第六十九話 拳
私の拳がエヴァーを弾き飛ばす。
スキルが無くとも私に腕のリーチはある。エヴァーは子供だ、私との体格差は明らかだった。
「くっ……!あまり身体を動かしていたのが祟ったか……でも!」
エヴァーがこちらへ向かってくる。また拳で対応するしか無いか……
私は拳を打つ。しかし。
私の拳は空を殴っていた。空振り……!?どこへ行った……!?
「何も昔から動いていなかったわけじゃない!」
振り返るとそこにはエヴァーが居た。
それと同時に回し蹴りを喰らい私は後ろへ後ずさる。
「ぐっ……!上半身を屈めて避けたのか……!」
子供だぞ……!?精々十代前半……それでこの動きだと……!?
「小さい頃から父母に英才教育を受けていてね、あらゆる事を学ばされた。
さしずめ天才少年といったところかな……?そして」
突如私の後頭部へ衝撃が走る。
「ぐあっ……!」
そんな……目の前にエヴァーがいるんだぞ!?それなのにどうして後ろから攻撃が……!?
「下弦、よくやった」
「はっ、ありがたき幸せ」
エヴァーの声ではない、別人の声が後ろから聞こえてくる。
「気づいてなかったかい?この同盟の最後の転生者、下弦影丸さ。
スキルは『影』だったけど……スキルを無効化された今じゃ意味が無いからね、特別に教えてあげるよ」
下弦と呼ばれたその男は黒子のような姿をしていた。
一体いつから……私の後ろにいたんだ?
「いつから……いた……」
「三日前、ってとこかな。下弦は君の影に潜り込んでこっちに情報を伝えてくれたんだよ。
だから君のところにピンポイントで投げられたんだ」
三日前……!?ネヅかサトルに付いていたのが私に移ったのか……?
「さて、これで二対一だ。自分の能力が仇になったな……」
負けちゃ駄目だ……私があの力を引き出せたのは皆がいたからだ!
こんなところで倒れていられない……!
私は四つ這いになっていたからだに力を入れ、拳を握りしめる。
「うおりゃあああああぁぁぁぁ!」
渾身の拳は下弦の顔にめり込んだ。
引っこ抜くと同時に、下弦はその場に倒れ、気絶した。
「……ストレート」
「は……?あり得ない、そんな力、いったいその体のどこから……?」
私はぐるりとエヴァーの方へ身体を向け、ズカズカと歩み寄り、胸ぐらを掴む。
「ひっ……!や、やめろ……悪かった、あいつらは____」
「私の力は皆の力だ!喰らえ!最後の一発!ストレートおおおおおぉぉぉ!」
「ぐぇあぁぁぁ!」
最後の力を出し切り、私はその場で膝をつく。
エヴァーは気絶した。あとはこの石を……この……石……を……
「木に引っ掛かったのが幸運でしたね……サラマンダー、ウンディーネ、いますかー?」
私の声がそこら中に響き渡る。
城の小さな中庭、翼が消えたあとどうにか無事だったものの……サツキがどうなったのか……。
「フレイー!ここ、ここよ!助けて頂戴!」
サラマンダーの声が聞こえる。この林のどこかだ。
すぐ助けに行かなくては……!
私は木の枝に引っかかっていた服を枝から抜き、数メートル下の地面に降りた。
「サラマンダー!どこですかー!?」
「ここ、ここよ!真上にいるわよ!」
その声を聞き上を見ると、私と同じく木に絡まっているサラマンダーがいた。
「ちょっと待ってくださいね!そこにすぐ行きますから!」
とは言ったものの、『機械仕掛けの神』が使用できるかどうか。
空中でいきなり解けたあと、全く使用していない。
「使えますかね……棘は刺さったままですけど……あっ、使える……!」
いつもの感覚で槍を作るイメージをすると、棘から白い物体が現れ、槍を形作った。
しかし、このままではサラマンダーごと貫いてしまうかもしれないので、ダガーに変形させる。
「サラマンダー、じゃあ切りますね。えいっ!」
ダガーを飛ばし、サラマンダーに絡まる枝やツルを切り裂く。
すると少しまだツルが絡まりながらも、サラマンダーは私のもとに落ちてきた。
「ありがと、感覚が無くても木って鬱陶しいのよ、燃やせればいいんだけどねぇ……」
サラマンダーは気軽な声で地面に転がった。