訪問者
両親、家族
自分にもいたはずだが、記憶に無い。
そんな記憶に無い人達のことを考えるよりも、目の前にいる人達のことを考えた方が良い。
そう思い深く知ろうとは思わなかった。
「記憶が無いから両親がどんな人かわからないんだよね」
「そう……なんですか。すみません、顔見た時、懐かしいん感じて……」
「やっぱり!身内の誰かっぽいとかある!?」
ミズキの傍で話を聞いていたポーラが話に入ってくる。
「おいこら、俺の過去に興味あるのはわかるけど、あまりがっつくなよ」
「俺……?」
「あれ?もしかして気づいてない?俺は男だよ」
「!?」
やはり初見で男に見られるのは難しいようだ。
「す、すみません、あの人だけ男の人に見えたんで……」
あの人、ファイゼンのことだ。
「そういえば、最初の暴走も、怖がった時も、俺が入った後だったな」
最初の暴走はミズキが身の危険を感じ、守ろうとした結果暴走した。
そしてその後、怯えたタイミングはファイゼンが入室した時だ。
まったく気にしていなかったので気づけなかった。
「……ねえ、ミズキは今初めて男だってわかったけど、
それでもまだトウヤが怖いって感じる?」
「え?……いや、画面越しなんで今はまだ平気です」
「……思い切って実際に会ってみる?」
「え!?」
「おいおい、大丈夫なのか?」
ポーラの大胆な提案にトウヤは不安しかない。
「画面越しよりも実物の方が解かる物ってあるでしょ?
画面に映らない部分の情報があって初めて解かることもあるんだし」
「だからってわざわざ怖い思いさせなくても……」
「もちろん怖いなら即座に止めるわ。でも……
このまま男が苦手ってすごく苦労すると思うの」
「苦労するってのは理解出来るが、だからってそんな手荒な事出来るかよ」
会わせたいポーラと会いたくないトウヤの意見は平行線だが、
ミズキがその話を終わらせる。
「私、会ってみます。このモヤモヤする気持ち残したないんで……」
当の本人が会いたいというのであれば周りが止める理由はない。
「わかった。警察ももう動き無いだろうから、そっちに戻るよ」
事件を見届けたトウヤはポーラ達の元へ戻った。
「入るよ」
トウヤは扉を開け、ゆっくりと入る。
「だ、大丈夫……です」
トウヤとミズキが同じ部屋にいる。ここまでは変わらず大丈夫なようだ。
徐々に距離を詰める。徐々に……徐々に……
とやってるうちに手の届く範囲にまで近づいた。
「俺の場合心配ないってことか?」
「は、はい。怖さよりも懐かしさや安心感が強いみたいで……」
なんだか心配して損した気分だ。
「よかった~トウヤみたいに同郷ならいろいろ相談できるから、
少しは気が楽になったんじゃない?」
「は、はい……」
「無理矢理すぎる……ああ、そうだ。頼まれた写真渡さないとね」
トウヤは回収した写真をミズキに渡す。
「あ、ありがとうございます」
「その人がミズキのお母さん?」
「はい」
ポーラが写真の女性とトウヤの顔を見比べる。
「確かに面影があるってのはその通りよね。ホントに無関係なの?」
「無関係だろ?お兄さんも……そういえばお兄さんって生きてれば何歳?」
「え?えっと……」
「年上ならって話でしょうけど、あんた自分の年齢把握していないでしょ」
「あ、ああ……確かに。大体15くらいとしか思ってないな。
えっと地球の西暦だと20××年11月3日だから……」
「え!?お兄ちゃんと同じ――!?」
ミズキの驚きと同時にポーラが急に立ち上がり、外の方向に構えた。
(臨戦態勢!?)
ミズキは何かわからず驚いた様子だが、トウヤは理解した。
封絶の外から中へ誰か入ったようだ。
封絶は中の出来事を外とは別に隔離する効果があると同時に、
使用者に干渉の有無を知らせるセンサーでもある。
外から中に入る。これは魔法が使える人間でなければ不可能だ。
魔法の文化が無い地球で封絶に干渉する。
身内ならば局から知らされるはずだが、それが無いということは……
「侵入――!!」
局からの何者かの侵入を知らせる言葉よりも早く大きな爆発が起こった。
封絶への干渉からポーラだけは察知出来た。
そして近くにいたトウヤ、クルルはミズキを守るように動き全員無事だった。
だが他は完全に油断していたため、不意打ちを食らっただろう。
「いひひひ、良いデバイスだ。あたしが求めていた通りだよ」
「まだテスト段階だ。過信はするな」
土煙から男女の声がする。
「およ?無事だった奴らがいるようだな?」
「封絶に干渉したからな。そいつは先に気付いていただろう」
土煙が晴れて姿が見えてくる。大柄な男と女は下半身が異常な姿だった。
「ならテスト続行だな」
ポーラ達の姿を確認し、女の方は戦闘を始めようとする。
ギョロリとした目、ニタッと笑った口元は異常な程大きく動いた。
その姿は下半身と合わさり、蛇のように見える。
「おい、本来の目的を忘れるな」
男の方は冷静に話している。
「麗王に匹敵する魔力の確保だろ?わかってる!」
女は体を撓らせポーラの方へ突っ込む。
だがそこに合わせたかのように紫の光が発せられる。
「紫電一閃!」
斬撃に特化したトウヤの一撃は女に直撃。
することはなく、振り下ろす前に男に止められた。
そして女の方も男に止められている。
「焦り過ぎだ」
「くっ!」
止められた女は距離を取るために後ろへ下がり、
それを確認した男はトウヤを押し、後ろへ追いやった。
(女は直情的で素早く、男は冷静で女より強そうだ)
手合わせした感じ、男の方が厄介だとトウヤは判断した。
「待て」
物陰から新しい男の声がした。
その声を聞くなり、男と女は跪き、その声の主に頭を下げた。
「戦場だ、そこまで畏まらないで良い。そして局の魔導士に提案だ。
麗王に匹敵する魔力の持ち主を、こちらに預けて……」
現れた男は淡々と話を進めたが、何かを見つけ目を疑った。
「そこのお前、もしかしてマミか?」
ミズキを見て何か言っている。
「おい!マミ!久しぶりだな」
男ははしゃぐ様に手を振り挨拶をする。
その挨拶を向けられたミズキは男に対する恐怖と戦うと共に、驚いたような顔をしている。
「なんで……」
ミズキは声を絞り出すように言う。
「何でお母さんを知っているの!?」