第14話 無情
ロイが勇者の加護の因子を手に入れた次の日、俺たちは仲間を増やす為、ウェストル王国から朝一番に出発しようとしていた。
「本当にいいのか?ロイ。騎士団に顔を出さなくて」
ロイは騎士団に何も言わずにいウェストル王国を出ようとしていた。
「いいんだよ。あんなところ」
流石に薄情だと思い俺たち3人で止めたが、ロイは聞く耳を持たなかった。
「まあ、とりあえず行こうか」
俺たちは手続きを終え、朝にはウェストル王国から出国した。
「次の目的地はどこですか?」
「次の目的地はウェストルから見て北西に位置する国、ランドール共和国。そこで魔法戦士のマクレシア・トレイルを仲間にする」
マクレシアは魔法を用いた身体強化で格闘技を用いて戦うタイプだ。マクレシアが仲間になればパーティ全体の耐久力を上げることができるだろう。
「魔法戦士か。一度見てみたいな」
「もうすぐ見れるさ」
ロイの言葉に俺は何気なくそう返した。そして俺たちは半日ほどかけて、日が暮れる頃にランドール共和国に着いた。
〜ランドール共和国〜
「なんだ…これは」
俺たちは着くや否やその惨状に息を呑んだ。
ランドール共和国は世界で有数の共和政の国。国民の反乱もなく安定した国。だった。
小さな国ながら騎士団を保有していたが、道に転がるのは行っても行っても騎士の屍。住宅からは血の匂いが漂い、生き残りの人間だろうか。叫ぶ声が聞こえる。
「この国の騎士団は小さいが力があったはずだ。俺たちウェストルにもいい勝負をするくらいの」
「そんな騎士団が…何故」
将軍ではない。そんなレベルで壊滅などしない。ならば何だ?
「トウヤさん!それより民間人の救助を!」
「トウヤ!まだ生きてる人もいる。救える命はまだある!」
「マクレシアを探す」
それだけ言って、俺は2人から目を背けた。
「トウヤ!見殺しにするってのか?」
「そんなことは言ってない。マクレシアを探すのが先だと言っているんだ」
「トウヤ、俺もあの2人に賛成だ。救える命を無視するなんて、それは殺すと近しい行為だ」
ロイもそうやって俺を止めようとする。そんなことやってる暇はないんだ…
「三人とも、ここに来た理由はなんだ!?マクレシアを仲間にすることだろ?それが達成できないと、ここに来た意味はないんだ!そうだろ?」
三人は首を振る。なぜだ!?何故賛成しない!何がおかしい!
「それが目的だとしても、見殺しにすることは俺は許せない。どうしてもだ」
リューニーとカンレも頷く。
「…わかった」
それから俺たちは、生存者を治療して回った。治療といっても、リューニーとロイが生存者を運んできて俺とカンレが治癒魔法をかけるだけという単純な作業だ。
ひと通り治療し終わると、俺たちはマクレシアを探しに出た。20分ほど探し回った後、広場でアンデットと相対する一人の女性を見つけた。魔法での身体強化、卓越した格闘技。間違いなく、マクレシア・トレイルその人だった。
「トウヤ!あれ!」
リューニーも気付いたのだろう。大声で俺に報告した。しかしその時、俺たちは別のことにも気がついた。疲弊している。
まわりには何百というアンデットの屍があった。恐らく、全部倒したのだろう。だが、明らかに疲労で身体強化のレベルが落ちている。そして、俺は相対しているアンデットにも見覚えがあった。
「司令部隊長官、ガルテだ…」
「誰なんだ?それ」
「説明は後だ!今はとにかく…」
そう言った直後、ガルテの持つサーベルがマクレシアの身体を真っ二つに斬った。
「マクレシ…!」
カンレが叫びそうになるのを俺は口を塞いで止めた。ここでガルテに気づかれて、勝負する方が、面倒なことになってしまう。
「お前に‥幸福など…訪れない」
マクレシアがガルテに掠れた声で言った。
「そうか?ここでお前を殺せたこと。それだけで私は幸せだなぁ」
その言葉にガルテは嘲るような声で言い返した。
「私の故郷を‥潰しやがって」
「うるさいなあ。まあいいか。もう行くからな。せいぜい苦しむんだな。じゃ。地獄で反省でもしとけや」
「お前が地獄に…落ちろ…!」
その言葉を無視し、ガルテは転移魔法で消えた。その後、俺たちはすぐにマクレシアのもとに行き、治癒魔法で治療を試みた。
「あなた達は?…誰‥ですか?」
「話はあなたを助けてからです」
俺たちは必死に治癒魔法をかけた。しかし、千切れた上半身と下半身が元通りになることはなかった。
「もう…良いのです。こんな私を…助けようとしてくれて…ありがとう」
「マクレシアさん…」
もう身体は冷たくなり始めて、切れ長の美しい目も、黒い瞳の部分が光を失っていた。
「最後に一つ…身勝手な願いを…叶えてほしい。この国を救い…あいつを‥ガルテを…殺してほしい」
「大丈夫です。マクレシアさん。私たちはあなたの願いを叶える。だから、安心して眠っていてください」
カンレは力強く答えた。その言葉に安心したのか、マクレシアは横たわり、瞼を閉じた。
「トウヤ…ごめん。俺があんなことを言ったから、助けるのが遅れてしまった」
「いや、ロイより、初めにトウヤの計画を邪魔した俺の責任だよ。ごめん」
俺は二人の謝罪にどう答えていいのかわからなかった。二つの感情が俺の中を巡り答えることを阻んだ。
「いたぞ!あそこだ!」
誰だ?誰だかわからないが、大勢の人が俺たちの前に現れた。
「僕たちを助けて下さり、ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
一人に続き、全員が俺たちを感謝を述べた。その言葉を聞き、俺の感情は一つに定まった。
「ロイ、リューニー。俺が間違っていた。計画のためなら、民間人を殺してでも遂行すべきだと思っていた。でも、違った。今、俺たちはこんなに感謝されている。こんなに大勢の人々に幸せをもたらすことができた。必要な死などない。妥協すべき死など、あってはならない。命の重みは皆に平等なのだから。俺はそのことにはっきり気がついた。それに、マクレシアさんも、この国を救うことを俺たちに頼んだ。俺たちは不十分かもしれないが、その願いを少しは叶えられた。ロイ達の行動は正解だったんだ」
そして、俺は三人に頭を下げた。
「ごめん。俺が間違っていた」
三人は俺に微笑み、そして俺の手を握ってくれた。俺は俺自身の間違いを懺悔し、三人の寛容さに涙を流しながら、何度も何度も頭を下げた。




