表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/30

第18話 オカピパの繁殖期2

 ラナデがフフゥトゥックの記録をしていた頃、アクア・リタたちはオカピパを捕食しに来た生物を捕まえていた。

 ふたりともマントのフードだけを頭に掛けたまま、体を覆っていた部分を巾着のように獲物を入れる袋として活用している。


「──リト、そっちはどうだ?」


「ぼちぼち」


 リトは水中からマントの端を持ち上げる。

 中は見えないが、バスケットボール程の大きさまで詰め込まれている。


「俺はかなり取れたぞ」


 とアクア・リタも巾着のように使うマントの端を持ち上げる。

 大きさはリトの2倍程あり、中の生物が暴れているのか内側で何かが蠢いていた。


「どうする? 大物は居ないようだし、そろそろ終わるか?」


 アクア・リタは聞く。

 しかし、リトは首を振り、


「まだ、ラナトウを見つけていない」


 そう言って自身の持っている袋を眺める。


「そうか、ではもう少し続けるか。俺も辺りを注意深く見ながら狩りを続けるとするよ」


「うん」


 リトが微笑むのを確認すると、アクア・リタは今一度潜り狩りを再開する。

 続いてリトもラナトウという生物を探して水に潜る。


 水中では、アクア・リタたちが槍を使い、狙いを定めた生物を的確に貫いていく。





「──ラナ君、きちんと記録していますか?」


「は、はい。なんとか……」


 離れた位置で、ラナデとメモリーはアクア・リタたちの狩りの様子を記録していた。


「ではどう記録したのか教えて下さい」


「えっと、“槍で獲物を仕留め、身に纏っているマントを袋にして狩った獲物を入れている”ですかね……」


 ラナデは自信なさげに答える。


「はい、大まかには見れてますね、良いですよ~。ですが、まだまだいけますよ。

 例えば、マントを袋代わりにしていますが、見たところ縛っていませんよね? それに対し、なぜ縛るものが無く狩った生物を取りこぼさずにしまえるのか?

 他にも、水中で槍を使って狩りをしていますが、どうやって水の抵抗を軽減しているのか?

 などなど、よーく観察してみて下さいねぇー。ラナ君ならできますよぉー、ファイトぉ~!」


「が、頑張ります!」


 ラナデはメモリーに言われた通り、ぱっと見の様子だけでなく、物事の細部まで注意深く観察しながら記録を続ける。





 ──その頃アステルはというと、ゴーグルを目元から頭にずらし、オカピパの繁殖地の端にある木に座って記録書に何かを書き込んでいた。


「ふふっ、思ったよりかは少ないけど取り敢えず8種、未記録の生物の確認ができたね」


 アステルは見つけた生物を自身の記憶を頼りに生物のイラストを描いている。

 そして、それぞれ生物の名を各ページに記していく。


「それにしても、アクア・リタ君たちは水中を素早く動くね。後で身体的特徴も色々確認してみたいな。

 ラナデ君も、私の言った通りにアクア・リタ君たちの狩りの様子を記録しているみたいだね。今はメモ姉に手伝って貰っているようだけど、ひとりで記録した場合とどう変わるのか確かめてみたいところかな」


 そう独り言を呟きながら周囲を眺めていると、何かがアステルの足を這って上ってくる。


「ん?」


 前屈みになって足を見ると、黒い虫のような生物が足に張り付いていた。

 アステルはその生物を手に取ると、陽にかざしてまじまじと眺める。


 楕円状の20節に分かれた黒艶とした体。

 体の倍はある細長い2本の触角。

 それぞれ個別に動く10対の白い歩脚。

 尾部に3本の白い尾脚。


「フナムシの仲間かな?」


 アステルがその生物を記録していると、リトが急いで近寄ってくる。


「そ、それ、ラナトウ! どこに居た?!」


 リトは少しばかり興奮した様子でアステルに聞く。


「ここに座ってたら足に上ってきたから捕まえただけだし、記録はもう済ませたから、欲しいならあげるよ」


 アステルは記録書をしまい、ラナトウを差し出す。

 しかし、リトは首を振る。


「それはあなたが捕まえたもの、あなたが食べて。

 そのまま食べるのが美味。おすすめ」


 リトはアステルに食べるように促す。


「そう? じゃあ──」


 アステルはラナトウを半分に千切り、下腹部を食べる。そして、再びゴーグルを目元に付けて木から下りると、



「私はもう食べたよ。うん、クリーミーで甘いね。

 ほら、もう半分食べて良いよ。取った私が許可する」


 と言ってもう半分をリトの口元に持っていく。


「いえ……」


 リトは一度断ろうとするが、大人しくラナトウの上半身を食べる。


「くりぃーみぃ? というのは分からないけど、やはりラナトウは美味」


 リトは顔がほころぶが、すぐにはっとして頬を両手でこねて気恥ずかしそうにそっぽを向く。


 アステルは視線をリトから逸らす。


「もう狩りは終わり?」


 アステルの視線の先では、いまだに繁殖を行うオカピパとそれを狙う生物たちが水しぶきを上げて狩りを行っていた。


「私は目的を果たした。あとはリタ次第」


 アステルとリトが話していると、記録を終えたのかラナデが近付いてくる。


「──あの、もう狩りは終わりなんですか?」


 ラナデは聞く。


「……私と全く同じことを聞くね」


「え? そうなんですか?」


「うん、アクア・リタ君が戻ってきたら考えようってさ」


「そうですか、分かりました。それで、アクア・リタさんはどこに居るんですか?」


 ラナデが聞くが、アステルとリトもアクア・リタ我ととに居るのか分からず、4人で周囲を見回していると──、


「みんなー! 来てくれ! デカいのが居たぞ!」


 突然、アクア・リタの声が周囲に響き渡る。


 第18回 メモリーお姉ちゃんの豆知識!


 『ラナトウ』について


 ラナトウとは、別名“鳥糞蛆とりぐそう”と呼ばれる等脚目・ワラジムシ亜目・フナムシ科・フナムシ属・ラナトウ亜属に分類される雑食性の甲殻類です。


 淡水、汽水、海水などのあらゆる水域に生息でき、コケや動物の死骸などを食べて生活しており、ちょっとした震動ですぐに木の隙間などに隠れては数秒も経たずにすぐに顔を出すという、臆病なのかそう出ないのかいまいちよく分からない性格をしています。

 ただお馬鹿なだけかもしれませんけれど……。


 ラナトウは、皆さんよく知る『フナムシ』同様エラ呼吸をしていまして、長時間水中から離れてしまっては呼吸ができなくなってしまいます。だからといって水中に長時間居ると黒い体に白い脚という、夜の無い水没星では暗闇に紛れられず、かつ基本居るのが水面で明るいので絶妙にばれやすい体をしており、食べられてしまいやすいのです。

 因みに、エラは尾脚の中に備わっていますよ。


 繁殖時には卵を自身のお腹に蓄えるのですが、その際他のラナトウに食べられてしまわないように、お母さんラナトウは必死に卵を守り抜かなければなりません。何せ卵は栄養価が高いですからね。

 無事卵から孵った子ラナトウは、生後1ヶ月間母親に付いて行動し、コケや死んだきょうだいの体を食べて成長します。

 そうして1ヶ月間生き抜いた子ラナトウは、最後に旅立ちのエネルギー補給として、お母さんラナトウの体を食べて物理的に親離れするんです。


 中々に壮絶な生態をしていますよねー。お姉ちゃんも、シュメちゃんになら食べられても良いかも! なんて、きゃっ☆

 ……ああ、食べられるような肉体お姉ちゃんには無いんでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ