第八十五話 煌光
私は『破壊』を発動させる。
空間に黒い球体が現れ、それは至る所に発生した。
「喰らえッ!」
球体はその場を跳ね回るようにして縦横無尽に駆け巡る。
跡形も残らず、赤髪の男は姿を消し……
「あ、危ねえ危ねえ……まさか本気でくるとは……」
「なっ……!?なんで生きて……!」
男は天井に張り付いていた。
額に汗をかいてはいるが、私の予想に反してほとんど無傷のままだった。
「サツキ……どうしちまったんだよ!?いきなり、こんなことを……」
「私の名前を呼ぶな!それに、どうして見ず知らずのお前が私の名前を知っている!?」
私は困惑する心を押しとどめ、相手に対して必死に問いかける。
「見ず知らず……?何言ってんだよ、俺とフレイを助けに行ったのを忘れたのかよ!?」
フレイ……?……誰だ……?いや、待て。前にもこんな事があった。
私が知らないのに、私を知っている人が……。
何か……重大なことを忘れているんじゃないのか……?
「私は……何か忘れて……?」
その時だった。目の前にいた赤髪の男が唐突に横に吹き飛ばされる。
男は激しい音ともに壁に打ち付けられ、骨が折れる音もした。
「がはっ……!」
「侵入者だな?即刻排除する。『煌光』」
「ま、待て!待ってくれ!」
赤髪の男を横に突き飛ばしたのは高身長の女性だった。しかし、それに反応するよりも前に更に芦名が現れ静止する。
手の平に光のような物を溜めていた女性だったが、その声を聞いて一度その光を収めた。
「……なんだ?『無限』。私は侵入者を排除しないといけないんだ。用は出来るだけ早く済ませてくれ」
女性は軽装を見に纏っていたが、それに反してとてつもない重圧を発していた。
周りを平伏させるようなその雰囲気に、私は少したじろいだが芦名は臆せず話を続けようとした。
「そいつを……見逃してやってくれないか?別にお前の『煌光』じゃ跡形もなく消し炭になるんだろ?
だったら別に見逃してもいいんじゃねえか?」
「……私にメリットが無いが」
「あー……そうだ、このサツキと戦えるっていうのはどうだ?お前、結構楽しみにしてたろ?」
女性は芦名の言葉を聞き、こいつが?とでもいうようにこちらを見る。
「『複製』……一度戦って見るのも悪くは無いと思っていたが、こんな腑抜けた状態では話にもならない。
……まあ、貴様の頼みなら聞いてやらんこともないがな」
……どうやら、男は逃してもらえるようだった。
……私は今、ほっとしたのか?どうして……?