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第21話 雨のちレイン

 

 天の川レインはVTuberとしての名前である。


 彼女の本名は『天野麗』。


 天野麗は彼女の作家ネームでもあった。


 と言っても書籍化作品を持っているわけではない。


 言ってしまえばただの小説家志望の一人。


 どんなに語彙に溢れていても、どんなにユーモアが優れていても自分の作品を売り出すことが出来るのは一握りの人間しかいないのだ。




 何度も折れかけた。


 何度も諦めようと思った。


 でも小説がどうしようもなく好きだから。


 レインは12歳の頃から書き始め、成人になった今でも執筆を止めていない。


 人生の半分を執筆に当てた自分の人生をどうにか実らせたかった。


 そしてある日——




「通っ……た?」




 とあるweb小説コンテストの最優秀賞欄に天の川レインの名前が載っていた。


 天にも昇る高揚感。胸の中でじわじわ広がっていく受賞という実感が自然とレインの口元を緩ませていた。




「やりましたわぁぁぁぁぁぁぁっ! 音声化ですわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




 音声化短編web小説コンテスト。


 受賞作はプロの声優が読み上げた音声ダウンロード版が販売される。


 レインは書籍化よりも希少な『音声化』という実績デビューを22歳の時に果たしていた。


 人生で心から喜ばしく思える経験が今まで皆無だったレインはついテーブルの周りを踊るようにして不器用に喜びを爆発させていた。


 歓喜で泣きながら舞ったあの日のことをレインも今でも忘れていない。









 音声化バージョンの台本を提出し、原稿のオーケーをもらうことができた。




「あ、あの、私の作品って……どなたに声を吹き込んで頂くことになるのか、聞いても大丈夫でしょうか?」




 オタクというほどでもないけど、レインは結構アニメを見る方である。


 有名な声優ならばレインでも知っている可能性がある。


 もし好きな声優さんならまた歓喜の舞が繰り広げられることだろう。




「夏樹翠さんというプロの方です。天野先生と同じくらいの年齢の若い男性ですよ」




「夏樹……翠さん……」




 知らない人。


 レインはついその場でガッカリしたように俯いてしまう。




「(って、いけないいけない! 駄目ですわレイン! 私の作品に声を付けてくださる方に対して無礼にも程がありますわ! 恥を知りなさい私!)」




 有名声優に声を付けてもらえるかもと思う方が場違い甚だしい。


 それに有名であろうがなかろうがプロが自分の作品に声を当ててくれるのだ。光栄に思うことはあれど不満に思う資格なんてあるはずがないとレインは自分に言い聞かせる。


 それに自分の知見が浅いだけで実は大きな代表作を持っている声優さんなのかもしれない。


 レインは担当との打ち合わせを終えると、足早に帰宅して『夏樹翠』という名前を検索した。




「えっ!? この方、『ラブリーくりむぞん』に出演したことあるんですの!?」




 ラブリーくりむぞん、通称ラブくり。


 日曜朝10時に放送中の大人気の女児アニメだ。


 女児アニメ……と言っても結構話が重めではあるので深夜34時アニメなんて言われていたりする。


 レインもラブくりの大ファンだった。


 大好きなアニメに出演されている人が自分の作品に声を吹き込んでくれる、そんな幸福感で胸が躍っていたのだが……





 夏樹翠:


 ラブリーくりむぞんCV:おじいさんB(第34話)、幼女F(第35話)、赤ん坊A(第37話)





「ネームドキャラですらありませんでした!?」




 知っている作品に出ている人とは言えど、さすがにこの実態にはガッカリ感を隠し切れなかった。


 他にもちょこちょこアニメに出演はしているがどれも端役ばかり。


 夏樹翠はまだまだ売り出し中の身であり、中々仕事を貰えずにいる苦声優だった。


 代表作が『おじいさん』である人に任せて大丈夫なのか、果てしなく不安が募るレインだった。

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