第九十一話 濁った水
イレティナに連れてこられた場所は、岩をくりぬいた洞窟だった。
彼女がいうには、自分で一から掘って住めるようにまでしたらしい。
中は暖かい松明の光で照らされ、葉っぱで作られた寝床もあった。
食料も貯蔵してあるようで、一応は住めるようになっている。
「取り敢えずそこに座っていてよ。何か飲み物持ってくるから」
飲み物……こんな山奥の、しかもこんな場所で……?
……一応は住めるとさっき言った。言ったけど……
葉っぱで作られた寝床、地面の岩……要するに木の繊維から何かを作るようなことはしていない。
一人で住んでいるようだけど、まだ何かを自分で作る、という事は全くしていないし、知らないらしい。
まあ……つまり……
「はい!水持ってきたよ!」
それは明らかに濾過も何もされていない、地面からそのまま持ってきたような泥水。
……彼女の言う一応が、本当に生活の最低基準だったと言う事だ。
「えっと……これはちょっと流石に……」
「え?どうして?」
気遣いをむげにするのも憚られるが、それでお腹を壊しては元も子もない。
ああ……故郷の森とこの魔境の森、ここまで違うとは……
「あー……その……」
その時、私の目にふと溜め込まれている食料が目に止まった。
そこには、果物が大量に……!
「そ、そうです!果物を食べませんか?何か水分の多い……」
「うん!いいね、そうしよう!じゃあサクレイでもいくつか……」
た……助かった……ここに来て、再び危機に晒されるとは毛頭思っていなかった……。
……しかし、これからはここを拠点にしなければいけないかもしれない。
流石に、これでは少なくとも食料的な問題で私が死んでしまう。
ならば……
「そ、その、イレティナさん」
「ん?どうしたの?」
「少し、物を作って見たいのですが……」
濾過機。
山等で綺麗な川の水があるのは山自体が雨などの汚れた自ら汚れを取る機能を持っているからだ。
そして、その山の仕組み……石や土を小さいものから大きいものまで一つの入れ物に入れていけば……
「完成です」
「わー!なんか凄そうだね!これで何をするの!?」
さっき水を入れていた入れ物と、他に二つ入れ物をもらった。
一つはこの濾過機に、もう一つは出てくる水を受け取るために。
「えっと……この濾過機の上から水を入れて、下に受け皿を用意して……」
入れ物を傾けると、茶色く濁った水がみるみると濾過機に吸い込まれていく。
染み込んでいった水は見えなくなり、そして数秒もしないうちに。
「わあああ!透明!?透明な水だよ!」
綺麗な、一切の濁りのない透き通った水が出てくる。
踊るように水は入れ物の中に入っていき、入れ物の底が見えるようになっていた。
「いただきまーす!」
「あ……」
イレティナはそれをすかさず手に取り、一気に飲み干すと満面の笑みを浮かべた。
……ひとまず、生活水準が上がった、とする。