第八十八話 謎の襲撃
魔境、グレイテスト・オリジン。
標高2000m、横幅100kmのなだらかな山で有ると同時に、数多の挑戦者を葬った魔境。
この山を攻略したもののみが神秘の島、オルゲウスにたどり着けると言われている。
そんな山の中、私は___
「ウンディーネ!後ろから矢が!矢が飛んできます!」
「分かっているわよ!でもなんなのよこれぇ!」
猛ダッシュで走り抜けていた。
山の中に足を踏み入れて数分、突如降り注いだ矢の雨。
抵抗しようにも射手が見えず、とにかく走り回って逃げていた。
しかし、ここは私たちの知らない山の中。逃げ回ってもいつかは行き止まりに辿り着いてしまうだろう。
今も後ろから降り注ぐ矢は私が地面から足を上げる数コンマ差でそこに突き刺さっていた。
「くぅっ……!逃げ場もなし、地図もわからない……!これじゃ拉致が開きません!『機械仕掛けの神』!」
必死に走りながらも、私は何とか懐から取り出して首に突き刺す。
白く光り輝く輪が現れると同時に、その輪が形を変えて私たちを包み込んでゆく。
「『絶対聖域』ッ!……ウンディーネ、サラマンダー。これで大丈夫です。残りのマナで『無限連撃』をここら一帯に放てば……」
その時、ピシ、と何かの音がした。
……木か何かにヒビが入った?それとも……
続けて、今度はパキパキと何かが割れそうになる音までする。
……何か、変だ。
「ウンディーネ、この音は一体……」
「フレイ!避ける準備して!この音は……この割れる音は……!」
私は上を向きながら何かに警戒をするウンディーネに違和感を覚え、同じようにそこを見た。
……そこには、『絶対聖域』の光の壁は、ヒビが入っていた。
「割れて……ッ!?ウンディーネ!まずいです!これは……」
「さっきから言っているでしょう!良い?三つ数えたら、これを解除して同時に分散して逃げるわよ!」
私はウンディーネの指示を聞き、静かに頷く。ウンディーネの三、の合図が来た瞬間にこれを解除する……それだけだ。
「行くわよ……一……」
ヒビがさらに入っていく事に不安を覚えながらも、私はいつでも解除できるように、と準備をする。
しかし……何故私の力にダメージを加えられた?あれはマナの凝縮体……そう生半可なものでは破壊できないはずだ。
「二の……」
つまり……私達を襲ったのはそれくらいの技術か何かを持つ相手……もしかしたら評議会の追手……いや、そんな筈はない。
ここには王だって寄り付かないと言われているほど、逆にここに入っていったと聞いたら安心して襲いもしてこないだろう。
「さ……!」
ウンディーネが三と言い終わる寸前、ついに守りが砕け割れてしまった。
その瞬間、『絶対聖域』の形はとけるように姿を無くし、一瞬にして輪に戻っていってしまった。
その瞬間、木々の間から何か光るものが無数の数みえた。
口を挟む暇もなく飛んできたそれは……もちろん矢だった。私達を取り囲むようにして、飛んでくるそれが目の前に来て、私は___
「くっ……!『無限連撃』ッ!」
私の言葉に反応するように、輪が煌き上空へと浮かび上がる。
瞬間的に回転を始める輪は無数の短剣を生成し、矢の雨、などという比喩ではなく、まさにその降り注ぎ方は豪雨であった。
私達へ矢がささるよりもはやく、それらを剣が突き刺していた。
周りも一掃され、木はなぎ倒され、地面は抉れている。
若干荒野のようにも感じる地面は、剣が突き刺さったままそこら中からけむりをあげていた。