第18話 現実
キュレル王国に入って3日。空き家になっていた小屋で休み、カンレの様子もすっかり良くなり、全員万全な状態が整った。そのタイミングで、情報を共有しておこうと思った。
「この前の集まりで手に入れた情報を話すぞ」
俺が一言話すと、皆こちらを向き次の言葉を待ってくれた。
「簡潔に言えば五大官の補充。ロイが倒したアルシュンとこの前皆で倒したシャラク。三人となった五大官を五人に戻すため、オルターとクレンというアンデットが加わった」
「どんな奴なんだ?」
「そうだな…リューニー。オルターははっきり言って脅威ではないが、クレンは別だ。エネルギー量からして、覚醒魔法も操れる可能性が高い」
「何でそんな奴今まで五大官じゃなかったんだよ」
「はっきり言ってわからない。クレンは、俺が全く知らないアンデットだ。会ったこともなかったし、あんな奴がいる噂も聞いたことがない。あまりにも謎が多すぎる」
「まあ良いさ。ひとまずそいつは置いておいて、他のやつから倒そう」
「ああ、ロイ。次の目標は魔王城の近く、北東の国、リヴァイア王国の奪還だ。カンレは何か意見あるか?」
「え?はい。あ、ないですわ」
ちゃんと聞いていたのか?まあ良い。この前頑張ってくれたし、許すとしよう。
「よし、そうと決まったら国を出て出発だな」
「「ああ!」」
そして太陽が少し高く登り始めた頃、日差しに照らされ国を出た。
「ここからリヴァイアまでどのくらいだ?」
剣の状態を確認しながらロイが聞いた。
「そこまで遠くはない」
魔王城は最東端。そして魔王軍は東から北東、北の地域へ勢力を拡大している。
リヴァイア王国は北東にあり、魔王軍が占拠した国の中で最も西寄りの国だ。リヴァイアを奪還すればゆくゆくは魔王城まで…。そう考えていた頃、1人のアンデットが目の前に現れた。
「リューニー、何だこいつ?弱いアンデットが一人でこんなところに」
「とりあえず倒しておけ。ロイ」
不思議なオーラだ。敵対心を感じないが、静かにこちらに攻撃の機会を伺っている。ロイは素早く近づき、瞬きする間に奴の首を落とした。
「先へ進もう!」
その時、後ろの木の影から別のアンデットが現れた
「見事見事!できれば技を出して欲しかったんだがなぁ」
「ロイ、下がれ」
「あれは…」
その立ち振る舞いと声で皆気づいたのだろう。
「ああ。魔王軍司令部隊長官、ガルテ。五大官以外のアンデット全てをまとめ上げる実力者だ」
「お前ら、ランドール共和国にいただろ?あの女を殺した時に感じたオーラと一緒だ」
「お前…!」
「落ち着けリューニー。余計な感情は捨てろ」
「…分かった」
見たところ消耗も無し。相手も万全ということか。
「余計な話はしたくない。魔王様に命じられているのは抹殺のみなのでな」
そう言って腕を広げると、両方の手の周りの空間が歪み、ゲートのようなものが生み出され、アンデットが次々と現れた。
「あれがやつの魔法だ。異空間とこちらを繋ぐ転移魔法の応用。異空間にアンデットを押し込み、必要な時、必要なやつを呼び出す」
「厄介な能力だな」
「お前ら倒すためにたーくさん増やしたんでな。楽しんでくれよ」
「何だよあの量!」
「リューニー。多くても所詮は雑魚ばかりだ。一気に仕留めろ。カンレ!支援魔法だ」
「承知したわ!」
…?
「トウヤ、俺は何を?」
「ロイもリューニーに続け」
数からしてざっと1000ほど。二人なら2分でいけるか?
スパァン ズバァン
ものの1分で二人は全員を倒しきった。
「凄いなぁ!もはやあの女より強くなったのではないか?」
ガルテは煽るような雰囲気もなく言い放った。あれがやつの本性だ。五大官と関わらない役職な以上会ったこともなかったが噂は聞いていた。死人を操り、争いを楽しむ狂人だと。
「お前…!」
リューニーの剣を持つ手に力が入る。と、同時にリューニーは剣を落とした。
「!?どうした?リューニー」
俺の問いにリューニーは言葉を振り絞って答えた。
「俺の…母さんだ」
リューニーの目線の先には一人の人間、いや、アンデットと変貌した人間がいた。肌の色は黒くなり、怪物のような見た目をしているが、顔はそれが人間だということを強く感じさせてくる。
「こいつ、お前の母なのか?懐かしいなぁ。いつだったか、こいつを殺したのは。一般人のくせしてアンデットを5体ほど殺して抵抗していたからなぁ」
「お前!」
リューニーは素早く飛び掛かるが、すんでのところで剣が止まる。
「っ…」
「どうした?こいつを殺して俺に斬りかかってこいよ。ただのアンデットだぞ?」
ガルテは笑みを浮かべながらリューニーを眺める。その姿を見て、音も立たずロイが斬りかかる。
「殺すな!」
リューニーの母を斬りかけた所でロイが止まる。
「理屈は分かるが、ガルテを殺さないといけないんだ!お前の母は苦しいかもしれないがもうアンデットなんだ!取捨選択をしてくれ。リューニー」
ロイの言葉は正論だ。リューニーの母を盾にされている以上、リューニーの母を守りガルテを殺すことは困難。
それにリューニーの母はアンデット。この場での最善は合理的に考えればリューニーの母を巻き込みガルテを殺すことだ。
「迷ってる場合か?騎士よ」
「グハッ」
身体強化で強くなった打撃をもろに喰らいリューニーは倒れ込んだ。
「下がれ!リューニー」
狙いの座標をガルテのみにして、細い雷を落とす!
バァァン
リューニーの母を盾にしながら防がれたか…。流石というべきか、察知する能力が高い。ガルテのみを攻撃するのは無理か?なら…
「やめてくれ!」
リューニー…
「母さんなんだ…家族なんだ…。やっと会えたんだよ!なのに死を見届けるなんて…そんなことできるかよ!カンレもそう思うだろ!?」
カンレは下を向き黙ったままだった。
「仲間内でややこしいことやってんじゃねぇよ」
バァン
っ…!将軍か!魔法での攻撃はノーマークだった。ロイが対応してくれてはいるが、状況が複雑すぎる!
「トウヤ、リューニー!早くしてくれ!俺一人じゃ限界がある!」
「トウヤ!頼むよ…母さんを…助けてくれ」
リューニーは泣きそうな顔で俺に訴えかけてくる。だが不可能だ。
「リューニー。無理なんだ。あの戦場で、ガルテだけを攻撃するのは俺でも難しい。それにガルテは盾代わりにお前の母を使っている。やつの技量があれば、攻撃など全て盾で防がれる。盾を破らないとガルテは殺せない。考えるんだリューニー!ここにいる意義を!全てを守るなんて不可能だ。絶望を受け入れろ。世界には受け入れなければいけない絶望がある。重さは関係なく。お前が受け入れなければいけない絶望は、今だ」
リューニーは膝を折り、悲痛な顔でただ戦場を眺めた。




