第2話 裏探偵
「仲間になってくれよ。」
自身を裏探偵と名乗る男に、俺はそう言われた。
「突然何だ。俺は騎士団副団長だぞ?そんなことをしている暇があるものか。」
俺は口早に断ろうとした。
「でも、とても普通の状態ではなさそうだけどね。」
「どういうことだ。」
見透かされているような言動に、俺は戸惑ってしまった。
「君の苦しみを祓ってあげよう。何があったのか聞かせてくれよ」
こいつは一体なんなんだ。いきなり現れて俺の心情まで読んで、俺の何を知っているんだ。でも、こいつの仲間になることで復讐が叶うのなら…俺はそんな希望に賭けてみることにした。
「俺は…リューニー・アルファ。5年ほど前に父親は戦死し、母親はそれよりも前に魔王軍の襲撃に遭い、行方不明になった。全て失った俺の前にあったのは、父親が稽古をつけてくれた時に使っていた古びた剣と、襲撃でボロボロになった一軒家のみ。俺は父親がつけてくれた稽古を思い出し、藁にもすがる思いで騎士団に入った。騎士団の人々は俺に共感してくれて、優しく、時に厳しく、俺を育てて、鍛え上げてくれた。孤児であった俺を救ってくれた。そして団長は、俺に寄り添い、俺の訓練を手伝ってくれて、任務では俺を助けてくれて、そんな団長が本当に憧れで……そんな団長のそばにいたくて…でも魔王軍は、シャラクは団長の命を奪い、団長の肉体を使い、団長という人を踏みにじったような真似をして…それが許せなくて…」
言いたいことをうまく言葉にすることができなかった。そればかりか、出るのは涙だけで、声すらまともに出なかった。
「俺は団長に……生きて…欲しかった。」
俺はただただ、団長に死んでほしくなかった。俺の近くで、俺の成長を見届けて、時々優しい声でよく頑張ったなと褒めて欲しかった。俺はそんな団長とずっと一緒に騎士団にいたかった。
「そうか…君の状態はよくわかった。僕が君の復讐を、シャラクを倒し、魔王軍を倒す手助けをしよう。一旦、僕の寝床に来て話をしよう。」
俺はこの男について行くことにした。何より、騎士の天恵がこいつは強いと本能で訴えている。
自分の寝床だとトウヤが案内した場所は、小屋のように、こじんまりとしていながらも煉瓦造りでしっかりとした家だった。
「お前の仲間となれば、俺は何をする?どういった方法で復讐を果たす?」
俺はトウヤを何一つ知らない。魔法使いなのか、剣士なのか、はたまた戦士なのか。だからどういった戦い方なのか、俺の役割はなんなのか、それを詳しく聞きたかった。団長は殺され、混乱を極めるだろう騎士団に、俺はもう居ようとはしなかった。それよりも今は、トウヤに希望を持とうと、そう考えていた。だが帰ってきた答えは想像の斜め上なんてものではなかった。
「俺はアンデットだ。」
「……!?」
驚きのあまり声が出なかった。またはめられたのか?
「俺は五大官の一、豪嵐のテルペトだ。」
「俺を殺す為に近寄ったのか?」
ここで五大官、ましてや一のテルペトと戦えば勝てる可能性はゼロだろう。なら、気になることを聞いたから死のう。そう覚悟していたのだが。
「俺は魔王を殺そうと計画している。」
おおよそ五大官とは思えない発言に頭が真っ白になった。
「俺は故郷を魔王軍に滅ぼされ、アンデットにされた。されてから暫くは、自我もなくただ破壊の限りを尽くしていたが、自我が現れてから記憶も取り戻し、魔王軍を滅ぼそうと、そう決意した。」
「ならなぜ、五大官の座についている?魔王の側近で魔王に歯向かう真似をする方が普通より難しいだろ?」
「魔王軍の一の座になれば、魔王の呪いが軽減され、自由度がかなり上がる。具体的には追跡の呪いと殺戮の呪いが外され、自由に行動することができる。」
「その為に多くの人を殺したのか?」
テルペトを睨みつけながら俺は言った。
「その為に殺した人々は、魂と肉体を分離させて、殺したように見せかけた。魔王に見せた後に、魂と肉体を結合させて、生き返らせている。」
「信じて、いいんだろうな?」
「もちろん。俺を信じて、一緒に魔王軍を滅ぼそう。」
テルペトは、いや、トウヤは、俺の方に手を伸ばしてくる。俺は、もう戻るべき場所も無くなったから、どうにでもなれば良いと、そう思いながら一抹の希望に賭けてその手を握った。何もないよりは、何かがあった方が良い。それが絶望でも、今の俺ならそれでも良い。
「ありがとう。リューニー・アルファ」