香坂水希
「う……ん……」
目が覚めると、知らない金髪の女の人が顔を覗きこんできた。
「大丈夫?自分の名前言える?」
「……ミズキ」
言われるままに答えると、あることを思い出した。
「!?」
思わず身を屈める。
そして周りを確認する。
見慣れない女の人ばかりだ。
「大丈夫、あの人達は居ないから」
その言葉に、ある可能性にたどり着いた。
「助け……だされた?」
「ええ、あなたは監禁されていたの。そこから助け出し、私達の拠点で治療したのよ」
今度は同じ部屋にいた赤い髪の女の人が教えてくれた。
鮮やかで綺麗な赤い髪、整っているが幼さの残る顔立ち。
まるでお伽話に出てくるような人に見惚れていると、記憶がハッキリとしてきた。
(そうだ……私は……)
「あ、ありがとう……ございます」
「あんまり嬉しそうじゃねぇな」
思わぬ指摘に、体をビクリとさせ驚くと同時に、その声の主を見た。
こちらも赤い髪だが、さっきの人より荒々しく燃える炎のような印象で、
子供のように小柄だが、かなり鋭い目つきをしていた。
「こらリーシャ、あんた顔が怖いんだから、ジッと見ないの」
「うるせぇ、生まれつきこんな顔だよ」
言葉遣いが悪いが威圧感が無い。
怒っているわけでもなく、この人の普通の状態なんだろう。
「もっと喜んでいいのよ?ご両親も心配してるでしょうし」
こっちの赤い髪の人は元々穏やかな性格をしているのだろう。
言葉遣いも、所作もなんだかしっかりしている様に見える。
「お母さんはもう死んでます」
「!?」
思わぬ告白に気まずい空気が流れる。
「ご、ごめんなさい」
「いえ……それにお父さんは……」
それ以上は何も言えなかった。
「と、とりあえず私達の身分を教えると共に、あなた、ミズキと
これからのことについて親御さんに話さなければならないことがあるの。
だから、あなたの家の場所教えてくれるかな?」
迂闊に住所を教えるのはどうかと思ったが、お父さんのことがある。
ここは誰かに助けてもらった方が良いのかもしれないと思い、住所を教える。
「東山区四条通南裏三筋目大川筋東入一丁目南側南谷之元町セカンドライフ505」
「……え?」
ミズキの呪文のような住所に思わず聞き返してしまったようだ。
「……え?……住所……」
外国人のような見た目だが、自分を助けたということは警察関係者、
つまり京都の土地に詳しいものだとミズキは思っていた。
「住……所?」
「はい、南谷之元町です」
「……もう一回言ってくれる?」
「は、はい。東山区四条通南裏三筋目大川筋東入――」
「いや!いいや!」
またしても言われた呪文のような住所にを理解することを諦めたようだ。
「く、詳しい人間と話した方が早い!」
「そ、そうだね。私達じゃ無理っぽいし……」
どうやら何か勘違いしていたようだ。
この人達は京都の道に詳しくない、つまり警察関係者じゃない。
(いったい、誰なの?)
ミズキは警戒を強めた。
いつの間にか仲間を呼んだようで、部屋の入り口からゾロゾロと女の人が入ってきた。
女の人ばかりの集団で驚いたと同時に、どんな集団なのかすごく気になった。
外国人ばかりだが、その中に二人、東洋人みたいな見た目の人が居る。
左右をお団子にした人とショートの人だ。
(あれ?この人……懐かしい感じがする)
初対面……だと思う。なのに懐かしいと感じた?
なぜ?
そんな疑問も次に入ってきた人物が吹き飛ばした。
(男!?)
ここ数か月の思い出がフラッシュバックされる。
(助かったわけではない!?)
そう思うと体が震え、身動きが出来なかった。
「ひっ!」
その小さな悲鳴に部屋にいた全員が身を構え立ち止まった。
「あいた!ちょっと急に止まらないでよ」
「あ、悪い、また暴走しそうな感じがして……」
ファイゼンが立ち止まったことで、マリアとぶつかってしまった。
警戒したが、封印処理が上手くいっているようで暴走は起きなかったようだ。
そして暴走しないことで新しく分かったことがある。
保護対象が震えている、いや、怯えているのだ。
彼女が怯える理由、それは何となく察しがついた。
「ファイゼン、トウヤ、悪いけど少し外で待っててくれる?」
「は?何でだ……ちょ!?」
トウヤも理由が分かったようで、ファイゼンを黙って押し出す。
「ちょ!?私も!?」
ファイゼンの後ろにいたマリアも一緒に押し出される。
「とりあえず、今居るだけでも十分だろ?」
「ええ、ありがとう」
そう答えるとトウヤは戸を閉めた。
それを確認するとポーラはミズキに頭を下げた。
「ごめんなさい、あんな目に会って男が怖いって思うのは当然なのに、
軽率に部屋の中に入れてしまった。本当に申し訳ない」
理由を理解した他の面々もポーラに合わせて頭を下げる。
その誠心誠意謝る姿にミズキは理解した。
(この人、男の人が怖いことを理解してくれた?)
この人たちは自分を助けに来てくれた人だ。
そう思える人達だった。
「わ、私、香坂水希いいます。
助けてくれるんなら、お父さんを助けてください!」
助けてくれるなら、一緒に助けてほしい人が居る。
ミズキはもう一人の助けを願った。
「男が怖い。なるほど、だから追い出されたんだな」
「ああ、たぶん身の危険を感じるほどな」
トウヤはファイゼンに事情を話した。
「だから身を守るために魔法を使ったのね」
「え?魔法使ってたの?」
一緒にいたミナの話に、トウヤは疑問を持った。
「ああ、あれだけ酷い目に会ったなら普通は死んでいてもおかしくない。
彼女は無意識に魔法を使い、体と心を守っていたんだ」
「あの魔力反応はそういう理由か」
あの場所にはもう一人いた痕跡があった。そして山中に延びる移動記録。
魔法が無ければ二人だったものが一人になった。
そして魔法があったから、これからも脳裏に焼き付いた記憶と恐怖に怯え続ける。
苦しみ続ける生とそこから解放される死。どちらが幸せなんだろうか?
何とも言えない事件に重苦しい雰囲気が漂う。
そんな雰囲気を吹き飛ばすようにポーラから連絡が入る。
「みんな、聞いて。保護対象ミズキから父親の保護を依頼されたわ。
元々、親御さんへ話す事も想定済みだから、このまま受けるつもりよ。
ただ、ミズキの状態を考えて二手に分かれることにする。
トウヤ、父親の保護をお願い。メンバーは任せるわ」
「ああ、わかった」
重苦しい雰囲気を切り替えて、トウヤは仕事に向かった。