第七十話 ドリル
「ええっと、ウンディーネはどこでしょうか……?」
周りを見回そうとしても、鬱蒼とした木々が視界を遮って全く見えない。
「歩くしかないですね……」
私はサラマンダーを手に持ち歩を進め出した。
すると、足元の感覚に違和感を覚える、地面とは明らかに違う感覚が。
「ん?これは……キャーッ!」
下を見ると、そこには液体が半分固体になったような、ゲル状の物質。
ぬめぬめとした感触のそれをさっき踏んでしまったと思うと、怖気立つ気分だった。
「フレイ、落ち着きなさいよ、ウンディーネだわ」
「人を踏みつけておいてその態度……流石に失礼って物じゃないの?」
身体を持ち上げ人の姿になりながら、ウンディーネは私に毒を吐く。
「いえ、すみません……まさかウンディーネとは思ってなくて。
ところで、何故あんな姿を?」
「視界が悪かったから身体を伸ばしていたのよ。あなた達と会えたのはそれはそれで良いんだけど、あっちの方がなんか変なのよ……」
ウンディーネは困った顔をしながら親指で彼女の後ろ側を指し示す。
「変……というと?」
「何か気配を感じたの、いや、もしかしたら音だったのかも……
この城に何かとんでも無いものが来る、そんな感じが……」
ウンディーネの神妙な顔つきに私も思わず生唾を飲む。
「気になりますね……。ウンディーネ、私の肩に乗ってください。今から飛び上がりますから」
サラマンダーをしっかりと持ち、ウンディーネが私の所に巻き付いたのを確認して、私は翼を広げる。
私から溢れ出るマナを使って。
「はぁっ!」
足に力を込め、翼が羽ばたき始める。すぐに木々を見下ろすほどの高さとなり、私達は城の外を見ようとした。
しかし、それと同時に翼が抜け落ち、私達は落ちていく。
「うわあああぁぁぁ!」
「フレイー!これどうなってんのよ!」
おかしい……確かにさっきまでは使えたはず……低い位置なら……もしや。
「もう一度出してみます!失敗したときはウンディーネ、お願いします!」
もう一度力を込め、翼のイメージを作る。
すると、瞬く間に翼が形成され、私の落下速度は急激に緩やかになった。
「やっぱり……」
私はすぐさま落ちていくサラマンダーとウンディーネを拾い上げ、下に降ろす。
「おそらく上で何かが起きています。それがウンディーネが落ちた時にあのエヴァーが言っていた『概念破壊』なのか、あるいは……とにかく、上のルートでは行けません。
仕方がないので別ルートで行きます」
「別ルートって何よ?ここは城壁に囲まれて……もしかして」
サラマンダーは私がしようとしていることに感づいたのか、若干声を低くする。
「そうです。貫くんです!」
私はサラマンダーとウンディーネを機械仕掛けの神に乗らせ、ドリルを構成する。
そのままドリルは直進し、城壁を貫いた。
「やっと外に出れましたね……って、あれは……」
「何……あれ……?」
私達の目の前には、何千何万という兵士が歩き連ねていた。