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星間リコレクター  作者: 無色なそら


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第三十二話 リミナとの別れ

 ──時間にして約一ヶ月の時が過ぎ、水没星の雨期が終わった。

 リミナの外に満ちていた水も引き、漸く外に調査に出られるようになる。


「そろそろ調査を再開できそうだね」


 リミナの出入り口である蓋を開いて中をのぞきながら、そうアステルは呟く。

 蓋からあふれていた水はすべてリミナと呼ばれる巨大植物に吸収され、中の空洞を通れるようになっている。


「メモ姉、ラナデ君……は、まだやってるか」


 アステルがふたりを呼ぼうと振り向くと、ラナデがパッソに槍の猛特訓をさせられており、その側でメモリーがチアガールの服装をしてラナデを応援していた。


「ふれー、ふれー、ラーナ君。頑張れ頑張れラーナ君。わぁ~~」


「わぁ~じゃないですよ。毎度毎度服装変えて、どれだけバリエーション豊富なんですか。というかその服装なんですか」


 ラナデはパッソの特訓にもなれてきていたようで、合間に軽口をたたけるくらいの余裕が見てとれる。


「良いぞその調子だ! はじめたてのころは、このパッソの目を疑いたくなるほどだらしなかったが、今ではなかなか様になっているぞ。このパッソほどではないが、リタなら少しは超えているかもしれんな!」


 パッソはラナデの肩をバシバシとたたきながら豪快に笑う。

 その様子を通りすがりに見たブッセは立ち止まり、


「リタを少し超えてんならお前なんて遙かに超えられてんだろ、バッカじゃねえの? ハハ、実際超えられてっけどな。いやそもそも並んだことすらなかったな」


 と肩をすくめると、ラナデに顔を向ける。


「まあ、最初のクソみたいな動きよりかは随分とマシにはなったな。ま、頑張ってそいつの頭ぶん殴れるようになれよー」


 そう言ってブッセは何か用があるのか、すぐに去っていく。

 そのブッセの後ろ姿を眺めていたラナデとパッソは、お互いに目を合わせる。


「…………まだまだ特訓は必要のようだな! それにしても、感慨深いものだな。お前からこのパッソに教えを求めてきたときは──」


「そんなことを言った覚え僕は微塵もありませんよ。強制的にやらされてるこっちの身にもなってくださいよ」


 ラナデにはっきりと言われ、パッソは黙り込んでわなわなと体を震わせる。そして、


「そんな些細なことはこの際気にしなくても良いだろう! さあ、特訓の続きといくぞ!」


 パッソは開き直り、ラナデに槍先を向けて特訓を再開しようとする。しかし──、


「そういうわけにもいかないよ。そろそろ調査を始めなくちゃいけないからね」


 アステルが間に割り込み、ラナデに向けられた槍先に手を添えて下ろさせる。


「な、アステル=モシュメよ、まだ特訓はこれから──」


「何? 聞こえなかった? それとも聞こえていて言ってるのかな? だとしたら約束(・・)と違うけど」


「それは……そうだが……」


 先ほどまでの威勢は見る影もなく、パッソは意気消沈といった様子で黙り込む。


 アステルの言う約束とは、“自分の許可する期間だけラナデを特訓することを認める”というものである。

 というのも、この雨期の間、パッソがやたらしつこく


「本当にリタに決闘で勝ったのか? ならばこのパッソとも決闘をしようではないか! リタに勝ったお前にこのパッソが勝てば、それはつまり、このパッソはリトより強いと言うことだからな! そしてお前もこのパッソが特訓してやろう!」


 と迫ってきたもので、リミナ内での記録を邪魔され続けて苛つき気味だったアステルは仕方なく決闘を受け入れ、ナイフの持ち手で顎を打ち速攻勝利したので、その後勝者として期間付きでラナデの特訓だけは認めていたのだ。

 もちろんその際、一度パッソの特訓を強制的に受けたラナデはあり得ないという顔をアステルに向けていたが、アステルは良い機会だろうと完全に無視をして、ラナデの意見は聞くことなく差し出していた。


「やっと終わりですか? 良かった……」


 パッソのきつい特訓を終えられると知り、ラナデはほっと息をつく。

 しかし、その横ではパッソがもの悲しげに自身の槍を見つめている。


「まだ特訓、終わっていないんだが……」


 そう呟きながらパッソは自身の槍の棘を弄り始める。


「おいパッソ──!」


 パッソが槍の棘を弄っていると遠くからパッソに声がかかり、声のした方を向くと、ブッセが子供を両脇に抱えて歩いて来ていた。


「そんなに特訓してえならよ、このちびどもの相手してやれよ」


 ブッセは子供をふたり下ろすと、背から獲物をしまっていたときのようにマントを使って背負っていた、さらに幼い子供たちを追加で取り出す。


「カブ、ポラ、クツグァ、トゥラ、パラッコ、ラプア、ワンタン。どうしたんだ? カブとポラはもうじき狩りに出られるころだからともかく、こっちのちびどもは少し前に生まれたばかりだろう」


 子供たちを連れてきたブッセに、もう早幼い子供たちにまとわり付かれているパッソが聞く。


「あ? お前が外に出らんない間、ずっとそいつらに勝負だー特訓だーっつってたろ。もーうるさくてうるさくて仕方ねえから、代わりにちびどもの特訓させとけってドゥ母ちゃんと爺ちゃんが言ってたんだよ」


「そうか……。では、お前たち、槍を持て! 特訓だ!」


 パッソは子供たちを抱え、高らかに笑う。

 その様子を見て、ブッセはあきれてため息をつく。


「こいつらはまだ槍作ってねえよ」


「む? そうだったな、では付いてこいお前たち! 代わりのものを見つけに行くぞ!」


 そう言ってパッソは子供たちを引き連れ、颯爽と歩いて行った。

 パッソの後ろ姿を眺めていたブッセは、アステルたちに顔を向き直すと


「で、あんたらはもう出てくんだろ? なら早くしろよ。あいつに捕まると、まーた特訓特訓言われんぞ」


 と、手で払って催促しながら言う。


「そうだね。お言葉通り、今のうちに出させてもらおうかな」


 アステルはリミナ内を見渡すと、ラナデたちに顔を向け「行くよ」といって歩き出す。

 アステルの後ろを付くように、ラナデとメモリーも動き出す。


「ここの方々とも、もうお別れになるんですね。早いような……そうでもないような」


 ラナデは歩きながらリミナ内を見回し呟く。


「ラナ君はパッソさんに無理やり特訓させられてばかりだったので、体感時間は長かったのではないですか?」


 リミナの出入り口の蓋をくぐると、腕を組み「うーん」とうなっているラナデにメモリーが、ラナデがパッソに猛特訓させられているころの記録映像を側で流しながら微笑する。


「うう、や、やめてください」


「ふふ。でもでも、おかげで護身のすべが多少なりとも得られたのではないでしょうか? あって損はありませんからねー」


「それはそうですけど……」


「リトさんとブッセさんの喧嘩に巻き込まれたこともありましたしねー」


「あれは……身近な死を感じました」


 ふたりが雨期の間のリミナでの出来事を振り返っていると、すぐにリミナの出口にたどり着いた。


「さて、雨期開けでどれだけ取り残された生物が居るか、楽しみだね」


 アステルは薄い笑みを浮かべ、壁面の凸凹に手を掛けて上ると、三角形の突起を押し広げて外に出る。


「………………」


「──アステル先輩、外の様子はどうですか?」


 外に出て黙っているアステルに、出てこようと上ってきているラナデが聞く。


「自分で見た方が良いと思うよ。だって──」


 ラナデは突起から顔を出すと、自身の目に広がる光景に首をかしげる。


「本当に雨期があったのかってくらい代わり映えがしないから」


 第三十二回 メモリーお姉ちゃんの豆知識!


 『パッソ』について


 パッソさんはブッセさんと同じくドゥカッセさんの息子で、リミナでは五番目の実力を持っており、普段はよく妹であるブッセさんと狩りの勝負で負けている姿が確認されているみたいです。


 パッソさんはかなり鼻が利くらしく、それはなんと! 小動物が排泄した糞尿での若干の水質の変化なども匂いで感じ取ることができるほどなんです。

 ただ、その鼻の良さ故にちょっとした刺激物ですぐに気絶してしまい、狩りに出ていた際はブッセさんが抱えてリミナへ運んできては適当に投げ捨てられているらしいのですが、それでもなかなか起きないのだとか。


 さて、このパッソさん、リミナに居るときはしょっちゅうアクア・リタさんに勝負事を持ちかけている様子が確認できましたが、一度も勝っている様子は見らませんでした。

 負けても負けてもただひたすらに勝負し続ける姿を見て、なぜそれほどまでにリタさんに勝つことに固執しているのか、勝つための方法を考えないのか聞いてみたのですが、「リタと勝負で勝つ。それはつまりこのパッソがリタよりも強いことの証明になるからな! それに、勝つために何か考えている暇があれば一度でも多く戦った方が勝つ可能性が高いだろう!」とのことでした。これは……パッソさんの戦いは、まだまだ続くことになりそうですね。

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