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10 特訓の成果とさらなる地獄への道標

「どれだけ体を鍛えても無意味だったんだよ……」


 毎日持久力と筋肉トレーニングを死ぬほどさせられて数十日ほど経った頃だろうか。

 なんせこの場所は常に明るく昼夜の区別が付かないので実際な何日経っているのかわからないので正確な日数はわからない。

 それに毎回毎回気絶するまで続けられる特訓内容のせいで体内時計も当てにならない。

 なんせ教官は疲れを知らない魔導人形アカツキである。

 彼女たち魔導人形は魔力を使って動いていて、その魔力が潤沢なこの地では永遠に動き続けることが出来るらしい。


 そんな彼女による地獄のような特訓の間にわかったことが二つあった。


 まず16歳の俺は思っていたより体力が無いということだ。

 一応冒険者として活動していたので、そこらの一般人よりは体力はあるが、それでも冒険者としてみれば並程度の体力しか無い。

 だがそれは仕方が無いだろう。

 なんせ当時の俺は自分の体を鍛えるということを殆どしていなかったのだから。


 なら、16歳の体に戻った今からもう一度鍛え直せば良い。

 俺もアカツキもそう思っていた。


 だが、もう一つ判明した事実がその考えをぶち壊すことになる。


 そのことに気がついたのは数日前。

 若い肉体は40代の頃と違い短い日数でも特訓の効果を出していた。


 初日は五週も走ればヘトヘトだった俺も、体感時間で数日後にはその倍の周回を走ることが出来るようになっていた。

 しかし努力が実を結んでいくという生まれて初めての感覚に調子に乗ったのだろう。


「ずいぶん基礎体力は付いてきたし、そろそろ筋トレとか持久走以外に剣術も教えてくれていいんじゃないか?」


 俺はアカツキの言う斬神流の剣を一度見てみたいという好奇心と、そろそろ体力作りに飽きてきたこともあって彼女にそう頼み込んだ。

 アカツキは「それでは見せてあげましょう」と承諾してくれたのは良かったのだが……次の瞬間、目に見えない速さで振り抜かれた彼女の剣は俺の体をバラバラに切り刻んだのである。


「斬神流は一撃必殺。しかたがなかった」

「いや、仕方が無くは無いよね?」


 特訓の間にわかったことだが、アカツキはカエデ以上に不器用というか融通が利かない。

 きっと彼女が斬神流という剣術を伝えることに特化して作られたせいだろうとは思うのだが。


 結果、俺は久々にこの安全なはずの世界樹の間で死んで生き返ることになった。

 だが問題はその後だ。


「はぁっはぁっ……もう走れないっ」

「どうして? 昨日はあと二週は走れていたはずでしょう?」

「そうなん……だけどっ……もうだめだ」


 前回の特訓では軽く走れていたはずの距離で俺は倒れてしまったのである。

 そんな俺を見つめるアカツキの顔は、あからさまにだめな子を見るような表情が浮かんでいて。

 それでも俺は立ち上がることが出来ずに自分の足を見つめて首をかしげるしか無かった。


『もしかするとお主の体は……』


 そんな俺たちを見て、それまで何も言わずにいたワコンが口を開き、絶望的な言葉を紡ぐ。


『死んで回復すると鍛えた体も元に戻ってしまうのではないか?』


 【円環の指輪】は死んだ俺を、最盛期の体で復活させることが出来る魔導具のはずだ。

 つまりどれだけ体を鍛えようとも、一度でも死んでしまえばどの間に鍛えた体も全て元の体に戻ってしまうということらしい。


「じゃあどうやってあんな強い魔物を倒せって言うんだよ」


 俺はそれまでの地獄のような特訓が全て無駄になったことを知り叫び数日間ふてくされて部屋の片隅でふて寝を決め込んだ。

 どれだけ努力をしても報われないと知った俺の心はもう複雑骨折したまま、体と違って修復されはしない。

 そう思っていた。


『ジーナスよ』


 体感時間で数日後。

 俺の頭の中にワコンの声が引いた。


 俺の体がどれだけ鍛えても死ぬ度に元に戻ると言うことが判明してから、ワコンと魔導人形たちがずっと対策を話し合っていたことは知っていた。

 ただすでに心を閉ざしていた俺は、その内容については聞き耳すら立てていない。


『お主を強くする方法を考えたぞ』

「……どうやって俺が強くなれるんだよ……どれだけ頑張っても無駄なのはわかってるんだ」

『そうだな。確かにお主の体は鍛えても無駄なのはわかった』


 ワコンはそこまで口にしてから一呼吸置いて次の言葉を放った。

 それは俺がこれから目指すべき道を教えてくれた重要な一言で――


『だが体以外なら鍛えられるのでは無いか?』


 同時に俺をさらなる地獄へ突き落とすものだった。


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