2.ピンチかチャンスか
学校に行かなくなってから一週間経過するというのに俺は未だ凹んでいた。
なんなんだよ、フるならフるだけにしとけよ。ゲームだって上手かったらかっこいいだろ。
きっとゲームが上手い人がタイプっていう女性もいるはずだ。
彼氏がいるのなら雑談でも何でもしてる時に教えてくれたらよかったのによ。
淡い期待抱かせんなよ。
しかも何で彼氏が銀行員って部分を強調したんだよ。
どうせ金なんだ、金が全てなんだ。
てか何で俺のこと童貞って分かったんだよ! 別に童貞でもいいだろ、誠実さの証だろ。
ベッドの上で恨み辛みをぶつぶつと呟き、俺は見事にやさぐれていた。
そんな俺のスマホから着信音が鳴り響いた。
スマホの画面には実家という文字が。
もうズル休みしてるのがバレたのか?
いやこれは精神的な傷を負って、療養しているだけだ、決してズル休みなんかじゃない。きっと俺を心配して電話して掛けてくれたんだ。
俺はおそるおそるスマホの通話のボタンを押す。
「……もしもし」
「お、隼人か。元気にしてるか?」
電話をかけて来たのは父さんだった。
大学生活を機に、一人暮らしを始めた俺は実家に帰った回数は数えるほどにしかなかった。
「……一応元気だよ。いきなり電話なんてどうしたの?」
「……実はお前に伝えたいことがあってだな」
最初は陽気だった父さんが、一転して重苦しい空気が伝わってくる。
どうやら俺がここ数日、大学を休んでいることとは関係はなさそうだ。
実家で事件でもあったのか? 母さんの身に何かあったのか?
「……何かあったの?」
緊張した面持ちで父さんに尋ねる。
「いやー、実は父さんと母さんFXというものに手を出してだな。見事に失敗してしまってな。お前のために用意してた残り二年分の学費を払えなくなってしまった」
重苦しい空気が打って変わって、途端に陽気に話し出す父。
「……え? どういうこと?」
「だから父さんたち、隼人の払えなくなっちゃたから、残り二年分の学費は自分で払ってくれ! ついでにそこに住んでる家賃や光熱費も来月から払うように」
「ち、ちょっと待って、どうやっていきなり払えってどうすればいいんだよ?」
「そりゃあ奨学金やアルバイトなりして払ってくれ。母さんもこれで隼人が社会勉強に触れられるって大喜びだしな! 案外FX失敗してよかったのかもしれんな。じゃあ頑張ってくれー」
要件だけ伝えると父さんは一方的に電話を切った。
「…………」
マジですか……。
今までの大学生活は学費やら家賃は両親が払ってくれていた。
しかしこれからは全部自分で払えということらしい。
それにしても大の大人がFXに手を出すのかと我が両親ながら呆れてしまう。
でも俺が二十歳になるまで何不自由なく育ててくれた人たちだ。感謝しないといけない。
フラれた傷はまだ癒えていないが、そんなことしている暇じゃない。
とりあえず来月の家賃を捻出しなければとスマホを使い、求人サイトでいい時給のバイトを探していた時だった。
スマホが通知でブルりと震える。通知を覗くと、それはいつもやっているゲーム『』の公式アカウントの知らせだった。
『世界大会開催決定! 優勝チームには賞金100万ドル! 各地域予選を勝ち抜いたチームには本戦が行われるロサンゼルスにご招待!』
「これだ」
俺がこの大会で優勝したら俺の知名度は上がり、ゲームが好きな女の子が寄ってくるに違いない。しかも賞金で学費関係も全て解決できる。
これはやらない理由が見つからない。
俺をボロカスに振った郡城に逃した魚はデカイんだぞと見返す為に、俺はベットの上に立ち上がり、拳を上げた。
「やるしかない……。俺ならできる、やってやるぞー!」
こうして俺はアパートに住み始め、初めて隣の部屋から壁ドンされ、隣人を怒らせてしまったとことに内心ビクビクしながら、優勝に向けてのプランを練ることにした。