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花の贖罪 笑えと貴方は言った  作者: 雛雪
プロローグ
6/15

第五章 森を揺らす影

再び静けさが戻った森の中、二人はその場に立ち尽くしていた。

カインはリリスの手をそっと握り返し、静かに周囲を見渡す。

霧の合間から揺らめく樹影が、まるで生き物のように動いている。

「誰かが、俺たちを追っている」

カインの声に緊張が混じる。

リリスは恐怖で身体が震えそうになるのを必死に抑え、カインの背中にぴったりと寄り添った。

「なぜ……私たちを?」

カインは答えずにゆっくりと森の外へと歩を進めた。彼の足取りには迷いがなかったが、その目は深い森を映していた。

「わからない」

カインはぽつりとつぶやく。

「…何かがあるのか?」

黒衣の者たちが、森の奥にいるのが垣間見えた。

彼らは人間のようでいて、どこか異形だった。

月明かりに浮かび上がったその輪郭には、常人にはない歪みがあった。


「走れ!」

カインがリリスの手を強く掴み、一気に走り出す。

枝が折れ、葉が揺れ、森の中に激しい足音が響き渡る。

リリスは息を切らしながらも、必死にカインについていった。

追いかけてくる影は確実に近づき、恐怖がリリスを包み込む。

しかし、その緊迫した瞬間、リリスの胸の奥に、これまでにない強い意志が芽生え始めていた。

「私は、ここで終わらせない」

心の中でそう決めた彼女の眼差しは、揺るがぬ光を宿していた。


森の闇と運命の狭間で、リリスとカインの逃走劇は激しさを増していく。そして、この先に待つ真実と対峙するため、彼らは進み続けるのだった。


意図せず森の奥深く、二人は駆け抜けていた。枝葉が容赦なく顔や腕に当たり、リリスの息は荒くなる。だが、後ろから迫る足音は遠くなるどころか、確実に近づいていた。

「こっちだ!」

カインは声をひそめ、低い場所へと誘導した。

小さな渓流の岩陰に身を隠す二人。リリスは体を震わせ、心臓の音が耳の奥で響いていた。

息をするのも苦しいほどの緊張の中、カインがそっと肩を抱き寄せる。

その手の温もりが、わずかに現実感を取り戻させた。

「大丈夫だ。俺が必ず守る」

その言葉には言葉以上の力が宿っていたが、リリスの心はまだ揺れていた。

「どうして……助けてくれるの?」

言葉は震えていた。彼女にとって、誰かが“自分側にいる”ことは初めての経験だった。

カインは答えず、遠くの暗がりを見据えた。

「理由なんていらない。君が、今ここにいるだけでいい」

しかし、森の闇は深く、彼らを逃がす気はなかった。かすかに聞こえた囁き声のような不気味な声が、風に乗って流れてきた。


「もどれ……モドレ……戻レ」

幾重にも重なる声が、風の中から響き渡った。

リリスは恐怖に震えたが、その中に決意も見え隠れした。

「私は、誰かに守られるだけの存在じゃない。

――あの日、誰にも抗えなかった自分を終わらせるために。私にも、守りたいものがある」

カインはその言葉に一瞬、驚きと共に微かな笑みを浮かべた。

「それでこそだ」

不穏な気配の中、二人は再び立ち上がり、森のさらに深みへと足を踏み入れた。

彼らの背後で、黒衣の者たちの影が蠢き、次第に包囲網を狭めていく。

リリスの心には恐怖と希望が入り混じり、闇の中でも一筋の光を求めていた。

その光は、やがて彼女の運命を大きく動かすことになる。

誰かが読んでくれるといいなぁ(人´꒳`)♡⃛ꕤ

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