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おじさんの本棚

 僕はいくらか虚ろな気分だった。耳の痛みを感じたけれど、ただの痛みではない。何なのだろうか?僕が不思議そうにしていると、おじさんは優しく僕に問いかけた。

「味わったことのない感覚だろう?」

僕は頷いた。

「鳥肌の一つくらい立ったか?」

僕は背筋が凍ったような感覚に気付いた。


 おじさんは柔らかな笑顔を浮かべ、海が見える窓の下にある本棚に向かった。中にあったのは全部CDだ。何枚あるのだろうか。

「適当に見てみろよ。ジャケットっていうのは一つのアートだ」


 僕は一つ一つ眺めた。英語を習っていた割に、どれも何が書いてあるのか全く分からない。ただその中のいくつかは僕を高揚させた。

「全部やるよ」

僕は顔を上げ、突然のプレゼントに驚きを隠せなかった。

「良いの?」

おじさんが珍しく目を細めている。

「最近はスマホで全部聴けるからな。風情のない時代だ。ハード・ロックだけじゃない。パンクもグランジも入ってる」


 また僕によくわからない単語が投げかけられた。おじさんは人に何か伝えるつもりがないのだろうか。


 そう思っていると、おじさんはナチュラル・ウッドのクローゼットの扉を開け、黒いケースを取り出した。「Gibson」と書いてある。読み方はよくわからない。


 おじさんはさっきのギターをケースに入れ、僕に差し出した。

「やるよ」

おじさんはいつだって唐突だ。どうしていいか分からない。

「何で?」

おじさんは煙草に火をつけ、窓の外を眺めた。

「俺達には子供がいないからな。誰かに何かを託す。そんな気持ちを味わってみたい時もあるんだ。お前の母親と似たようなものかもしれないな。まあ、俺の気まぐれだ」

おじさんは初めて声を出して笑った。僕には戸惑う他はない。

「高いんでしょ?」

「ああ」

「いいの?」

「ガンズを弾きたいとは思わないか?」

僕ははっきりと分かった。おじさんは僕に、ロック・スターへの道を歩ませようとしている。僕ははっきりとした口調で言った。

「ありがとう」

「たまには遊びに来い。教えてやるよ」

そして僕は沢山のプレゼントを抱えて、母親の車へと向かった。母親は何度もおじさんからのプレゼントを断ろうとしていた。あまりに高価だからだ。おじさんは「一度あげたものだから」の一点張りだ。僕の右手にぶら下がっているギターケースはあまりに重く、由季ちゃんが袋に入れてくれたCDを持った左手も痺れている。これもロック・スターへの一歩なのだろうか。道のりは長く思われた。



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