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花の贖罪 笑えと貴方は言った  作者: 雛雪
プロローグ
9/13

第八章 境界線

森のざわめきが遠のいた頃、リリスはまだ薄暗い木漏れ日の中で小さく息をついた。

黙って歩くカインの背中は、まだ遠い。だが、確かな存在感が彼女の胸に残っていた。


「なぜ……俺が、助けなければならないんだ?」

カインは、リリスに向けたのか、それとも自分自身に問いかけたのか、曖昧な声でつぶやいた。

リリスは答えようとして、やめた。

答えは彼の中にあるのだと、なんとなく感じたからだ。

彼は言葉にしづらい感情を押し込め、ただ行動で示そうとしている。

それが、彼なりの「味方」だと知っていた。


「私が生贄と呼ばれても、誰も私のことを知らない」

リリスの声はかすかに震えていた。

「誰も理解しない孤独の中で……あなただけが、“味方”だと言ってくれた」

カインは黙ったまま視線を落とす。

やがて、ほんの少しだけ肩を揺らし、息を吐いた。

「……俺にできるのは、せいぜい、そのくらいだ」

言葉は冷たく響いたが、リリスにはその裏に隠れた強い決意が見えた。


二人は言葉を交わさずに、しばらく歩いた。

やがて森の出口が見え始め、明るい光が差し込む。

「ここを抜けたら、どうするの?」

リリスが小声で訊ねた。

カインは立ち止まり、しばらく空を見上げてから答えた。

「まずは、俺の家に戻る。父に話さなければない」

リリスは不安を抱えながらも、ついていく決心をした。


ふたりの足跡は、静かな森の土に刻まれていく。

過去と未来を分かつ境界を、いま、確かに越えて。


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