俺だけ『レベル』じゃなくて『レート』。そして彼女は『BMS』《ベストミュージックセレクション》
書きたかったのは、最後の数行です。
書き終えた後、虚無になりましたが投稿はします。
「悪い、カイン。お前を今日限りで除籍することが決まった」
「そんなっ……!」
「悪いがこれはもう、決定事項なんだ」
「そう、か。分かった。今までありがとう」
荷物を纏め、そのままギルドを出て行く。
これで除籍されるのは何度目だろうか。正確には分からないけれど、少なくとも五回とか十回では済まない量を経験している。
パーティメンバーに非があるわけでも理不尽な除籍でもない。むしろ長く置いてくれていたくらいだし、俺のために色々と奔走してくれたりもした。
除籍される原因は分かっている。いや、そもそも一つしか存在しない。
全ては、俺の職業が原因だった。
「これ以上は、付いてくるだけで危険になる」
「そう、だな。頑張れよ」
上に行く元パーティメンバーと取り残される俺。
そんな現実が悔しくて、腰に差した剣を見る。
こんな落ちこぼれた状態だなんて、子供の頃の俺に言ってもきっと信じないだろう。
名の売れた冒険者だった父を尊敬して、小さい頃から剣の腕を磨いていた俺は、街の子供の中では敵なしとまで言われるようになった。
だから当然15歳になった時に受けるステータスの儀で貰える職業は剣術系だと疑わなかったし、両親も街の人も皆それを期待していた。
だけど、俺の職業は誰も予想だにしないもの。
結果から言うと、俺が与えられた職業はよく分からない。
ステータスは攻撃力が少し高かったから戦闘職ではあるのだろうけれど、誰も聞いたことのない職業だった。
「本当、ビートセイバーって何なんだよ……」
職業を発表した神官でさえ首を傾げていたし、「カインさんの職業は! ビートセイバー、です……?」みたいな疑問形だった。
持ち得る限りの伝手を伝って調べたし、街の図書館どころか王都の図書館まで調べ尽したけれど、結局ビートセイバーについての情報は見つからなかった。
唯一見つかったのは、過去にソウルセイバーという職業が一度だけ存在したということ。
その職業が、殺した相手の力を吸収するというありえない能力で、英雄と呼ばれていたこと。
そして、レベルが吸魂数という謎の表示に変化していたということだけ。
あらかた調べ尽した後、俺はもしかして、と思ってステータスを見た。
俺の予想は当たって、いや、少し違ったけれど。
「レベルじゃなくてレートだと……?」
更に困惑する事態へと陥ったのだ。
なんと、俺にレベルの表示はなく、レートという文字が書かれていた。
さらに意味が分からない。
例にするとこんな感じだ。
カイン 職業:ビートセイバー
レート:0.00
力:30
防御:10
俊敏:20
器用:5
知力:5
魔力:5
スキル:コンボボーナス(100コンボ毎にスコア+20)
レベルに小数点以下という話も聞いた事がなかったし、そもそもレートという言葉自体存在しない。
ソウルセイバーのソウルは魂という意味で知られている。だから、殺した相手の魂を吸収したということは納得できる。だけど、レートは分からない。
本当に、意味が分からない。
辛うじて、ソウルセイバーが剣士職だったからビートセイバーも剣士職なんだろうなって感じの曖昧な認識があるのみ。
「そろそろ潮時なのかなぁ……」
冒険者になるという夢をあきらめきれずに冒険者になったけれど、最初は上がっていたレベル、いや、レートも上がらなくなってしまったし、そろそろ平凡に暮らすべきなのかもしれない。
そんなことを思いながら現在のステータスを表示させてみる。
カイン 職業:ビートセイバー
レート:15.99
力:30
防御:10
俊敏:200
器用:120
知力:5
魔力:5
スキル:コンボボーナス+12(100コンボ毎にスコア+4870) 鉄壁ガード+3(ミスするたびに防御10アップ) コンボチャージ+20(20コンボ毎にコンボ数+20)
「どういう偏り方なのか……」
俺が弱い原因は、偏にこの力の低さにあった。
視れば分かると思うけれど、初期値から一切変化が無いのだ。上がるのは器用と俊敏だけ。
器用が高い者は生産職に向いていて、俊敏は基本的に斥候などに向いている。
だけど、俺は剣士。
剣士なのにこのステータスだとかすり傷しか付けることができない辻斬りみたいなもんだ。
「このスキルも意味分からないし……」
いつの間にかプラスが付いたり数が増えたスキルだけど、使えたためしがない。
そもそもコンボと言うものが分からないし、もしかして討伐数なのかと思ってゴブリンで試したけれど何も変わらなかった。
せめて鉄壁ガードなら使えるだろと考えてわざとゴブリンの攻撃を食らってみたけれど防御が上がったことはない。
もっと初歩的なミスなのかと思ったけれど、うっかりポーションを落として割った時も何の変化もなかったし、本当に意味が分からない。
やはりここらが潮時なのだろう。
「街に帰るか……」
戦闘職なのに異常なほど高い器用。
これなら生産職として生活はできるだろう。
そう考えて、俺は王都を出た。
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冒険者としては落ちこぼれの俺でも、ゴブリン程度なら難なく倒すことができる。
そうして弱いモンスターを倒しながら俺の生まれ育った街へと向かい歩き続けていた。
だが、三日目の昼過ぎ頃、場所で言うと王都と街の中間あたりで、助けを求める声が聞こえてきた。
「きゃあああああああっ!」
その声を聞いて思わず走り出す。
無駄に高い俊敏のお陰でかなりのスピードで森を抜ける。
そうして街と街を繋ぐ道に出た時——見つけた。
ウルフの集団を前に恐怖でへたり込んだ少女を。
「ガッ!」
今にも食い殺さんと襲い掛かったウルフの牙を剣で受け止める。
こんな場所で助けが来るとは思っていなかったのだろう。少女は俺を呆然と見つめる。
「あっぶない。大丈夫、立てる?」
「あ、え、えっと。立てません」
ウルフを前に腰が抜けてしまったのだろう。
「分かった。失礼!」
「きゃっ!」
俺は少女を抱きかかえる。
そしてそのままウルフから逃げるように走り出した。
一対一なら何とかなるけれど、集団はどうなのかと聞かれれば俺に勝ち目はないと答える。
経験のお陰で負けも無いけれど、俺の力ではウルフの防御を突破することができない。
できて毛を切ることくらい。まさに辻斬り。
「た、助かりました!」
「いや、このままだと追いつかれて食い殺される」
「ええええっ! そうなんですか!?」
ウルフは既に囲むような動きを見せている。
少女を抱えながらウルフより速く走ることは不可能だった。
走りながら打開策を考えるけれど、そんなものが浮かぶはずもなく圧倒的なピンチに陥っている。
「かっこよく助けたかったけど俺の攻撃力はかなり低くてね……。ごめんね」
「いえっ! もう助けに来てくれた時点で感動しました! 惚れました! どうせ死ぬなら結婚しましょう!」
「ポジティブだなおい!」
謝ったことが馬鹿らしくなる。
死ぬなら結婚しようって、世界最悪のプロポーズだな。
そんなことを思っているうちに俺たちはウルフに囲まれた。
このままだと食い殺されるだけだ。
どうにかして、このウルフの集団を倒さなければ生きては帰れないのだろう。
少女を降ろし、剣を抜く。
「まずいな……。君の職業は?」
「分かりません!」
「はっ?」
もしかしてまだ職業を貰っていないのか?
いや、どう見ても成人はしている。
「……スキルは?」
「分かりません!」
「何でだよ!」
「よく分からない職業によく分からないスキルなんですよ!」
聞き覚えのある話だ。
凄く聞き覚えがある。
「そういう旦那様はどうなんですか!」
「奇遇だな。俺もよく分からない職業によく分からないスキルだ。後旦那様って呼ぶな」
うん、俺だ。
「なんと! 二人の出会いはモンスターから守られたこと! そして二人の最初の共通点は職業とスキルってことですか! 相性抜群ですね! 旦那様!」
「守れてないけどね!? よく分からないって少しくらい効果とかわからないの!?」
「効果は少し分かりますけどしょうもないですよ……?」
「どんな効果!」
少女に聞く。
もしかしたら起死回生の一手になるかもしれない。
少女から見ればしょうもなくても、冒険者視点で見れば使えるスキルの可能性もあるのだ。
「スキルを使うと大きな音で聞いたことのない曲が流れます!」
「予想以上にしょうもなかった!」
「酷い! 旦那様!」
そんなこと言っている間にもウルフは距離を詰めてくる。
どこを見てもウルフ。
戦うしか、生き残る道はなさそうだ。
「大きな音ってどれくらい?」
「えっと、王立ホールで行われるコンサートを間近で聞けるくらいの大きさです!」
「……ごめん、聞いたことないから分からない。もうちょっとわかりやすい例えで」
「ええとええと……あっ! えっちの喘ぎ声くらいです!」
「もっと分からない!」
何急に言い出してるの!? もしそうならデカすぎないか!?
「あっ! 違います! その、経験があるわけじゃなくて……一人で……」
「王立ホールのコンサートくらい大きな喘ぎ声って何!?」
「布団を被ってやるから大きく聞こえると言いますか……。もう! 何言わせるんですか! 責任、取ってくださいね?」
「勝手に暴露したんだよね!? 悪質な結婚詐欺ですか!?」
この少女が処女とか、要らない情報が増えた。
そもそも王立ホールって、もしかしていいところのお嬢さんなのではないだろうか。
心なしかウルフも呆れた表情をしていたけれど、もうそろそろ待ってはくれなさそうだ。
「俺が切り込むから、一発入れたら出して怯ませて!」
「ええっ! こんなところで喘ぐんですか!?」
「ちげぇよ! スキルで大きな音を出して怯ませろって言ってんだよ!」
「そ、そうならそう言ってくださいよ! 大胆なお誘いかと思いましたよ!」
「ウルフに囲まれながらヤれるわけないでしょ! とにかくお願いね!」
「はい! 初えっちは戦闘の後で、ですね!」
もう、何も突っ込むまい。
いや、突っ込むというのはそう意味ではない。突っ込まないということでは当たってるけれど。
何でおれはこんな高貴な変態少女を助けたのか。
そんなことを思いながら一斬り。やはり、攻撃は通ってくれない。
代わりに、爆音で聞いたこともない音楽が流れはじめた。
激しい、それでいて腹に響くような重低音を響かせる曲。徐々にテンポが上がっていく王都でも一度も耳にした事がない特徴。
音楽家が聞いたら激怒しそうな、それでいて完成された新しいジャンル。
「なっ……!」
驚愕。
「どういうことだ……?」
音楽に驚いたわけではない。
俺が驚いたのは、音楽が流れ始めた直後に起きた視界の変化。
視界の左上に俺の名前とレート、そして正面には0コンボという文字が現れたのだ。
呆然として、動きを止めてしまった俺に飛びかかってくるウルフ。
まずい、と思い避けようとするが、それより先に俺の身体は勝手に動いた。まるで、音楽に合わせるように。
「ギャウンッ!」
「はっ?」
何と表現すればいいのだろうか。
俺を食い殺さんと飛びかかってきたウルフ。
そのウルフに対して強打するためのベストタイミング、更に言えば音楽が盛り上がった瞬間。その瞬間にウルフが光って見えたのだ。
そう、認識した時には、俺はウルフを吹き飛ばしていた。
音楽に合わせるかのようにドンッ! という重低音を響かせながら。
視界にはデカデカと、1コンボと表示が現れた。
意味が、分からない。
「すごいです! すごいですよ旦那様!」
凄い。
確かに凄い。
次々と襲い掛かってくるウルフ。
俺の身体は音楽に合わせるかのように勝手に動く。後ろの少女にウルフを向かわせることなく、一人で立ち回り続けている。
何匹も同時に襲いかかってきたところで、アップテンポに変調した音楽に合わせた俺には当たらない。
だが。
「攻撃力が足りない……!」
吹き飛ばされただけのウルフは何度も何度も繰り返し襲ってくる。
切れないのだ。攻撃力が30しかない俺ではウルフを切り飛ばすことはできないのだ。
ただただ耐え……吹き飛ばした回数が10回、20回と繰り返していき、50回を超えた。
そして、60回目。
ドガァアアアアアアアンッ!
「はっ?」
突然、目の前から森が消えた。
比喩ではなく、目の前にはまるでドラゴンがブレスしたかのような光景が広がっている。
当然、ウルフも跡形もなく消えた。
「ドユコト?」
その疑問に答えてくれる者はいない。
その代わりのように、俺の視界上でオールパーフェクトと言う文字がデカデカと主張している。
「凄いです! 凄いです旦那様! 私、惚れ直してしまいました! 惚れすぎてもしかしたら子供ができたかもしれません……」
「あ、ああ」
驚きすぎてツッコミに頭が回らない。
「私の音楽に合わせるように、舞うように動く旦那様。その姿はまさに剣舞! 私と旦那様の初の共同作業。そして最後には溜め込んだ力を私の音楽の終わりと共にフィニッシュ! フィニッシュを合わせてくれるなんて……心だけでなく身体まで旦那様のことしか考えられなくなってしまいます!」
「ちょっと、何言ってるのか分からない……」
剣の話だよね?
卑猥な話に聞こえるのは俺だけなのかな?
「その御姿はまさに——あら? スキルが増えてますね。アップテンポの次は……ふむふむ。なるほど、これは使えるかもしれません。旦那様もステータスを確認すれば何か変わってるかもしれませんよ!」
「見てみるか。確かに、そうじゃないと辻褄が合わないからなぁ。色々と」
攻撃力とか攻撃力とか。他にも、攻撃力とか。
「まぁそんなに変わってないとは思うけ、ど……なんじゃこりゃ!?」
カイン 職業:ビートセイバー
レート:15.99→16.03
力:4900(30)
防御:10
俊敏:210
器用:130
知力:5
魔力:5
スキル:コンボボーナス+12(100コンボ毎にスコア+4870) 鉄壁ガード+3(ミスするたびに防御10アップ) コンボチャージ+20(20コンボ毎にコンボ数+20) 連奏ボーナス(1回毎に体力が9割回復)
攻撃力が、4900(30)となっている。
元々が30だったのだから、考えられることはスキルにあるコンボボーナス+12(100コンボ毎にスコア+4870)の効果なのだろうか。
ステータスの上限が9999らしいから、俺はその半分近い力を持っているということになる。
何が起きたのか。まさか、少女の音楽が関係しているのだろうか。
「まぁ、考えても仕方ないか」
「そうですね。私たちは二人で一つ。最強夫婦を目指しましょうね!」
「いや普通に街まで送ったら解散するけど」
「そんなっ!」
しかし、俺の職業が初めて効果を発揮したことは事実。
音楽関連で調べてみたら冒険者を続けることができるのかもしれない。
音楽に関係した職業とは、盲点だった。
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その後の話をしようと思う。
音楽家を雇ってみたり、色々試したけれど俺の職業が能力を発揮するのはセレナのスキルの時だけだった。
あ、セレナと言うのは俺が助けたあの変態少女のことだ。
そういう事情もあって、結局はパーティを組むことになり、あちらは歌姫ならぬ「音姫」と呼ばれているのに対して、俺は何故か「馬こえて鹿」と呼ばれている。
意味はよく分かっていない。
セレナが実は家でした公爵令嬢だったり、Sランク昇格試験で予想外に強いモンスターと戦って死にかけたりと色々なことがあったわけだけど、今俺は生まれてから最もピンチを迎えている。
「セ、セレナ! 落ち着け! 落ち着こう! なっ?」
「嫌です! Sランクになったらするって言ったのにいつまでもしてくれない旦那様のことは私が襲うんです! いつまで一人でさせるつもりですか!」
「女の子がそういうことを言うんじゃない!」
正直ドキドキしているけど、そういう関係になった瞬間俺は貴族の仲間入りをさせられる。
Sランク冒険者としてですら手一杯なのに貴族にまでなったら過労で死ぬ。
「いつまでもそうやって子ども扱いして! 私はもう立派な女です! あ、処女が女の子と女の境目なら女の子です!」
「だああっ! こうなったら逃げるが勝ち——あれ!? なんで!?」
「お父様の職業は結界師なのです! 以前は頑なに認めてくれなかったお父様も、旦那様がSランク冒険者になった瞬間手のひらを返しましたからね!」
「まさか嵌められたのか!?」
扉はびくともしない。
一歩ずつ近づいてくるセレナ。
逃げ場所のない俺のところに漂ってくるセレナの良い匂い。
確かに、セレナのことは随分と前から意識してしまっている。でもそういう関係に至る展開になると、どうしても逃げてしまうのだ。
だって、そういう経験ないしがっかりさせそうだからさ。
だから今回も強靭な精神力で乗り切る。
「ふっ、残念だが無理だ。無理やりしようともたってなければ不可能だ!」
受けててよかった高難易度クエスト。
疲れが溜まるクソクエスト様々だ。
「旦那様の職業はビートセイバー。私の職業はBMS。私の音楽に合わせて、旦那様は戦いますよね?」
「……それがどうした? ここにモンスターは居ないし発動条件である剣も持っていない」
後ろに扉。
目の前にベッド、それと変態美少女。
俺の職業が発動する条件は、帯剣とセレナの音楽。一体何が関係あると言うのか。
「剣ならもう一本あるじゃないですか」
「……は?」
「ほら、ここに」
「な、何を言ってるんだ!?」
「ところで私、昔あるスキルを手に入れまして」
「ま、まさか……」
嫌な予感しかしない。
「スキル:オリオン座の下で」
「嘘だろ……!? お、おい! やめ、辞め……アッ!」
セレナの音楽に合わせて剣が動いたとだけ言っておこう。
作者イメージ
戦闘中:Dreadnought
性闘後:End Time