14 最終奥義と旅立ちと
「最終奥義……ですか?」
「はい。この技は斬神流の全てを相手に向けて全身全霊を書けて放つ技で、私でも一度放つとしばらくは何も出来なくなります」
「師匠でもですか?」
「なので一度しか見せません。それで貴方が習得出来れば免許皆伝となります」
「出来なければ?」
「また特訓のし直しですね」
特訓のし直しと聞いて俺は一瞬背筋が寒くなる。
しかし次の瞬間にはすでに俺の顔には笑みが浮かんでいた。
「それは大変だ」
これまで何度も何度も死んで生き返るような特訓の末、俺はかつて神童と呼ばれていた頃の自信を取り戻していた。
もちろんそれで増長したりしたりということは無い。
そんな甘えた心は地獄すら生ぬるい特訓を繰り返す家に消え去った。
代わりに「自分なら出来る」という確信だけが心を占めていた。
「それでは行きますよ。神を斬り伏すために編み出された最終奥義――」
次の瞬間。
世界樹の間が文字通り揺れ、空間が切り裂かれるように一筋の光が俺を貫いた。
「これが……最終奥義……」
はらはらと舞う世界樹の葉を見上げながら俺は呟く。
この地にやってきた頃なら確実に見ることすら出来なかったであろうアカツキの動きと放たれた剣閃の軌道を、俺の目は……いや、心は確実に捉えていた。
そのことを彼女も理解したのだろう。
「もう何も貴方に教えることはありません」
一言だけ言い残すと、アカツキは剣を地面に突き刺して寄りかかるようにその場に膝を付いて目を閉じる。
慌てたように駆け寄ったカエデに抱き上げられるアカツキはピクリとも動かない。
「体の中もボロボロだし、魔力を完全に使い切ってるです」
「治るのか?」
心配になって尋ねるとカエデは「もちろんです。ただ時間は掛かるですが」と応えてアカツキを医務室に連れて行くと走り去って行く。
『ジーナスよ』
それを見送った俺の脳内に、俺たちの最後の修行を眺めていた聖獣ワコンが声を掛けてきた。
「聖獣様。俺はそろそろ上に戻ろうと思います」
『そうか』
「もちろん聖獣様に頼まれた魔力集めはするつもりですよ」
『そのことは心配しておらんよ。我が言いたいのは』
ワコンはそう言いながら目線を俺からアカツキが残していった地面に突き刺さった剣に移動する。
『その剣を持って行け』
「えっ」
『アカツキが免許皆伝祝いにお主に渡してくれと言っておったのだ』
「師匠が……」
俺はゆっくりと地面に突き刺さった剣に近寄ると一気に引き抜く。
その刀身はマジックイーターとは真逆に真っ白になっていた。
「えっ、さっきまで普通の色だったのにどうして」
『その剣もかの魔導具師の作でな』
「魔導具……つまりこれも魔剣というわけですか? それでこの剣はどんな力があるんです?」
俺は刀身を眺めながら問いかける。
『わからぬ』
「えっ」
『ただその刀にはカエデたちのように自動的に修復する能力がある。もしかするとお主のその指輪と何かしら関係があるかもしれぬな』
俺は剣を握る指に嵌まった指輪を見つめた。
だが、指輪には何の変化も見られない。
「関係なさそうですが?」
『もしかするとアカツキなら何か知っているかも知れぬが、あの様子ではしゃべれるようになるまでかなりの月日が掛かるだろうな』
「そう……ですか」
俺は真っ白い刀身を奥義の際にうち捨てられた鞘を拾ってそれに収めるとマジックイーターとは逆の腰に固定する。
そしてワコンを見上げると告げた。
「今までありがとうございました」
『礼など要らん。むしろ我らの勝手な願いをお主に託すことを許して欲しいくらいだ』
その後俺はワコンとしばらくこれからのことについて語り合った。
時間にして半日ほどは経っただろうに、未だにカエデは戻ってこない。
『では達者でな』
「はい。今度戻るときにはマジックイーターに満杯の魔力を持ってきますよ」
『楽しみにしておる。我らはずっとこの世界樹の元で待つ』
俺は前日にカエデが用意してくれたマジックバックの中身を確認する。
中には数ヶ月分の食料と、どこで集めてきたのか想像したくない金銭、そしていくつかの光石なども入っていた。
回復薬などが見当たらないのは俺には不要だと思ったからだろう。
「それでは行ってきます」
俺は最後にそう言い残すと長い間暮らした世界樹の下を後にして闇の中に踏み出したのだった。
お読みいただきありがとうございました。
ここでこの物語は一区切りとなります。
本当はここまでの話を6千文字以内にまとめられれば理想なのですが難しいですね。
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