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第5話 池の巨峰

「はいラナデ君、こっちの端持ってそこに立ってて。しっかり持っててね」


「メジャー? あ、大きさ測るんですね。分かりました」


 ラナデはアステルにメジャーの端を手渡され、巨大な魚の頭の横に立たされ、アステルはメジャーの本体を持って、魚の尾の先まで歩いていく。

 体についた水を撒き散らしながら魚は慌ただしく跳ね、計測にはかなり時間がかかってしまった。


「んん〜、大体……8m……32cm、かな。もう手、離して良いよ」


 アステルに言われラナデがメジャーから手を離すと、メジャーはアステルの持つ本体へと素早く収納されていく。

 アステルはメジャーをバッグにしまうと、バッグから黒い布を取り出し、跳ねる魚の目を隠すように覆い被せる。


「それは何をしてるんですか?」


「こうすると、岩場に隠れていると思ったり、夜だと勘違いして少しだけ大人しくなるんだよ。昼行性の鳥なんかも同じようにして大人しくさせることができるよ。……計測するときにやれば良かったね。まあいいや、表面が乾かないよう調べている間、この魚の体を濡らしておいてくれるかな?」


 そう言ってアステルはバッグからタオルを取り出しラナデに手渡すと、自分は記録書とペンを取り出し、巨大魚の体をじっくりと観察し始める。

 尾ビレを広げ、鱗の1枚1枚の付き方を確認し、パクパクと動く口を開いて体内に入り込み食性を調べる。

 胃袋の中は先程餌にしたマルタヒキガエルと、残りの殆どが丸呑みされたであろう魚で、どのような魚か確認しようと思ったが、ほとんど消化されかけていて調べられなかった。


「植物もかなり食べてる、雑食性か。この体を維持するんだ、それもそうか。……あとは、特に何もなさそうかな」


 その後もアステルは寄生虫の有無、石や槍を使っての鱗の強度、注釈を差し込んでは自身が飲み体液の毒性の有無とオオダマデキメンの体を調べ続け、遂に現状でできる調査を終える。


「少し前に調査に行った『地球』で見かけたデメキンによく似ている。と言うか、大きいこと以外は身体構造は大体デメキンと似通ってるかな」


 アステルは「ふん……」と息をつきながらペンをくるくると回して首を傾げ、突然ピタリと手を止めたかと思うと、記録書に何かを書き込み始める。


「よし、『オオダマデキメン』に決めた」


「……オオダマ“デキメン”、ですか? デメキンではなく?」


「こればっかりは調査員の特権ってやつですねー。まあ、お姉ちゃんからしたら、そういった名前も面白くて覚えやすいから別にいいと思いますよー」


 ラナデが聞くと、メモリーが代わりに答える。


 アステルは命名し終えると被せた布を取り、槍をオオダマデキメンの下に入れ込んでは押し上げ、池の方へ少しずつ少しずつと転がしていく。

 ラナデもタオルでオオダマデキメンの体表を濡らすのを辞め、アステルの横に並んで押していく。


「にしてもその槍、随分と頑丈ですね」


「そうだね。人為的なものならまだこの星にヒトに当たる生物がいる証拠になるし、自然に出来た植物から折れたものなら、なおさらどんな植物なのか気になる。どちらにせよ面白いものには変わりないね」


 そうこうして池の側まで運んでいくと、オオダマデキメンは跳ねて自ら池の中に飛び込み、高く水しぶきを上げ水の底へと姿を眩ませていった。


 ラナデがオオダマデキメンの消えた水面を眺めていると、アステルは


「ちょっと周りを見てくるから休んでていいよ」


と言いまだ新しい生物が居ないかと池の周辺を歩き始める。

 しばらくしてオオダマデキメンの起こした波紋が完全に消え、ラナデがふと足元を見ると、そこには何やら小さな黒い魚が群れをなしていた。


「これは、さっきのオオダマデキメンの稚魚、ですかね」


 ラナデがその場にしゃがみ込んで小魚の様子を見ると、ラナデの言う通り小魚の見た目は先程池に返したオオダマデキメンによく似ていた。


「どれどれ? ちょっとお姉ちゃんにも見せてくださいよぉー。……ほうほう、確かにそれっぽいですね。にしても何だか、ブドウみたいですねー。食べたら美味しいんでしょうか? ラナ君、ちょっと食べてみてくれませんか?」


「嫌ですよ!」


 そうラナデとメモリーがのんびりと話していると──、突然周囲に爆発音が鳴り響く。


「──っ!? な、何ですか、今の音!?」


 ラナデとメモリーは音のした方に目を見やると、自分たちの目に映る、あまりに凄惨なその光景に目を見開く。

 ふたりの瞳に映っていたのは──、


 上半身を白煙に包まれ、膝から崩れ落ち天を仰ぐアステルだった。


「アステル先輩!?」


「シュメちゃん!?」


 ラナデとメモリーは、思いもよらぬ光景に同時に声を上げる。

 すぐ様アステルの下へと駆け寄ると、アステルの手元には随分と活きの良い魚が懐に抱えられていた。


 ラナデが魚をアステルの手から引き離そうと手を伸ばすと、カチカチと魚からまるで、石を地面に打ち付けたかのような音が鳴り始める。

 ラナデは音を不審に思いながらも、先ずは魚をアステルから引き離すことが優先だと思い、魚に触れようとした時──、


「何だか様子がおかしいですよ! ラナ君、今すぐその魚から離れてください!」


 突然メモリーが声を張り上げ、ラナデが何事かと伸ばしていた手を引き後ろにきメモリーの方を振り向くと、同時に横腹に鈍い痛みが生じ、ラナデは突き飛ばされ地面に体を叩きつけられる。

 そして同時に、再びアステルに抱えられていた魚がまばゆい光を放ち、耳を壊すほどの破裂音とともに、辺り一帯に衝撃が走る。


「──ラナ君、ラナ君! 大丈夫ですか!? どこかぶつけてしまったりしてませんか?!」


「ううっ、な、なんとか……」


 ラナデは間一髪爆発を逃れ、身を起こすと、魚を抱えていたアステルの方を振り向く。

 しかし、そこにはアステルの姿はなく、残っていたのは爆発によって抉られた地面と、僅かながらの魚の残片だけだった。

 第5回 メモリーお姉ちゃんの豆知識!


 『オオダマデキメン』について


 オオダマデキメンは、別名“巨峰支那きょほうしな”と呼ばれる骨鰾こっぴょう上目・コイ目・コイ科・コイ亜科・フナ属に分類される雑食性の淡水魚です。


 棲む環境によって成体になった時の大きさが大幅に変わり、その幅は最小5cmからなり、最大はなんと! 際限なく大きくなる可能性を秘めているんです! と言っても、シュメちゃん達が見つけた個体が普通じゃありえないくらい大きかったって可能性もあるんですけれど。

 そして、このオオダマデキメン、稚魚の頃は十数から数十匹の群れをなして生活しており、その群れの様子が巨峰と呼ばれるブドウのようだからという理由で巨峰支那金魚という別名を付けられたんです。因みに、支那金魚というのはデメキンの別名ですよぉー。


 今回オオダマデメキンではなく、オオダマ“デキメン”とシュメちゃんが名付けた理由は、昔の自身の言い間違いから取ったそうですよ。可愛いところありますねぇー。


 そして1つ気になるところがあるのですが、デメキンなどの金魚に分類される魚は、本来人為的に生み出された生物のはずですが、なぜかバルパには生息していたんです。なんででしょうねー、バルパではそういう進化もしてきたんですかねぇー? こればっかりは研究がまだ完全に進んでいないので、お姉ちゃんでも判りません。今後の進展に期待ですね!

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