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キョウ・ネリウム

怪我も軽く、ミズキの気持ちの整理が出来次第ということもあり、

局の病院の一室に全員が揃った。


しかも今回は他のギルド関係者を通話で含めてだ。


「今回の襲撃でキョウ・ネリウム他かなり危険な人物達が組織的に動いているようです」


ポーラが地球での出来事を簡潔に報告した。


「こちらからの依頼とはいえ、全員無事に戻ってこれたのは大したものだ。

そしてこれだけ危険な組織が発覚したのだから対処せずにいられないだろう」


ステラの言う通り局内は大騒ぎしている。


長らく不明だった元上級貴族の犯罪者が確認されたのだから当然だろう。


そしてかなり危険な組織になり、集まっていることも危険な要因だ。


ただ集まって仲良くしているわけがない。何かを企んでいるのだろう。


「ここでお聞きしたいのですが、キョウ・ネリウムとはどのような人物なのでしょうか?」


上級貴族ということもあり知られている情報は少ない。


特にポーラ達みたいな一般魔導士は名前こそ知れど、

どのような人物かは尾ひれの付いた噂程度しか知らず、

正確な人物像は知られていない。


これから敵対するであろう人物を詳しく知る知らないでは大きな差になる。


「そこは私から話しましょう」


姪であるスプニールが教えてくれるようだ。


「まず下級まで知られている話だと、歴代最強の七剣徒(セプトレア)という事ね。

これは現筆頭の紅狐(べにぎつね)の君や候補の白狐月(しろこづき)の君を簡単に超えるほどよ」


現筆頭も候補もポーラ達から見れば天井の方々、それを簡単に超えるなんて想像し難い。


「その根幹を支えるのが異能“知覚超過の毒(エクスパーセプション)”という見切りの力」


「それは、どういう異能なんですか?」


トウヤが合いの手を入れるように質問する。


「見切り、つまり攻撃などの動きを、いつ、どのような軌道で進むか判断出来る目と聞いたわ」


攻撃の速さと軌道が解る。つまり簡単に避けられるようになると言う事だ。


そしてその攻撃にカウンターの要領で反撃すれば一方的に攻められる。


さらに動きが見切れるのであれば、避ける動きも見極めることが出来る。


最強と言われる所以は、どんな強力な攻撃にも当たらず、

避けることを許さない一方的な攻めがあることだろう。


そしてこれが敵対するとなると絶望的な戦いだ。


「そして神童と言われたほどの頭脳を持っているにも関わらず、

魔法知識に貪欲で一般魔法はもちろん、藤躑躅(ふじつつじ)の君の魔法まで習得しているそうよ」


魔法の中にはタイプや属性を選ばない魔法が存在する。


念話といった簡単な魔法から、専門的な知識を要求してくるものがあるが、

その中でも専門的なものは魔導士でも活用している人が多い。


藤躑躅(ふじつつじ)の君の魔法は錬成陣と呼ばれるものを使い、魔法の効果を留め、

任意のタイミングで使用することが出来る。


また錬成陣は複数組み込むことができ、その組み合わせ次第では無限の可能性を秘めている。


「それで、人体実験か……」


トウヤの言葉にスプニールは頷いた。


「ええ、その組み合わせの良し悪しを実際に試してみたのでしょうね。

叔父様が変わられたのは藤躑躅(ふじつつじ)の君の影響が大きいわ」


「一応、うちのギルドの人間だ。妙な言い掛かりは控えていただきたいんだが?」


スプニールとステラの間で火花が散っているように見える。


「そういえば、穢れた六花様はどちらに?いらっしゃっても良い場だと思いますが?」


「……たぶん、どこかで錬成陣のデータでも取ってるんだろう」


つまり所在がわからないと言う事だ。


「ミイナは何か聞いてる?」


「わたしは見限られているので教えてくれることは無いと思いますよー?」


酷い話だがミイナ自身何とも思っていないようだ。


「話を戻しまして、叔父様で厄介な点はもう一つ、非常に高い人心掌握術を持ち、

圧倒的な魅力で全ての人を従わせ、盲信する人を増やすところです」


全ての人、そういえば仲間と思われる人物に蛇の亜人がいた。


蛇の亜人は気性が粗く攻撃的だと聞く。


そんな人が仲間にいるということは、それだけの力ということだ。


「その仲間についてですが……」


ポーラが手を上げ、スプニールの様子を伺う。


スプニールも察したようで、軽く頷き下がると、ポーラは話し始めた。


「遭遇した時の映像から、数人の身元が判明しました。

行方がわからず、死亡扱いになっていた人物の他、S級犯も居ました」


全員の目の前に遭遇時と名簿の映像が現れる。


「ラヴィ・スケイル、こいつたしか強化系の亜人だったはずだ。

爆発の魔法は使っていなかったはずだぞ?」


リーシャが知っていた顔だった蛇の亜人の話をしている。


「隣の大男の魔法だったかもしれないし、

さっき言ってた藤躑躅(ふじつつじ)の君から学んだ魔法じゃないか?」


錬成陣を使った魔法は兵器として運用した場合、その能力は脅威でしかない。


ただの剣に錬成陣で強化したり、伸びるなんて効果も付けられる。


魔法の常識である、強化系だから強化が得意でそれ以外が苦手は通用せず、

強化系だから錬成陣で補助して変化系を使おうという形に変わる。


この辺りは魔導士がデバイスを使うと言う事に近い感覚なので、

相手も同じ発想を持っていてもおかしくない。


一人一人が厄介なのに、そいつらが集団で何かを企んでいる。


狙いがわからない。完全なお手上げ状態だった。


「これからのクエストはこいつらが絡んでいる可能性がゼロではなくなった。

全員、細心の注意を払いながらクエストに挑んでもらおう」


ステラの一言に妙な緊張感があった。


「そして最も気を付けなければならないのが、トウヤ、ミズキの両名になるだろう」


今回の襲撃で相手も魔力反応を確認する手段を持っており、

そこで確認した麗王(れいおう)に匹敵する魔力を持つミズキを捕まえに来た。


そしてキョウの発言からトウヤがキョウの子供である可能性が高くなった。


「そこで、ミズキとやら」


ステラに名前を呼ばれミズキに緊張が走る。


「お前が知る母、マミという人物についての情報を教えてくれないか?」


「……」


緊張、恐怖、その何とも言えない感情がミズキが話す事を阻んでいた。


両手を固く握りしめ、汗ばんできた。


聞いた話だと母親はかなり危険な人物と関わっていたこと。


そして兄と思っていた人が他人かもしれないことだ。


ミズキの中で家族というものが崩れているのがわかる。


もう訳が分からない。何も考えたくない。


助からない方が幸せだったかもしれない。


訳のわからない集団に全てぶち壊された気分だった。


ふと手を握られた。


思わず引こうとしたが、強く握られ引くことが出来なかった。


その手を握ってきた相手を確認すると、兄かもしれないあの人だった。


「たぶん……俺達は今、ミズキを苦しめてるよね?」


「……」


「ごめん、でも知りたいんだ。俺が何者かを」


「……」


「それに、ミズキが……唯一の家族かもしれないんだよね?」


家族という言葉にミズキは思い出した。


この人は家族を、そして記憶も失っている。


ミズキと同じか、それ以上に不安なのかもしれない。


そして、この人だけに感じた安心感。


それはこの人にだけならこの不安な気持ちを支えてくれるかもしれない。


そして逆に……


そう思ったら話せるような気がした。


この人の、兄かもしれない人のために。


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