8 16歳の肉体を得た俺……瞬殺
俺が偶然手に入れた【円環の指輪】という魔導具。
その力は『持ち主の体を最盛期のまま維持する』と言う者なのだそうだ。
あの後俺はワコンとカエデに姿見を用意して貰って若返った自らの体を確認した。
年齢上に老けているとよく笑われた顔はすっかり皺もシミも無く。
30過ぎて、どれだけ鍛えても緩んでいた腹もすっきり。
若い頃から才能に甘えて鍛えていたわけでは無い体は、特に筋肉が浮くような立派な者では無いが、それでも冒険者として色々なところを歩き、戦い、過ごしていたころの俺の体は引き締まって見えた。
「多分16くらいか……そうか、俺の全盛期ってそんなに前なんだな」
転がり落ちるときにボロボロになった服を脱ぎ、体の隅々まで調べた結果わかったのは、今の俺は16歳くらいの体に戻っていたと言うことだった。
どうしてわかったのかというと、姿見に映った俺の髪型のおかげだ。
たしかこの髪型は俺が……俺たちパーティがDランクへ昇格した頃に、王都で一番有名な散髪屋に散財して整えて貰った髪型だったからだ。
「宿屋に帰って自慢したら『無駄遣いするな』と怒られたっけ……」
俺は当時の仲間たちの顔を思い浮かべ、当時を振り返った。
15で成人し未来の英雄様だともてはやされ冒険者となって一年。
たしかに16の頃は怖い物知らずで、やることなすこと上手くいっていた記憶がある。
しかし17になるころから風向きが変わった。
Fランクから一足飛びにDランクまで駆け上がった俺と、その取り巻きが組んだパーティは俺の技術が通じない領域に達したところで行き詰まったのだ。
「そう考えると確かに俺の最盛期は16ってことか」
俺はパンツ一丁で鏡の前にたつと両腕をぐるぐる回す。
剣もまともに振るえなかったはずの腕も怪我なんて無かったかのようになめらかに動く。
それどころか膝や腰から常に感じていた痛みも無い。
「若いって良いなぁ……それに16の俺ってやっぱりかなりイケてるんじゃないか?」
鏡の前で無駄にポーズを取りながら自画自賛していると。
「着替えを持って来てやったからさっさと着替えるですよ」
突然後ろからそんな声と共に俺の頭に布のような者がドサドサと影付けられた。
「本当は風呂にでも沈めてやるですが、その指輪のおかげで体は綺麗になってるっぽいですから許してやるです」
「お、おう。ありがとうカエデ」
俺は姿見の陰に持って来て貰った着替えを持ってそそくさと回ると、そこでパンツを脱いで着替えを始めた。
こんなダンジョンの奥底だというのに用意された服は綺麗に洗濯されていて、いったいどこから持って来たのかと不思議に思う。
やがてもしかするとダンジョンで死んだ他の冒険者の遺品なのかもしれないという考えに至って俺は思考を止めた。
「うん、ぴったりだ」
「ふふん。カエデが手ずから直してあげたです。感謝するです」
「あの短い時間で?」
「そうです。カエデは世界最高峰の魔導人形ですから、そんなことくらいお茶の子さいさいです」
自慢げに胸を張るカエデを「凄い凄い」とおだてながら俺はワコンの元へ向かう。
可愛らしい見かけをしていても、この少女は俺の胸を一突きで貫いたことは忘れない。
「戻りました」
『ふむ。して、どうじゃった?』
「どうやら16歳くらいの体に戻ったみたいで快調ですよ」
『その体であれば外に出て魔力を溜め込んだ魔物を倒すことも可能であろうな』
俺は「もちろんですとも。この頃の俺は敵なしでしたからね」とドンと胸を叩いた。
多分俺は調子に乗っていたのだ。
昔の体と共に、当時自信に溢れていた俺の心までも取り戻し、その後の惨めな人生のことをわすれてしまっていたのだと思う。
『ではまず手始めに、このダンジョンから地上へ戻るために手始めとして扉の外にいる魔物を一体倒してきて貰おうか』
「お安いご用ですよ」
俺は完全に治った右手でマジックイーターをくるくると回して鞘に戻す。
当時の俺はそんなかっこつけだけの技をだけ無駄に練習していた。
俺は意気揚々とカエデに案内され最初に入ってきた扉から外に出て――
『瞬殺じゃったの』
「情けないですね」
ものの十歩も歩かないうちに最初に出会った魔物の姿すら認識出来ないうちに体を真っ二つにされたのだった。




