第二十九話 用事
「──ふいぃ~、やっと終わった~」
「ブッセか、集めたものはあっちに置いておいてくれ」
散らばっていたアザガニの残骸を集め終え、最後に持ってきたブッセはいまだ解体中のユエルォトルの近くに積み上げられたアザガニの山へ放り込む。
「てかさリタ、まだユエルォトルバラし終わんないの?」
ブッセがアザガニを放り込みながらアクア・リタに聞くと、アクア・リタは解体中の仲間たちとユエルォトルの様子を見る。
既に足や尾は切り離せており、胴体も少しずつ削り取り始めている。
「もう少し時間が掛かりそうだな」
そう答え、アクア・リタは再び作業に取り掛かる。と、思いきや、
「そうだブッセ、彼らを呼んできてくれないか?」
アクア・リタは振り返り、その場から去ろうとしていたブッセを呼び止める。
「“彼ら”? どいつらだよ」
ブッセは足を止めて振り返るが、アクア・リタの言う“彼ら”が誰か指しているのか分からず聞き返す。
「アステル=モシュメたちだよ、俺とリトが連れてきた」
「なんで?」
「なんでと言われても、聞きたいことがあるだけだな」
「そっか、分かった」
返事をするとブッセは周囲を見回し、アステルたちを見つけると呼びに歩いて行く。
「……アステル、男だったのか。リタより強いらしいから、万一の場合はあいつかなー。他の奴らは弱過ぎるし」
独り言を呟きながらアステルたちの元へと向かうと、アステルたちは何かを捕まえたのか、3人で話し合っている。
「何それ?」
ブッセが背後から話しかけると、アステルは手に持っているものをしまいながら振り返る。
「気にしなくて良いよ。それより、何か用があって来たのかな?」
「ん? ああ、リタがあんたらのこと呼んでたぞ。なんか聞きたいことがあるってよ」
アステルに聞かれ、ブッセはアクア・リタの伝言を伝える。
「そう、分かった。ありがとね」
そう言いアステルたちはアクア・リタの元へと向かっていった。
3人を見送ると、ブッセは伸びをしてふらふらと歩き始める。
「まだ時間掛かるって言ってたし、あっちゃんは何してよっかなー」
ブッセは何か面白いことがないかと考え、ふと手に持っている槍に目を向ける。
「あっ、何だよ壊れちゃってんじゃん! 刺した槍に飛びつくのは無理しすぎたかなぁ……」
ブッセは悲しげに自身の壊れた槍を見つめると、すぐに周囲を見渡し始める。そして、
「おーいカンツァー、あっちゃんが槍に使ってたトビゲコの爪余ってない? あっちゃんの槍壊れちゃった」
胡座をかいて槍を弄っている者を見つけると、声を掛けて近寄っていく。
カンツァと呼ばれた者は、ブッセの声に気付き顔を上げると、自身の懐から生物の爪らしきものを取り出す。
「それじゃなくてさ、もっと太くて長い先の鋭いやつ」
「…………」
カンツァは取り出した物をしまい再び懐を探ると、ブッセの要求どおり、先ほどよりも太く先の鋭い生物の爪を取り出す。
「そうそれ、あんがと」
ブッセはそれを受け取ると、自身の槍の修理を始める。
穂先を巻いている蔦を解き、元々付いていたが折れてしまった爪を取ると、新しくカンツァから貰った爪を位置に結びつける。
「──できた」
修復し、ブッセが槍に付けた爪を手前に引くと槍に沿うように爪が倒れ、奥に押すと槍に垂直手前になる位置で止まり、それ以上は動かない。
ブッセは周囲を見回し解体して放置されているユエルォトルの尾に目を付けると、槍を持って近付き尾を槍で貫く。
そしてすぐに引き抜こうとするが、先ほど付けた爪が引っかかって抜くことができない。
どうやらブッセの片側槍の見た目をした槍は、穂先の爪がユエルォトル狩りのときのように、獲物に差し込んだときに簡単には取り外せないようにかえしの役割を持つ造りになっているらしい。
槍の状態を確認すると、ブッセはすんなりと槍を引き抜く。
「よし、良い感じ」
ブッセは槍を満足そうに眺める。
「ブッセちょっと良い? 手伝って欲しいことがあるのだけれど」
ブッセが槍を眺めていると、ドゥカッセがブッセの元へ近付いてくる。
「手伝うって、どうかしたの?」
「パッソがまた気を失ってしまったよ。ユエルォトルの腹の中にあったものの臭いにやられてしまったみたい」
そうドゥカッセが指差す先では、ブッセが大の字になって倒れていた。
「今のドゥカッセだけでは運ぶのに苦労してしまうし、怪我がなく暇そうにしているのはブッセくらいだから。お願いできる?」
「またぁ? あいついっつもことあるごとに倒れてんじゃん。いい加減出しゃばんなよなー」
ブッセは悪態をつきながらもドゥカッセの頼みを断る意思は見せず、ドゥカッセとともにパッソの元へと歩いて行く。
「ったく、……あっちゃんが背負うから、ドゥ母ちゃんは下から支えといて」
ブッセは片腕を失ったドゥカッセを気遣い、自身にほとんどの負担が掛かるような運び方を提案する。
ドゥカッセもそんなブッセの気遣いに気付いているのかは分からないが、ブッセの顔を見て少し微笑む。
「……分かったよ。リミナの入り口まで運ぶから、お願いね」
「りょーかい」
ブッセは倒れているパッソの頬を無言で強めに引っ叩き、起きないことを確認すると、背に負い立ち上がる。
しかし、パッソはブッセよりも体格が大きいため、引きずられているパッソの足をドゥカッセが片腕で持ち上げ、リミナの入り口である突起の近くまで運んでいく。
「ドゥ母ちゃん、こいつ降ろすから足離して」
ブッセに言われ、ドゥカッセはパッソの足を話す。
そして、突起の側に付くように、ブッセは邪魔だと言わんばかりに背負っているパッソを乱雑に投げ捨てる。
「みんな必死こいて作業してるってのに、なーに暢気に寝てんだよ。んな状態だからって優しくしてもらえると思ったら大間違いってもんだ」
ブッセは一度その場から去り、ユエルォトルの死骸付近に落ちていたパッソの槍を持ってくると、パッソの顔面目掛けて投げつける。
「全くもって起きやしねえ、こんなんだからいつまで経ってもリタに敵わねえ──」
「リタァッ! このパッソとしょ──」
ブッセがパッソに文句を垂れている最中、突然パッソが大声を上げながら身体を起こし、ブッセは反射的に槍で頭を殴りつける。
頭を殴られたパッソは、再び背を付いて地面に倒れ込んでしまった。
「この野郎急に大声出しながら起きんな」
「ブッセ、あまり強く叩きすぎると、その起きるすらしなくなってしまうよ。気を付けて」
「……はぁーい」
ドゥカッセに注意され、ブッセは隠す気などさらさら無い不満を露わにした返事を返す。
「それじゃあ、ドゥカッセはまだやることがあるから行くよ。後は好きにしてて良いよ」
そう言い残し、ドゥカッセはその場を去る。
その場に残されたブッセは何をしようか考えた後、倒れているパッソを見るやいなや、目が覚めた時用の悪戯を仕掛けるのであった。
第二十九回 メモリーお姉ちゃんの豆知識!
『リミナの民の槍』について
リミナの方々が使う槍は、まだ狩りに出たことがないような若い方が“狩りに出る証”として動物の爪や歯などを槍先に使い自作するものだそうで、個々の個性や性格が反映されたものとなっています。
例えば、アクア・リタさんの槍は、槍とも矛とも取れる形状をした槍で、突くだけでなく斬ることもできるので、獲物の解体などにも使うそうです。この形状の槍は、作りやすいこともあってか真似する方が多いそうですよ。
リトさんの槍は、機動力を重視してのものか、他の方々のものよりも一回り短い短槍で、普段は懐に隠し茂みからの奇襲に適しているものなのだそうです。
パッソさんの槍は、刺々しい見た目の槍で、突くだけでなく薙ぎ払うことで、外れやすい棘が獲物の傷口に刺さり残ります。これにより獲物が動くことで棘が傷口を広げ、継続的にダメージを与えるのだとか。
ブッセさんの槍は、穂に巻き付けている生物の爪が傷口に入り込めるよう穂の中腹が太くなっており、生物の爪は獲物に差し込んだときに簡単に抜けてしまわないようにするものだそうで、一定以上の大きさの生物を逃がさないようにするためだそうです。
ドゥカッセさんの槍は、螺旋状の穂が手元側になるにつれ太くなる造りをした槍で、獲物に深く刺したときにより広い傷口を作り、穂が螺旋状のため出血が止まらなくなるようになっているそうです。しかも、リミナの方々の中でも突出した技量の持ち主で、的確に獲物の首元などの血流の多い箇所を的確に狙うので、待っていれば獲物が出血死して血抜きも同時に済ませられるらしいですよ。
と、今回はこうして話す方を選んで話させていただきましたが、他の方々の槍もよーく見てみると、その方がどのような性格をしているのかが分かるかもしれませんよー。
ああ失礼、文字なので見れませんねー。というか、今回お姉ちゃんの活躍全くありませんでしたねぇー!




