表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者: 寿


私はイチゴ味派である。


何の話だというツッコミは無しでお願いしたい。飴ちゃんの話だ。


今日もポケットに忍ばせた飴を口に含み、味わっている。

飴を常に身に着けていると言うと大阪のおばちゃんみたいだね、とこの前友達に笑われた。

別に気にしないけど。


飴が嫌いな女の子はいないのだろうな。

もちろんイチゴ味派以外の人もいるわけで、レモン味だのミカン味だの好みもその人それぞれだ。

そうなると私が毛嫌いしているパイン味派もいるわけで。

その代表が今、私の目の前の席に座るこいつ、篠原である。


篠原という男は、先輩に「かわいい」などで騒がれており、ふにゃっとした笑顔はクラスの女子連中をぞっこんにさせている。

一言で言うと、ひよこのようにぽわぽわとしていて、黄色い女子の声を全身に浴びる、パイン男というわけだ。


そのパイン男が私のほうへ振り向く。


「なあ、谷崎。パイン飴持ってる?」


思わず眉間に皺を寄せる。


「は?持ってるわけないじゃん。あんなまずいもん。」

「ひっでえなその言い方!うまいぞーパイン飴。」


そう言って私が手に持つ飴が大量に入った袋を取り上げる。

巾着袋のそれを、覗くようにパイン飴を探し出した。


パイン飴が好きで黄色い声を浴びてる。完璧にひよこじゃないか。

内心そう考えていると、篠原は不機嫌そうに、


「ちぇーイチゴしかねえのな。」

「ざぁんねんでした。」


わざとらしくそう言い、私は彼の手にある飴袋を奪い、自分のかばんの中に押し込んだ。


そこでふと、篠原は私に質問した。


「谷崎、イチゴ好きなの?」

「うん。めっちゃ大好き。」


ふうん。と彼は呟くと私を2,3秒見やった後、席を立ち、教室の隅に集まる女子集団の方へ歩いていった。


私は首をかしげながらその姿を見ていると、しばらくしてコンビニ袋を抱え、彼は戻ってきた。

明るい茶の髪が跳ねる。


「じゃーん。見てこれ。」


誇らしげにその袋を私に突き出すと、お得意の笑顔を私に向けた。

うっかりきゅんとした。素直に可愛いと思う。


それ、何?と聞くと、


「イチゴ大福!いる?」


今、私の中でこいつの格、いっきに上がった気がする。


思わず私は、


「いるぅ!!」


と、叫んだ。

それにびっくりしたか、篠原、目を大きく見開いて、また柔らかく笑った。


なんだか私はその笑顔を見て、恥ずかしくなり、頬に熱を集中させた。


それを隠すように、彼の手にあるイチゴ大福をむしりとるように取り上げ、わざとらしく音をたてながら、袋に包まれた大福を開け、口に押し込んだ。


「おいしい?」

「ん。うまい。」


ぶっきらぼうにそう呟く私に、篠原は、


「うん。よかった。」


なんとなく、顔は見なかった。否、見れなかった。

口の中にイチゴの甘酸っぱい香りが広がる。


明日はパイン飴を食べようと思ったのは、絶対に内緒だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ