飴
私はイチゴ味派である。
何の話だというツッコミは無しでお願いしたい。飴ちゃんの話だ。
今日もポケットに忍ばせた飴を口に含み、味わっている。
飴を常に身に着けていると言うと大阪のおばちゃんみたいだね、とこの前友達に笑われた。
別に気にしないけど。
飴が嫌いな女の子はいないのだろうな。
もちろんイチゴ味派以外の人もいるわけで、レモン味だのミカン味だの好みもその人それぞれだ。
そうなると私が毛嫌いしているパイン味派もいるわけで。
その代表が今、私の目の前の席に座るこいつ、篠原である。
篠原という男は、先輩に「かわいい」などで騒がれており、ふにゃっとした笑顔はクラスの女子連中をぞっこんにさせている。
一言で言うと、ひよこのようにぽわぽわとしていて、黄色い女子の声を全身に浴びる、パイン男というわけだ。
そのパイン男が私のほうへ振り向く。
「なあ、谷崎。パイン飴持ってる?」
思わず眉間に皺を寄せる。
「は?持ってるわけないじゃん。あんなまずいもん。」
「ひっでえなその言い方!うまいぞーパイン飴。」
そう言って私が手に持つ飴が大量に入った袋を取り上げる。
巾着袋のそれを、覗くようにパイン飴を探し出した。
パイン飴が好きで黄色い声を浴びてる。完璧にひよこじゃないか。
内心そう考えていると、篠原は不機嫌そうに、
「ちぇーイチゴしかねえのな。」
「ざぁんねんでした。」
わざとらしくそう言い、私は彼の手にある飴袋を奪い、自分のかばんの中に押し込んだ。
そこでふと、篠原は私に質問した。
「谷崎、イチゴ好きなの?」
「うん。めっちゃ大好き。」
ふうん。と彼は呟くと私を2,3秒見やった後、席を立ち、教室の隅に集まる女子集団の方へ歩いていった。
私は首をかしげながらその姿を見ていると、しばらくしてコンビニ袋を抱え、彼は戻ってきた。
明るい茶の髪が跳ねる。
「じゃーん。見てこれ。」
誇らしげにその袋を私に突き出すと、お得意の笑顔を私に向けた。
うっかりきゅんとした。素直に可愛いと思う。
それ、何?と聞くと、
「イチゴ大福!いる?」
今、私の中でこいつの格、いっきに上がった気がする。
思わず私は、
「いるぅ!!」
と、叫んだ。
それにびっくりしたか、篠原、目を大きく見開いて、また柔らかく笑った。
なんだか私はその笑顔を見て、恥ずかしくなり、頬に熱を集中させた。
それを隠すように、彼の手にあるイチゴ大福をむしりとるように取り上げ、わざとらしく音をたてながら、袋に包まれた大福を開け、口に押し込んだ。
「おいしい?」
「ん。うまい。」
ぶっきらぼうにそう呟く私に、篠原は、
「うん。よかった。」
なんとなく、顔は見なかった。否、見れなかった。
口の中にイチゴの甘酸っぱい香りが広がる。
明日はパイン飴を食べようと思ったのは、絶対に内緒だ。