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5.コミュ症克服作戦

 俺が考えた人見知りの克服方法はソロでゲームを行うことだった。

 ヘッドギアにマイクを装着する。

 同じ味方になった会話を試みる作戦だ。

 これでコミュ症を克服してみせる。


 一マッチで見も知らぬ三人と意思疎通を図る。

 多くも少なくもない適当な人数での会話になるはずだ。


 まあ、いきなり喋り続ける俺に、味方は嫌悪感を抱かせてしまうかもしれないが……。


 とりあえずやってみようと一試合目、味方全員に見事にスルーされる結果となった。

 挨拶などは無視されたが、戦闘中における報告は聞いてくれているようで、何処そこに敵がいる、相手の体力を削ったなどの報告は聞いてくれているみたいで、試合には勝つことはできた。


 が、試合中、一人で喋るただの変な人だっただけなので、コミュ症を直す練習にはならなかった。

 きっと俺と同じようにシャイな連中だったのに違いない。

 気を取り直して次に行ってみよう。


 二試合目、一試合目同様に挨拶は無視され、さっきと同じかなと思ったが違った。

 敵との戦闘中、報告を行なっていると「ゴチャゴチャうるせぇんだよ! ぶち殺すぞ!」と一人の味方がガチギレされ、恐怖を感じ、その試合は喋れなくなった。


 あれ?もしかするとこの克服方法はあまりよくないのか? 


 他の方法を考えないといけないなと考え始めた三試合目、転機が起こった。


「よろしくお願いしまーす」


 百人集まるまで広場で待機するのだが、俺はそこでどうせ無視されるだろうと思いながらも一応挨拶する。すると意外にも反応があった。


「よろしく〜」


 返事がきたのだ、しかも声の質からして相手は女性。


 アバター名はアルファベットでsayakaと書かれている茶髪の戦闘服を着ている可愛らしい女性アバターの方からの反応だった。


 これはコミュ症を克服する練習プラスもしかしたら女性プレイヤーとお近づきになれるかもと気合を入れた。


「みなさんでこの試合勝ちましょう」


「せやな、頑張ろ」


 他二人のプレイヤーは反応してくれるず、試合が始まった。


 試合が始まると大きな白鯨が目の前に現れ、そのマッチに参加しているプレイヤー全員を一口で丸呑みにし、宙を飛び始め、戦場になる島にまで運んでくれる。


 各プレイヤーは直線で横断する白鯨から降りたいタイミングで飛び降り、武器、アイテムを探す。

 初心者の頃は鯨に呑み込まれることはかなり怖いがし、今ではもう慣れた。


「どこに降ります? 自分はどこ降りでも良いですよ」


 マップ内は緑豊かな平原、太陽が照りつける砂漠、ビルが建ち並ぶ都市部といった様々な地形が合わさり、形成されている。

 アイテムは基本ランダムでマップ内に散らばってはいるが、降りる場所によってはアイテムが沢山落ちている場所もあり、敵が沢山集まることが多い。

全にアイテムを漁って、中盤以降の戦いに力を注ぐか、降りる場所はバトルロイヤルにおいて非常に重要なものになっている。


「どこでもいいんなら、うちはここに降りたいかな」


 そう言って、サヤカさんがマップ内にスポットしたのはビル街、激戦区だった。

 アイテムが豊富で敵プレイヤーも多く降りて来る可能性が高い激戦区だが勝ち残った時の爽快感と多くのアイテムが獲得できるため、多くのプレイヤーが何度も降りては幾度となく散っていくポイントだ。ビル街を指すということは彼女が中々のバトルジャンキーだと想像できる。


「了解です。じゃあそこに降りましょう」


 他二人は反応を示さず、特に異論もなさそうなので、白鯨の潮吹きから飛び出した俺たちはビル街に向かった。

 VRのスカイダイビングをしている様な感覚だが味わっている暇はない。

激戦区に降りるということは敵よりも早く降りて、アイテムを集めなければいけない。


 ビル街に急降下でダイブし、ある程度の高度で自動でパラシュートが開く。

 パラシュートの操作は意外に難しく初心者は苦労するが、慣れると案外楽なものだ。

 ビル街というだけあって、周りには多くのビルが建造されており、どのビルに降りるか迷ってしまう。


 パラシュートを操作しながら、どれくらい敵が降りているかをあたりを見渡す。

 味方以外に一、二、三、四……十から数えるのはやめた。恐らく四チーム程いるだろう。

 流石は激戦区、簡単には生き抜けない。


 俺は最速で端の方のビルの屋上に降りて、味方に提案する。


「敵が多すぎるんで、中央は避け、端っこの方に集まって敵を迎え撃ちましょう」


「了解や!」


 サヤカさんは素直に従ってくれて、隣のビルに降りてくれたが、もう二人にはスルーして中央付近のビルに降りていった。無事合流するまで生き残ってほしいものだ。

 ビルを屋上から下に探索していく。幸運にもこのビルには敵が降りて来なかったので、慌ててアイテムを漁る必要はなく、自分が必要なものをしっかり吟味して拾っていく。


 ビル街の中央付近では既に先頭の火蓋が斬られ、あちこちで銃声が鳴り響いている。

 漁っていると得意武器のボルトアクションライフル、DSR48を見つけた。


 このFMSにおいて照準アシストというものがあり、銃を扱う際に初心者でも当てやすいシステムになっている。

 だがスナイパーライフルにはその照準アシストの介入がなく、上級者向けの武器になっている。

だがその分、狙いをつけるのが難しいスナイパーライフルはしっかり敵の頭を撃ち抜くことで、一撃で仕留めることができる。

 このDSR48は弾倉に五発しか入っていないが、遠距離でも非常に精度も良く、威力もスナイパーライフルの中ではそれなりに高いことからよく愛用する銃だ。これで戦える。


 スナイパーライフルにつけるスコープやサブ武器も探そうとしたが、サヤカさんから切羽詰まった連絡が入ってきた。


「ちょっとヤバいわ! 敵が入ってきた! ウチまだハンドガンしか持ってないからカバーしてくれへん?」


「了解です! 少し待ってください」


 サヤカさんのビルに駆けつけたいところだが、時間がかかりすぎる。

 俺は急いでサヤカさんがいるビルが見える窓際まで移動した。

 DSR48を構え、射撃体制に入り、彼女と敵の位置を確認する。


 味方アイコンが表示されてるお陰でサヤカさんがいる位置が二階だとすぐに把握できた。サヤカさんはいつ来るか分からない敵に緊張し、足音を立てないように、敵が上ってくるであろう階段にハンドガンを構えている。


 敵を探す。ビル街の特徴であるビルが全面ガラス張りのお陰ですんなりと発見できた。

 敵は一階でゆっくりと辺りを警戒しながら上の階段に向かっている。

 サヤカさんの存在に気づいているのか慎重にクリアリングしながら進行している。いつ敵がサヤカさんを見つかるかは時間の問題だ。

 俺は敵の位置をスポットし、サヤカさんに話しかける。


「サヤカさん、今そこに敵がいます。どんどん接近していってます。僕がずっと敵の位置を報告するので、それで勝てたりできますか?」


「無理無理、ハンドガンは苦手やねん。絶対勝てへんわ」


 サヤカさんは首を大きく横に振って拒否しているのが見える。

 よほどハンドガンが苦手なのだろう。


「じゃあ俺が言った通りに動いてください」


「分かった。どうすればええ?」


「ガラスを突っ切って、ビルから飛び降りてください」


「……はい?」


サヤカさんから素っ頓狂な声が聞こえてくる。

そんな変なことは言っているつもりはないのだが。


「そこから飛び降りて俺のいるビルにまで走ってきてください、二階から飛び降りても落下ダメージは少ないんで、こっちに来てください」


「いや飛び降りるにしても、そんなんしたら後ろから敵に撃たれてまうやん」


「撃ってくる敵は僕が仕留めるんで安心してください」


「えー、でもー」


 俺の提案に不満があるのか、サヤカさんは駄々をこねている。

 そうこうしているうちに敵はサヤカさんに近づいている。


「それが嫌なら一人で戦ってください」


「わ、分かったから見捨てんといて!」


「あ、今の声で敵がサヤカさんの場所に気づいた様ですよ」


「あーもう最悪や! 行くしかなくなったやん! 絶対カバーしてや!」


「任せてください」


 サヤカさんは全速力で走り出し、ガラスを突き破って二階から飛び降りた。

 華麗に着地を決めると、分け目も振らずにこちらに向かってくる。

 サヤカさんのビル内を駆ける足音にガラスが割れた音を聞いた敵はビルから顔を出し、武器も持たず背を向けて逃げているサヤカさんに銃を向ける。足を止め、格好の的に狙いを定めている。

 アイアンサイト越しからでも、にやけながら引き金に手を引こうとする敵が見える。


 お前も格好の的だよ。


 DSR48から重低音が鳴り響く。火花が飛び散り、放たれた弾丸は相手の頭を貫いた。

 頭を貫かれた敵は這いずり、味方の助けが必要になるダウン状態に入った。

素早くコッキングが行い、DSR48は再び狙撃可能になる。


 俺はもう一度アイアンサイトを覗き、ノロノロと動いている敵にトドメの一撃を入れた。

 敵がいた場所には敵が頑張って集めたであろう武器やアイテムが散開しており、最初の戦闘は終わりを告げた。


「大丈夫でしたか?」


 ビルから降りると、ビルの一階で呆然と立ち止まっていたサヤカさんに声をかけた。


「アンタ、スナイパーごっつ上手いんやな! 助けてくれてありがとう!」


 サヤカさんは俺の肩を強く叩き、笑顔でお礼を述べてきた。


 ……女の子に褒められるのとお礼を言われるなんて、今までの人生になかったかも知れない。なんだろう、凄く気持ちがいい。


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