2 醒めない悪夢と一つの光
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夢を見ていた。
まだ俺が神童と呼ばれていた16の頃の夢だ。
思えば俺の『才能だけの技術』が通じていたのはあの頃までだったと思う。
それ以降の俺は、次から次へ今まで見下していた奴らが自分を追い越してランクアップしていくことを理解できずにいた。
なぜならそれまで才能にかまけて努力一つしてこなかった俺には、何をどうすれば彼らのように自らを成長させることが出来るのかわからなかったからだ。
だからだろう。
俺はまだ誰にも負けない。
自分には誰もが持っていない才能がある。
いつかそれが開花してまたトップに立てる。
などと、ありもしない希望にすがって生きるしか無かった。
あの事件が起こった。
18歳になった俺は、結局努力の仕方を知らず剣士としての実力も伸び悩んだままだった。
周りはどんどん先に行く。
なのに俺だけが一人取り残されていくようで。
焦りのあまり当時から高難易度ダンジョンと呼ばれていた異界の顎へ、当時のパーティメンバーを説得して挑もうとした。
そうすれば何かが変わると俺は思っていた。
たしかに俺の人生は変わった。
なぜなら俺はその挑戦で片腕を切り落とされ、回復した後も二度と剣を振ることは出来なくなってしまったからだ。
当然パーティは解散。
剣を振る以外に能の無かった俺は途方に暮れ、当時よくしてくれていた所属ギルドマスターの伝手で荷物持ちの仕事を始めることになった。
異界の顎へ向かう旅立ちの朝の夢。
あのとき俺はパーティメンバーの意見を聞いて止めるべきだった。
自分を追い抜いていった冒険者たちが異界の顎に挑んで宝を見つけてきた。
そんな話に焦って目の前が見えてなかった。
だが見るべきはそんなものでは無く、自分の足下だったのだ。
「ははっ……またこの夢か……」
俺はそう自嘲すると右手に握った剣を投げ捨てる。
あの日の夢を見るのは何度目だろうか。
今更過去を振り返ってもどうしようも無い、取り返しのつかない日の夢なんて悪夢でしか無い。
「早く目覚めさせてくれ……」
俺は唸るようにそう呟くと強く目をつぶる。
瞬間、まぶたの裏に光が一つ灯った。
不思議な感覚だったが、確実に目は瞑っているというのに小さなその揺らめく光だけがみえるのだ。
「なんだこの光は」
俺は目をつぶったまま、その光に向けて手を伸ばす。
コツン。
小さな感触。
光へ伸ばした指先に何かが当たる。
俺はそれが何か調べるために手を伸ばしつかみ取った。
「指輪?」
手から伝わってくる感触からそれが指輪のようなものだと理解した俺は、何かに誘われるようにそれを人差し指にはめ込んだ。
次の瞬間だった。
『装着確認しました』
突然男とも女とも言えないような声が頭の中に響き渡る。
別世界の人間であれば「まるでシステムメッセージのようだ」と感じただろう。
『スキャンを開始……スキャン終了。多大な損傷を確認……通常修復対応不可……緊急修復モードに移行……対象の修復を開始します』
淡々と続く言葉の意味は俺には殆どわからなかった。
ただ頭の中に声が響くたびに、今まで全く感じなくなっていた感覚が徐々に戻っていくのを感じ――
『修復完了まで残り10分』
同時に体中に激痛が襲った。
それは完全に麻痺してしまっていた痛覚が回復した証であったが、そのときの俺にはわかるはずも無く。
強くつぶっていたまぶたを見開いて声にならない叫びを上げ、その場を痛みのあまり転がりまわり続けた。
『重度の損傷修復完了』
しかしその声が頭に響いたと同時に、それまであれほど俺の体をむしばんでいた苦痛がまるで先ほどまでのことが嘘のように和らいだ。
『対象の完全修復完了しました』
そして僅かに残っていた痛みも、そんな声と同時に消え去り。
俺は涙で濡れた瞳で呆然と真っ暗な闇を見上げたまま、今起こった出来事は夢では無いことを確信したのだった。
次話は12時更新予定です