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第十五話 カレハじゃないよカエルだよ

 マルタヒキガエル探しを終え、アステルたちはリミナに帰る前に狩りをしようと森の中を歩き回っていた。


「な、なあ君たち、彼は一体どうしたんだ?」


 アステルが記録書を取り出し、突然リトに執拗に話しかけ始め、その雰囲気が気になったアクア・リタはラナデとメモリーに話しかける。


「彼?」


 ラナデが頭に疑問符を浮かべていると、メモリーが何かに気付いたようでラナデに声を掛ける。


「恐らくですが、シュメちゃんのことを男の子だと思っているのではないでしょうか? 時々あるんですよー、シュメちゃんを男の子と勘違いして好意を寄せた結果、拗れてしまった子とか」


「そ、そうなんですか? 教えた方が良いですかね」


「いえ、面白いのでそのままにしておきましょう!」


「……」


 ラナデとメモリーが話していると、再びアクア・リタが声を掛けてくる。しかし──、


「な、なあ、アステル()はなぜ急にリトに迫りだしたの──ハッ!? そういうことかッ!」


 アクア・リタは答えを聞くまでも無く自己解決してしまった。その解釈が正しいかは、また別の話だが……。


「なんだか、勘違いしてませんか……?」


「ですね。シュメちゃんのあれ(・・)は興味200%ではありますけれど、下心は微塵もありませんからね。というかそもそも、シュメちゃんに下心ってあるんでしょうか?」


「あの、それならあれこそ教えてあげた方がいいんじゃ……」


「いえ! 面白そ……コホン、温かい目で見守っておきましょう!」


「…………」


 職員のことなのに、そんなに適当で良いのだろうかとラナデが困惑していると、いつの間にかアステルはリトへの質問攻めを終えており、辺りをうろちょろと歩き回っては茂みに上半身を突っ込んでいた。


「──あ、見つけた」


 茂みの中に上半身を突っ込んだままそう言葉を発すると、アステルの動きがピタリと止まる。

 そして、茂みから体を引っ張り出すと、


「ふふ、やっと未記録の生物を見つけたよ」


 薄い笑みを浮かべるアステルの手には、これまた平べったいカエルが捕まれており、抜け出そうともがいてはいるが、手足が短くまるで意味を成していなかった。


「名前は何にしようかな……」


 アステルが記録書を取り出そうとしていると、アクア・リタが近寄ってカエルを眺める。


「これは、“ヒラゲコ”か」


 アクア・リタはリトに「合っているか?」と聞き、リトは頷く。


「え、それこのカエルの名前?」


 アステルは聞く。


「いいや、それの名という訳ではなく、オオゲコ同様平たいゲコだからヒラゲコと呼んでいるんだ。ルオロートルのような生物名()を表す名ではないな」


「それなら良かった。名前は付けられるね」


 アステルはほっと息を付き再びカエルの名を考え始める。


 全体的に枯葉かのような茶色身掛かった体。

 後ろ脚には白い横縞模様。

 目の上には角のような突起。

 口を開けばよく伸びる細い舌。

 

「そうだね、『オカピパ』かな」


 アステルはラナデに媒体に記録するよう促すと、自身はオカピパを片手によく観察しながら記録書に『オカピパ』の名前と身体的特徴を、イラストとともに書き込んでいく。

 途中、匂いを嗅いだり舐めてみたりとしていたが、苦かったのか酸味掛かっていたのか、僅かに顔をしかめて唇を噛んでいた。


 そして、アステルは記録を終えると、オカピパを茂みへ返そうとする。


「──ちょっと待ってくれ」


 そう言ってアクア・リタがアステルの腕を掴む。


「どうかした?」


「アステル=モシュメ、オカピパ(ヒラゲコ)を貸してくれないか。面白いものを見せてあげよう」


「面白いもの? 未記録の生物を見つける以上に面白いものなんてないと思うけど……」


 アステルがぶつくさと言っていると、アクア・リタはアステルからオカピパを受け取り、足元にひっくり返して置く。


 ひっくり返されたオカピパは、足をバタつかせながらキュウキュウと鳴き始める。

 しかし、鳴き始めたはいいが、特に何かが起こる気配は感じられない。


「面白いものって、何なんでしょうか?」


「さあ、何でしょう。お姉ちゃんもさっぱりです。シュメちゃんは──、聞いても答えてくれなさそうですね」


 ラナデとメモリーは飽き始めていたが、アステルたちはじっとオカピパを見つめ続けていた。


「…………」


 段々と鳴き声が激しくなっていく。そして、気になったアステルが顔を近づけた瞬間──、


 オカピパが飛び跳ね、アステルの顔面に直撃。


「んなっ!」


 オカピパは自身の分泌する粘性の体液で、アステルの顔面にぴったりと張り付いてしまった。


「あらら~」


「だ、大丈夫ですか?」


 ラナデがオカピパを引き剥がそうとしていると、アクア・リタとリトはアステルを見て笑っていた。


「す、すまない……。顔を近付けてはいけないことを伝え忘れていたな……」


「ビタって……、昔のリタと同じ……」


 笑われているアステルはというと、目元は隠れていて見えないが、口は少しばかり口角が上がっていた。


「いやあ、面白い目に遭ったね」


 オカピパを剥がしながら言うと、既に口角は元に戻っており、記録書のページに新しく情報を書き込んでいた。


「それにしても、どうして突然飛び跳ねたんですかね? ひっくり返っていたのに……」


 ラナデは疑問を口に出すが、メモリーは肩を竦めて「さぁ~」と笑いながら答える。

 アクア・リタたちに顔を向けるが、ふたりも分からないようで同じように肩を竦めて首を振る。


オカピパ(このカエル)、起き上がる手段として一瞬の間に急激に膨らんで、その反動で飛び上がるみたいだよ。コメツキムシみたいだね」


「み、見えてたんですか? 僕には全く……」


「近くで見てたからね。ラナデ君も記録しておいてね」


「はい」


 アステルはラナデに新たな情報を記録するように促し、ラナデはモニターを開き記録する。


「──よし、終わったね。このあとはどうしようか」


「ヒラゲコがここに居たのなら、近くに群れが居る可能性がある。そこに行けばヒラゲコを狙う生物が複数匹居るだろうから、それを狙いに行こう」


「ふむ、いいね。未記録の生物もたくさん集まるだろうからね」


 そう言うとアステルは、顎に手を当てて考え始める。


「……そうか、全然生物が見つからないのも、そもそもこの星の生態系の基盤が、“カエルが動き出すことで他の生物も動き出す”からなのかもしれないね。

 であれば、この星で探すべきは、カエルの群れということになるのかな」


「ほうほう、流石シュメちゃん、中々に面白い考察をしますねぇー」


 メモリーは興味深げに言うと、「そういえば」と話を続ける。


「動物には、本能的に他の動物の産卵期を狙う習性を持つものも居ますし、カエル科は生態系強者になることは少ないので、可能性としては十二分にありえますねー」


「そうなんですか? どの星も似通ってるところあるんですね」


「ラナ君、聞きます?」


「え?」


 メモリーは半ば強制的にラナデに解説をし始め、アステルはその様子を尻目にアクア・リタたちとともに、オカピパを追って先へ先へと歩き進んでいってしまう。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」


「ラナ君、まだお話は終わっていませんよ!」


「せ、せめて歩きながらでお願いします……」

 第十五回 メモリーお姉ちゃんの豆知識!


 『オカピパ』について


 オカピパとは、別名“加皮子守かぴこもり”と呼ばれる無尾目・ピパ科・カピパ属に分類される肉食性の無尾両生類です。


 普段は水辺で落ち葉に擬態しており、その生涯のほとんどを動かずに過ごしています。移動手段としては、水に浮いて流されるくらいでしょうか? 移動手段にはあまりなっていませんね。


 オカピパは、生涯のほとんどを動かず過ごすと言いましたが、産卵期の時だけ活発になり、繁殖地への活発な大移動を始めます。

 その際、他の動物に目を付けられ、3割程のオカピパが餌食になってしまいます。

 それでも繁殖地へ辿り着いたオカピパは、無事のんびりと繁殖を始めることができるんですよー。──とは行かず、移動中に捕食せず繁殖地まで追い続けた生物や、繁殖地を見つけた生物に食い荒らされながら一世一代の大繁殖を行い、ここで更に5割が餌食になります。


 この繁殖方法をとる理由としては、単独で繁殖をしても食べられてしまう可能性が高く、それならば食べられながらでも、数多く集まって一斉に繁殖をするためで、運良く繁殖できたオカピパは、雌が雄の背中に卵を産み付け、繁殖地から離れます。しかし、ここでも1割餌食になってしまいます。

 最終的に生き残れたオカピパは1割以下になってしまいますが、1匹1匹が一度に数万から数百万個の卵を産むので、結果的には増えすぎず減りすぎずというわけですねぇー。


 まあ、その中でも成体になれるのは半分程なんですけれど……。大変ですよねー。

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