第12話 勇者
「ロイ、ただいま戻りました」
「おお、ロイ。もう少し休憩とっていいぞ」
「承知いたしました」
そう言い、俺は騎士団の寮の部屋へと戻った。自分のベッドに寝転びながら俺は考えた。どうすればいいのか。俺には勇者の加護がある。
両親によれば、生まれた時から俺は異常だったらしい。生まれて2日で立ち、2ヶ月もすれば剣を振れるまでになった。
勇者の加護がついていると分かったのは俺が2つになるくらいの頃。両親が流石におかしいと思い、病院を転々としたのち、騎士団で話したことで、検査を受け、発覚した。加護の有無を示す宝玉は2年前から光っており、騎士団は調査を進めていたと言う。俺が騎士の加護に期待を持ったのは、この時が最後だった。
隠していたつもりだったが、1ヶ月もすれば情報は四方八方へと飛び交っていた。そしていつしかこの力を狙い、悪党が俺の家を襲った。両親を人質に取り、任務をこなさなければ殺すと。まだ当時3つだった俺に、拒否権などなかった。俺は数えて12人の人間を殺した。
ちょうど12人目を殺したところで騎士団に捕えられた。俺と悪党の契約は他人にバラさない事だった。だが俺は、騎士団に捕えられ自分の家まで案内するよう強く言った。今思えば恐らく親の悪だくみだと思われたのだろう。俺が家へ帰った瞬間奴らは言った。「他人は連れてくるなと言ったはずだ」と。そして何も言えないまま、両親は一瞬で殺された。俺はその後、騎士団に引き取られた。
こんな加護、あっても幸せが舞い込んでくるわけじゃない。舞い込んでくるのはこの世界の醜さの権化のような災難だ。
騎士団に入った後も、俺はこの力のせいで過酷な任務にばかり連れていかれる。将軍討伐に、5000ほどのアンデットの群れの一層、この前の五大官の事件もそうだ。上層部にこき使われ、口答えすれば叱責。騎士団はクソだ。友達はいない。誰も俺の近くに寄ってこない。この力のせいで、俺は怖がられ、妬まれ、特別扱いされ、対等なやり取りもできない。でも、騎士団は国を守ると言う大義名分がある。それだけで生きていく価値を見出せる。あいつらはどうだ?トウヤとか言ったな。得体の知れない奴ら。また俺の能力を利用しようとする悪党かもしれない。俺の周りに信用できる奴なんて一人たりとも寄ってこない。
「…さん」
あいつらについていくなんて…
「…イさん。ロイさん!」
「ん?ああ。どうした?」
しまった。寝てしまっていた。隣部屋のやつか。
「今朝来た奴がまた来ましたよ」
「追い返しておけ」
「一緒に遊ぼう。と言っていました」
「……」
「悪かったな。こんな遅くに呼び出して」
「いや、いいんだ。それより要件は?」
しょうもなかったらすぐ帰って寝る。俺は暇じゃないんだ。
「そのことなんだが…ちょっと戦えるか?」
「え?」
「近くに強いアンデットが来るから、協力して欲しいと思って。いま、こっちのカンレっていう魔法使いが戦える状態じゃなくってさ」
こいつ…俺を連れ出して戦えだって?冗談じゃない。無駄な戦いなんてする意味が…
「頼む!一回だけでもいいから一緒に戦ってみないか?」
こいつは確か、マルクスの副団長だったか?なかなか強そうなやつだ。
「…分かった。一回だけだぞ?」
「ありがとう!ロイ!」
それから俺たちはこの前アルシュンと戦った草原へと歩いていた。
「なあ、トウヤ、だったか?どうして俺を仲間にしようとするんだ?」
理由は分かりきっていた。強いから。今まで出会った奴らはみんなそう言った。俺の強さを利用するためだけに近づいてきた。
「もちろん、強いから。お前がいれば、魔王を倒せる勇者の加護というのは、それだけの強大な力がある。この国に留まるのは勿体無いんだ」
やっぱりか…
「でも、それだけじゃない」
「?」
「お前、孤独だっただろ?」
孤独?いやいや、俺には騎士団がある。仲間がいる。孤独なんて…
「強さ故の孤独。特別騎士なんて肩書き、同期からしたら関わりにくいだろう。一緒に笑い合える友達はいたのか?」
「それは…」
「だから俺たちが友達になる。一緒に笑い合って、協力して、戦おう。さ、着くぞ」
「…?ここには何もいないぞ?」
広がっているのはただの広い草原だ。
「不思議だと思わなかったか?どうしてこんな何もない草原にアンデットが寄ってくるのか。この前の五大官も」
確かにそうだ。アンデットは無意味な行動は基本的にしない。そんなやつらがこんな何もないところに来る意味は…
「ここには眠っているんだ。勇者の加護の、因子が」
「勇者の加護の因子?」
「勇者の加護は、生まれた時点で与えられるが、それでは不完全だ。反動として、人格が著しく低下してしまう。勇者の加護はその強大さ故、ほかの加護とは異なり、もう一つ段階を踏む必要があった。勇者の加護の因子を取り込むこと。そのためには近くに宿った因子に行き、今の自分を倒すという儀式をしなければならない」
「つまり、アンデットは完全な勇者の加護を防ぐためにここに来て因子を潰そうとしていた、と?」
「ああ」
「なら、騎士団はなぜ俺に教えなかった?」
「お前の人格が低下することは騎士団にとって逆に好都合だった。反発される可能性が低くなり、容易にその力を利用できるからだ」
もう、全てが憎い。思えば確かに、こんなふうに思ったことはトウヤと出会う前は、ほとんどなかった。
「トウヤ。始めてくれ。儀式を」
「やるんだな。ロイ」
「ああ」
トウヤは何かを唱え、その刹那、闇夜の中、目の前には俺と瓜二つの人物が現れた。




