずっとカンレは分かっている。いや、理解してしまっている。リューニーのことを想ってしまっている。それ故の表情だろう。でも。
「カンレが思うほどリューニーは無力じゃない。いや、カンレが心配する必要がないくらいリューニーは強い。支援魔法を使わずともあの森の一部を占拠できた。カンレ。リューニーの決断を応援しよう」
「でも危険ですよね!?リューニーにもう苦しい思いは…もう……」
「大丈夫だよ、カンレ。俺は負けない。もう、半端な戦いはしない。全力でやって、勝ってみせるよ」
そう言ってリューニーはカンレを抱きしめた。俺には近づけない、友情、絆、そして愛情で二人ははっきりと決断を下した。この二人には、アンデットの俺には辿り着けない関係性がある。この二人なら乗り越えていける。そう感じた夜は暖かな朝日に照らされ明けていった。