第20話 正体
「一体どうなってるんだ?ガルテを倒したと思ったらまた五大官が来て。あまりに集まりすぎじゃないか?」
宿に着くや否や、ロイが俺に聞いた。確かに異常だ。
今まで長く戦ってきたが、五大官がこんなにも頻繁に来ることはなかったし、ガルテと遭遇すること自体初めてだった。明らかに、魔王軍の動きが活発になっている。
「現状言えることは何もない。とにかく、次の戦いに備えていてくれ」
「また、来るのか?五大官が」
リューニーが口を開いた。今のリューニーに戦えと言うのは酷かもしれない。だが、俺たちの目的が魔王の討伐。ここで止まる訳にはいかない。
「来るとは断言できない。だが、恐らくこのままいけばいつかはまた戦うことになる。やれるか?」
「ああ。覚悟はしている。はっきりと分かった。魔王軍は人間の敵だ。母さんをあんなふうにしておきながら、平然として俺たちを殺しにかかってくる。殲滅すべき生き物だ」
「頑張ってくれ。リューニー」
俺に言えることは、それしかない。
カンレは依然黙ったまま、下を向いていた。ここ数日ずっとこんな様子だ。戦いでも以前のような動きができていない。
「カンレ、大丈夫か?」
「……え?あぁ。大丈夫ですわ」
「…まあいい。まだ日も落ちていないが、少し休もう。食料は棚に缶詰があるから腹が減ったら食べてくれ」
そう言って、俺はベッドで少し横になり、頭を整理した。魔王軍の動きは、以前よりも活発に活発になっているし、五大官も動いている。
早いとこ魔王城まで攻めこまないと、奴らにどんどん支配されていくかもしれない…。そんなことを考えているうちに時間は経ち、夜中になってしまった。
三人とも寝静まり、街は暗闇に包まれた。暗闇の街を眺めていると、俺たちの部屋の前に、足音が近付いてきた。来客?いや、こんな夜中に来るはずは…
ガチャ
鍵は閉めたはずだが、どうして!?
「トウヤ、誰だ?」
気配に気づき、ロイが目を覚ました。と、同時に奴の姿も見えた。
「銅像?」
そこには、人間に近しい形をした何かが立っていた。言葉も発さず、知性も何も感じない。ただ、一つだけ確かな事があった。俺たちを殺しに来ている。
「ロイ!リューニーとカンレを起こしてくれ!」
「分かった。トウヤは?」
「俺は奴を倒す。倒したら街に出るぞ!」
こいつだけで終わりなはずがない。こいつを操る何者かが、この街に来ているはずだ。
「はぁ!」
電撃魔法で、奴の体をバラバラにすると、音を立てて消えていった。
「みんな起きたか?」
後ろに目をやると、三人ともベッドから出て立っていた。
「よし、外に出るぞ」
出る途中、宿の経営者の部屋が荒らされ、血痕があった。ここからスペアキーを盗み出したのだろう。計画性を持った行動をしている以上、やつは何者かに操られていたということは間違いない。
外に出ると、目の前にはさっき戦ったやつが街に大量にいて、民家を襲っていた。
「やられたか…。みんな、一旦無視して、大元を叩こう。騎士団が間もなく対応するはずだ」
俺たちは急いで国を出て、銅像を操る大元の気配を探った。
「北東に200メーター、木々の近くにいるはずだ」
「よくやったロイ」
騎士の天恵の力で、ロイがアンデットを見つけ出してくれた。さすが世界一の騎士だ。
その場所に着くと、一体のアンデットが座り込みながら銅像を作り出していた。
「あれぇ?国に放っておいたデコイたちはもう倒されたかい?」
長い髪と虚ろな目、そして長い手足。奴は間違いない。五大官のニ、ウルネーヴだ。あの能力からして疑ってはいたが。
「何でこんなところにまた五大官が…」
ロイは、驚きと困惑の表情を浮かべていた。
「僕たちの目的は君たちの抹殺だよ。ま、特にそこにいるトウヤくんだけどね」
「なら何で国にあんな大量のデコイを?」
「消耗させる為だよ。まさか全部無視するはずはないからねぇ」
「無視してここまで来たが?」
「えぇ?騎士団に任せるってこと?大胆な動きするねぇ。まぁ、君らしいか」
そう言うと、後ろから大量のデコイの集団が現れた。数にして、1万ほど。
「こいつらには僕の血を混ぜていてねぇ。国に放ったやつよりもかなり強くなっているよ。何十倍にもね」
デコイの集団はこちらに向かって一斉に動き出した。
「カンレ、リューニーとロイに支援魔法を!」
一気に片付ける!
キュゥゥ
「っ!」
俺はすぐロイとリューニーを後ろに吹き飛ばし、カンレの胸ぐらを掴んだ。
「何のつもりだ?今のは支援魔法じゃない。エネルギーを奪って移動速度を低下させる魔法だ」
「間違えちゃって…」
「そんな言い訳いらない。お前がそんな初歩的な間違いをするはずがないだろ?」
カンレは深くため息をついて、一言俺に言い放った。
「バレるの速ぇよ」
「何!?」
カンレは突然とんでもない力で俺を吹き飛ばし、ウルネーヴの方へ近づいた。そして、カンレの姿から形を変え、青い髪、青い肌、青い目。奴は…。
「久しぶりだな。ま、俺からすればずっと一緒にいたがな。女ってもんは居心地が悪くて仕方がねぇ」
「もうその姿に戻ったの?ずいぶんと早かったねぇ」
「トウヤ、あれはまさか…」
「ああ、ロイ。シャラクだ」
「はぁ!?俺たち、前に倒しただろ!死体もこの目で見たぞ?」
リューニーが叫んだ。だが、シャラクで間違いない。
奴の能力だ。他人の体を乗っ取り、自分のものとする。それはリューニーが、一番近くで目の当たりにしたものだ。
「まさか、団長の時と同じ…?」
「おお副団長よ。そういえばそんな事もしたなあ」
「お前…!カンレまで!」
「お前も同じところに行かせてやるよ。久しぶりに自由に暴れられるってもんよ。いいだろ?ウルネーヴ」
「うん。僕はなんでもいいよぉ」
この前から感じていたカンレへの違和感。それはこれだったか…。仲間を殺した罰だ。地獄へ行かせてやろう、シャラク。
そうして、俺たちと、五大官二人という今までにない強大な敵との戦いが幕を開けた。




