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7.幻獣討伐

 このFMSには試合中に幻獣といわれるモンスターが出現するイベントがある。

 大群で襲いかかってくるゴブリンの群れ、プレイヤーを見つけると空を飛び、走り去るユニコーン、分厚い鱗と火を吐くブレスを吐き、戦場を荒らすドラゴンといった様々なモンスターがランダムで出現する。


 幻獣によって害のないものや、プレイヤーに攻撃し害を与える者がいるが、幻獣に共通する点が一つある。

 それは倒すとイマジナリーウェポン、通称、幻銃と呼ばれる武器を落とすことだ。


 幻銃はそれぞれの幻獣をモチーフに作られたこのゲームオリジナルの武器。

 ゴブリンなら撃った弾丸から命令に忠実なゴブリンが生まれ出てくるハンドガン。

 ユニコーンならどんな壁をも貫く弾丸を放てるスナイパーライフル。

 ドラゴンなら弾丸を当てた敵を炎上させ、追加ダメージを与えるショットガン。

 どれも魅力ある武器に思えるが、リスクが非常に大きい。


 出現する幻獣の種類が多いため、狙った武器を入手するのは困難だし、強力な幻獣が出現したならチームの全滅だって考えられる。それに幻獣と戦っている最中、戦闘音を聞きつけて他プレイヤーから襲撃されてもおかしくない。これらの理由により大抵のプレイヤーは幻獣との戦闘は基本的に避けている。


 だがサヤカさんは普通のプレイヤーとは違うようだ。幻獣が出現したポイントに直行し、大きな岩の裏に身を隠しながら、幻獣を探している。

 俺は辺りを見渡しているサヤカさんに声をかけた。


「幻獣を仕留めるつもりなんですか?」


「そうやで。倒して幻銃をゲットや」


「そこまで欲しがるものですか? 俺たち二人しかいないし、結構危険ですよ」


「イーグルアイくんにうちの実力を見せるには幻銃が必要なんや」


 血眼になって幻獣を探すサヤカさんはよほど俺をクランに入れたいらしい。

 そこまで本気で俺を勧誘してるというのなら、俺も彼女の実力をしっかり知らなければ失礼だろう。


 俺も彼女と一緒に捜索すると、すぐに幻獣は見つかった。


「あ、いましたよ。あれはトロールですね」


「えっ⁉︎ どこにおるん?」


「200メートル先の北西の森の中で座って、美味しそうにキノコ食べてますね」


 トロールは全身緑で大きな鼻と耳、顔のパーツがアンバランスで不細工な幻獣だ。

 知能は高くないが、非常に凶暴でプレイヤーを見つけると襲いかかってくる性質も持つ。

 巨人と言われるだけあって、座っているのにも関わらず普通の人間より一回り、二回り大きく、立ったら5、6メートルほどの大きさになるであろう。

 トロールは切断された腕をくっつけるぐらいの再生能力も持ち合わせているので、相手にするには面倒臭い幻獣だ。


 そんなトロールは木々に生えたキノコを美味しそうに貪っている。

 かなり油断しているようだ。


「よくあんな遠いのに見つけられたね。ブルーベリーを日常的によく食べてたりしてる?」


 目を凝らし、やっと見つけることができたサヤカさんは俺に感心してたように呟く。


「食べてません。目は生まれつきいい方なんですよね」


「じゃあこっそり近づいて、不意打ちするで」


 そう言って、隠密に動こうとするサヤカさんの肩に手をかけて止める。


「どうしたの?」


 何事かとサヤカさんは振り向いて首を傾げる。


「サヤカさんはあのトロールとどうやって戦うつもりですか」


「そりゃあこのサブマシンガンで相手が倒れるまで撃ち込んでやろうかと思っとるけど……」


 サヤカさんの戦闘案に俺は首を横に振った。


「それではダメです。いいですか? トロールは再生能力が優れているので威力の低い銃火器で戦ったら自然と時間が掛かって、長期戦になってしまいます。長期戦になったら持っている弾薬も消耗してしまいますし、戦闘音に気づいたプレイヤーが襲ってくるでしょう」


「でもそれ以外に倒す手なんてあるの?」


 トロールを倒す方法が長期戦以外に思いつかないサヤカさんは俺に尋ねてくる。


「簡単なことです。今から実践するので見ててくださいね」


 俺は肩に掛けていたDSR48を取り出し、射撃態勢に入る。

 狙いを動いていないトロールの頭に向けて、弾丸を撃ち込んだ。

 着弾箇所も確認せずに、コッキングアクションを行い弾を装填する、再度発射可能になったらまたトロールの頭を狙い撃つ。

 それを弾倉内にある弾がなくなるまで繰り返し、トロールの頭に撃ち込んだ。

 そしてもう一度トロールの様子を確認する。

 美味しそうにキノコを食べていたトロールの手は完全に止まり、ゆらりと傾くとそのままゆっくり倒れていき、緑の巨体は鮮やかな光となって散っていった。

「こんな感じで気付かれない位置から、高火力な武器で急所に何発も撃ち込めばトロールなんて幻獣は簡単に倒すことができます。短期決戦で敵が襲ってくる可能性も低くなります」


 俺は師匠から教わった倒し方をはたかも自分が考え出したようにサヤカさんに教えた。


「勉強にはなったけど、かなりの技術が必要やね。うちにはちょっと無理かな……。それにキノコ食べてただけやのに頭を何回も狙撃されるトロールはんがちょっと可哀想やったわ……」


 サヤカさんは呆れたような乾いた笑みを浮かべていた。


 あれ? サヤカさんが俺を見る目が少し変わってしまった気がする。


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