第九十五話 無限
「これはな、この評議会のバッジ……もとい、記憶消去装置だ」
「記憶……消去……?
これを私が付けたから……いや、誰かにつけられたから!?」
焦りと驚きを隠せないでいる私に、芦名は落ち着くようにと身振りをする。
「大丈夫だ。それは本人が付けるのを了承しない限りは___」
「了承しない限り……!?ってことは、私は自分から記憶を……いや、確か私は……」
頭の中に見覚えのあるような無いような、そんな情景が浮かび始める。
ものすごく高いところで、私は四つ這いになって……。
そんな私に、あの黒いバッジを差し出す存在がいる。
シルエットで顔は見えないが……その男はシルクハットを……
そこまで浮かんだ瞬間、またあの痛みが走った。
「ぐああっ!うぅぅぅ……!!ああああ!!」
頭から響く痛みに視界が歪む。耐えがたい痛みにまた私は倒れ込んでしまった。
「おい!だから思い出そうとするなって!だが……一応それなりのレベルで止まっているってことか……」
「それって……はぁ……どういうこと?」
ズキズキと頭が痛む中、私は顔を上げて芦名の言葉を聞こうとする。
「記憶の消去、といってもな、そのバッジは一種のスキルが掛けられているようなもんだ。
心の抵抗が強いほど効果も薄まる。レベル1から5、だが……お前はレベル3。進行度はまあまあでも、まだ戻れる場所にいる。だから___」
「『アイス』」
突如私の腕の間から抜けるようにして氷が走る。それは芦名にそのまま突撃していき……
芦名が少し開いたマントの中に吸い込まれて行った。
「……なんの真似だ、てめぇ」
「いえいえ、たとえ仲間であろうと、害をなす方は消さねばなりませんからね。
あなたがその気なら、私もあなたを始末させていただきます」
後ろを振り返ると、そこにいたのはホークアイだった。
腕を後ろに組み、微笑んでいた。
「ちっ……あまり手間は掛けたくねえけどよ……ホークアイ、てめぇに俺の計画は邪魔させねぇ!」
それと同時に、また氷が私を挟んで走る。
しかし、それを打ったのは……
「……私も、あなたと戦うのは面倒ですよ実際。あなたのそのスキルは本当に面倒ですからね……」
氷は相殺され止まっていた。芦名の打った氷とホークアイの氷が激突していたのだ。
「どの口が言うんだよ……お前がその気ならいいぜ、『無限』!」
芦名の言葉とともにマントが翻り、中身が露わになる。
その中は、漆黒だった。しかし、それと同時にいくつもの煌めきがあり、まるで宇宙だった。




