第13話 孤高
俺の目の前に出てきたその人物は、一言も発さず俺に斬りかかってきた。咄嗟に剣で防げたから良かったものの、油断していれば一発で死んでいた。
「言っただろ?ロイ。そいつは今の自分だ。お前はこの戦いの中でお前は、お前自身を越えないといけない」
偉そうに言いやがって…。こいつは戦ってみて感じたが、確かに俺自身の強さを持っている。
だが、一つ俺に不利な点がある。心臓が動いていない。つまり、動力源が心臓でない以上、こいつは息切れも体力切れも起こさない。長期戦に持ち込めば俺が確実に負ける。
短時間で、自分を超えないといけない。やってやるよ。
「閃光一閃」
アルシュンの時と同じように俺は一瞬で間合いに入った。しかし。
キィィン
甲高い音を立てて剣が交じり合った。俺の一撃は受け流されてしまった。
「崩地斬」
衝撃波を起こすパワー重視の技も避けられ、ダメージが与えられない。その間にも相手は細かく何度も何度も攻撃をしてくる。
「トウヤ、このままだとジリ貧じゃないか?俺たちも戦うのはダメなのか?」
「駄目だ。リューニー。この儀式は自分が自分を超えなければ意味がない。俺たちが何かするものじゃないんだ」
遠くでリューニー達の会話が聞こえてくる。何を喋っているんだろうか。いや、そんな暇はない。今はとにかくこの勝負に……。…!
一瞬の隙を見逃されず、相手の閃光一閃を喰らってしまった。左腕からは血が出てきて痛みが走る。
それと同時にこちらのスピードも落ちてしまう。まずい、負ける!
「負けんなよ!ロイも!」
…?何だこの声。どこかで聞き覚えが…
「俺も負けないからさ、ロイも、負けんなよ!一緒に頑張るんだぞ!」
ああ、そうだ。ラックス。何で忘れてたんだろう。
子供の頃、悪党に襲われた頃、襲われたのは俺だけじゃなかった。孤児だったラックスも奴らに襲われ、俺はラックスと一緒に13人を殺した。
殺した中には確か、騎士もいた。でもラックスも俺も負けなかった。ラックスもまた、卓越した剣の才能を持っていた。
「ここから助けてもらえたらさ、騎士団に入ろうぜ!ロイと俺の剣技があれば、きっと凄い騎士になれるよ!」
ラックスは常に前向きな奴だった。俺はラックスがいたから、あの状況でも生きていられた。頑張れた。
ごめん、ラックス。こんな俺で。薄情な俺で。俺はお前の為にも、負けられない。負けていられない!
「速度が、上がった!トウヤ、何が起こったんだ?」
「体内の魔法エネルギーを身体強化に使った。魔法エネルギーの操作を理解したんだ。この一瞬で」
エネルギーを絞り出せ!足に力を込めろ!あいつを倒す為に!
「疾風雷豪」
さっきよりも素早く間合いに入り、縦に一撃、横に一撃を入れた。その時、奴の体はだんだんと薄くなり、そして消えていった。
「終わった…のか?」
「ああ。ロイ。これで終わりだ。あれを取り込め」
見ると、そこには光り輝く石のようなものがあった。
近づきそれを握ると溶け込むように俺の手の中へと吸収されていった。その瞬間、俺の中には様々な記憶が流れ込んできた。幼少期の記憶、騎士団の記憶、両親の記憶、そしてラックスの記憶。
「俺は…」
それらを受け止めた時、俺の目からは涙が溢れ出てきた。
「…っ俺は…俺は…!」
「自分を憎むな。ロイ。お前は悪くない」
「トウヤ…」
悪いのは俺にこのことを教えなかった騎士団だ。悪いのはこの世界をぐちゃぐちゃにしたアンデットだ。
でも、俺はそうして誰かのせいにして良いのか?自分の過ちを外的要因で片付けていいのか?
「トウヤ、俺は。俺自身で償う。命をかけて戦って世界に平和をもたらす」
「それは、俺達について来てくれる意思表示と、とって良いんだな?」
「ああ」
俺の決意は、想いは、こいつらに預ける。
「それじゃあ、帰ろう。トウヤ、ロイ」
「「ああ」」
「少し、聞いて良いか?」
「なんだ?」
俺はウェストルへと歩みを進めながら、引っかかっていたことを聞いた。
「どうして俺に、遊ぼうなんて嘘をついたんだ?アンデットもそうだ」
「そうじゃないとお前、出てこなかっただろ」
「そんなこと…」
何も言い返せなかった。
「お前は正義感が強くて、それなのに遊びに飢えた面倒くさい奴だ」
「何もそんな言い方しなくても良いだろ?」
言い合いながら俺たちは笑い合った。俺は初めて、人と一緒に笑えたかもしれない。苦しかったが、楽しくて嬉しい夜だった。俺は再び、こいつらについて行こうと決意し、朝日を浴びながら国へ戻った。




