第八十話 民衆
エルゲさんを説得し、私達は城の入り口、城に住んでいる人たちがたむろしていると言われている場所にきた。
階段を降りていくと、そこには目を疑う光景があった。
入り口は城の大きさに相応しく、扉も広さもとんでもなく大きかったが、それすら埋め尽くす人の数がそこにはいた。
数千人はいると思える人数に、エルゲさんを除く全員が息を呑んだ。
まさかここまでの人が居たとは……
「これってつまり、ここにいる奴らは全員サツキの事を知っているっていうの!?」
「はい、サツキさんのこと……『死神』についての噂を知っています。
商人伝いかどうか……ともかく、彼らを説得しない限りは……」
サラマンダーの問いに、エルゲは答える。
そんな時、下から声が不意に上がった。
「おい!みんな見てみろ!エルゲさんと一緒に誰かいるぞ!」
「誰……?あっ!私知っている!あの人……死神と一緒にいた人だ!
あの時は気付いていなかったけど……」
「つまり……あいつは死神の仲間ってことか!?」
瞬く間に声は広がっていき、私へ全ての人が目を向けていた。
その顔は怒りや恐怖に満ちているように見える。あの人たちはサツキが自分達を不幸にすると思っているんだ……。
そんなことないのに……サツキは……仲間想いで……優しくて……
でも、それだけじゃあの人達には伝わらない……
「落ち着け!死神なんて最初からいない!早く自分の業務へ___」
「嘘つくなー!居たんだろー!」
エルゲさんはいなかった、として解決しようとしているようだけど……それじゃなんの解決にもなりはしない。特に、サツキに対する人々の解釈が……
サツキは救おうとして動いていた。それなのに、こんなふうに思われるなんて……
何か、分かってもらえるようなことが……
「こんなに居ると、少しエブルビュートの軍を思い出すわね。最も、力じゃどうすることもできないけど……」
ウンディーネはそんな呑気なことを言って……いや、待って。
軍……そ、そうだ!あの事があった!
「皆さん!聞いてください!」
私が大きく声を張り上げると、人々のざわめきは止み、こちらへ注目した。
つ……伝えなきゃ……サツキが頑張ってきたことを……!
私は深呼吸をして、肩を落とし、はっきりと、目を彼らに向けた。