第21話 破綻
「君は僕が相手をするよ。シャラクとあの男の子とは因縁があるみたいだからねぇ」
ウルネーヴはそう言うと、シャラクとは逆の方向に移動し、こちらに来いと言わんばかりに佇んだ。
「ロイ、リューニー!二人はシャラクを相手してくれ」
「了解だ、トウヤ」
さて、と。やるか。俺はウルネーヴの方へゆっくりと近づいた。
「早く来てよぉ、遅いなぁ」
「警戒せずに敵のところに行くやつがいるかよ」
「丁寧なもんだねぇ。ならもっと警戒しないと」
ウルネーヴは隠し持っていたナイフを投げ、俺の真上の木の枝を切り落とした。何のつもりだ?と、考えると同時に気がついた。枝に張り付く無数のデコイたちに。
「お前っ」
間に合わない。直感でそう感じた俺は、結界を張りダメージを最低限にすることに神経を注いだ。
バァァン
「やっぱりそうなんだねぇ。君は」
何とか無傷で切り抜けた俺に、ウルネーヴは不気味な笑みを浮かべ、そう漏らした。
「何がだ」
電撃魔法で近くのデコイたちを処理しながら聞いた。
「君、やっぱりテルペトだろ?僕の目は誤魔化せないよ。その戦い方、その魔法。全て僕が昔に見た豪嵐のテルペトの戦い方そのものだ」
「何言ってんだお前。アンデットがアンデットを殺すわけがないだろう?」
なぜバレた?なぜ勘付かれた?これまでの戦いが頭の中を巡った。風がいつもより冷たく背中に吹き付けた。
「実はさ、この前君たちと接触したオルターが教えてくれたんだよねぇ。あの男、テルペトかもしれないってね。あの子も称号を手にするために必死なんだよ。曇天のウルネーヴ、みたいに。そのために情報を僕に渡して称号の条件の人間の死体1万体を分けてもらおうとしてねぇ」
「何言ってるんだよお前」
「無駄だって。もうバレてるんだから。魔法エネルギーの流れが揺らいでいるよぉ?」
勘の鋭いやつめ…こうなったら一つしかない。
この場で、跡形もなくこいつを始末するしか。
俺は全力の魔法エネルギーを込めて、
電撃魔法を奴に放った。奴の片腕が吹き飛んだが、
それは直ぐに再生した。
「本気でやる気ぃ?そっちがそうくるならこっちも本気でやるよ」
ウルネーヴは一歩後ろへ下がり、デコイを大量に放った。一体一体と相手しながらウルネーヴへの攻撃の機会を伺うが、なかなか余裕ができそうに無い。
一体一体使う魔法の属性が異なり、対処に苦労する。あいつ、魔法の腕を上げてやがる。
バァァン
「っ!!そう上手くことは進まないよねぇ。君は、五大官の一の座に君臨するアンデットなんだから」
俺は電撃魔法で周りのデコイを一掃し、少しずつ、奴との間合いを詰めていく。
「もうちょっと、この子達と相手しといてね」
再びデコイを放たれたが、さっきの奴らとは違う。与えられているエネルギー量が違うし、魔法の質も上がっている。
一体一体に電撃魔法の光線を撃ち込み処理していくが、全ての攻撃を避け切ることはできず、少しのダメージを受けつつ着実に全員を倒した。
それと同時にウルネーヴにも魔法で雷を撃ち込み、電撃魔法を雨のように浴びせ続けた。これぐらいやったら少しダメージを与えられたか?
「わかったよ。このままデコイ達に戦わせ続けてもジリ貧だし、僕が直々に戦うよ」
「自慢のお人形達はもう終わりか?お前の取り柄はその魔法じゃないのか?」
「いつの僕で情報が止まってるの?テルペト。僕自身も、戦えるんだよ」
途端、俺の周囲を炎が囲った。炎魔法?無属性の独自のデコイを生み出す魔法の他に、炎魔法も鍛錬していたのか。いや、それどころじゃないな。
案外面倒な戦いかもしれない。俺は水魔法で炎魔法を打ち消し、電撃魔法で嵐を生み出し、最大出力で雷を浴びせ続けた。
「無駄だよ。それはもう見た」
ウルネーヴが腕を振り払うと、嵐は止み、雷が止まった。何だ?今のは。魔法のキャンセル?見たことがない現象に戸惑っていると、炎魔法が再び飛んできた。
「集中しなよ。殺すよ」
「偉そうな口を叩くようになったな」
再び電撃魔法を浴びせるが、奴が腕を振り払うと全て無に返される。
俺は電撃魔法をやめ、水魔法で水を圧縮し、高速の弾丸のように奴に打ち込んだ。すると、鈍い音が響き奴の体に穴を開けた。
「バリエーション豊富なんだね。君は」
さっきから打ち込んでいた高火力の電撃魔法は最初の一発以外は無傷。そして今打った水魔法は体を貫いた。と言うことは…。
「分かった。お前の能力。一発打たれた魔法を無効化する能力だ。打たれた魔法のエネルギーの流れを覚えて、そのエネルギーの流れを無に返す。無にエネルギーを注ぎ込むデコイと逆の動きをすることでそれを可能にしているんだろう」
「違う、と言っても意味がないしね。そうだよ。僕は一度受けた魔法を無効化できる。からくりは完璧に言った通りではないけど、僕以外に言っても理解できないから言わない。デコイを生み出すこの魔法をアンデットとして獲得した僕にしか使えない能力だ」
そう言いながらデコイを自身の周りに展開し、自身も炎魔法の準備をする。だが、能力が分かればこちらのものだ。
電撃魔法を半円形に前方に放ち、デコイを処理すると、右手で電撃魔法のエネルギーを溜める。
「もうその魔法は見た!属性が同じでも技の種類が違えば少しはダメージが入るかもしれない。だが、その程度で僕に致命傷など与えられない!」
ウルネーヴは叫びながらこちらに炎魔法を放ってくる。俺はそれを左手から水魔法で迎撃し、水魔法のエネルギーを溜め始めた。
「知ってるか?ウルネーヴ。魔法を組み合わせると言う技を」
「魔法を組み合わせるだと?」
困惑した様子で、ウルネーヴの動きが一瞬乱れる。
「そう。魔法を組み合わせることで、元の魔法とは性質もエネルギーの流れも全く異なる魔法が生まれる。複合魔術。そう呼ばれる上級魔法だ。そしてそれは、組み合わせる前の魔法の総エネルギー量の2乗になる」
「君、やるつもりか!させない」
ウルネーヴが一気に間合いを詰め、炎魔法を連発するが、それよりも早く魔法を打ち込んだ。
「受け止めてみろ!俺の全力の魔法を!」
放たれた魔法は、水飛沫を纏った光線のようで、目の前の障害物を薙ぎ払い、ウルネーヴに直撃した。
光線は轟音と共に、森を真っ直ぐに進み、瞬きすると目の前に右半身を貫かれ、崩壊が始まっているウルネーヴがいた。
「負けたよ。完璧に。さすが豪嵐のテルペトだ。僕の、五大官の二に上り詰めた僕の遥か上に存在している。でもね、君はもう…終わりだ。じきに…正体はバレる。今頃魔王様は…君を殺す策略を…立ててる。裏切り者が…微笑む世界は…存在しないんだよ」
「裏切り者?俺は勝手にアンデットにされただけだ。自分からこのコミュニティに入ろうなんて思ってない。それに、魔王とはいつか戦うんだ。ここで五大官二体倒して、魔王軍の戦力削ればこっちの思惑は全部うまく行ったようなもんだ」
そう話した後、ウルネーヴは崩壊して塵となった。しかしどうしようか。魔王にじきにバレるとなれば直接対決は必至。
あちらの作戦を知ることももうできない。今まで慎重に進めていた計画も、こうなってしまってはもう意味がない。
この状況を一番恐れていたのに…。早くも最終局面になってしまったな…。
まあひとまずはロイとリューニーの無事を祈り、シャラクを倒しにいくしかない。魔王…。思い描いた盤面とはかけ離れてしまったが、ここで潰してやる…。
そう覚悟を決め、轟音が鳴り響く方向へと月明かりを浴びながら残った力を振り絞り歩き出した。




