第六話 クエスト終了
クエスト終了後、私達は馬車の下まで戻り、再び揺られていた。
夕陽が地平線へ沈もうとしている中、私達は賊を壊滅に追い込んだ快挙を為したが、あまり嬉しい気持ちでは無かった。
それは、賊の頭からスキルについて聞き出した後、彼が言っていた言葉のためだ。
『お前らにとっちゃ俺たちゃ悪だがよ、誰かからしたら正義かも知れないんだぜ。
悪とは?正義とは?誰かの正義は誰かの悪でもある。
お前は正義を振りかざして悪になる覚悟はあるのか!?』
「……サツキ、賊の頭が言っていたあの言葉はどう言う意味なのですか?」
フレイはまだ意味を理解できていなかったのか、私に問いかけてきた。
「彼は……かつて義賊だったんだ。私達が今いるこの国のね」
「だった……ですか?それってどう言う……」
「賊たちは貴族から盗んだものは全て民に還元していた。
日々の暮らしはその人たちに恵んでもらう形で凌いでいたんだ。
しかし、人々の心が彼らに傾くことを恐れた王は彼らが助けた人々を何かしらの理由をつけて片っ端から処刑した。
賊の情けを受けることは罪である、と伝えるための見せしめに」
ギルドの受付から聞いた話だけれども……。
「民は次第に賊達と関わるのをやめ、再び国の圧政に敷かれるようになった。
警備は厳重になり、最早賊たちは生きていく道を失った。
そのあとどうしたか……イツ先生、もちろんご存知ですよね?」
「ああ……頭は麻薬に手を出した。
国の支配下にあるギルドは信用ならないってな……。
民にとっての正義だった俺たちは、悪になっていた。
今じゃ誰の正義か……」
イツが淡々と語っていると、フレイは静かに、怒りを孕んだ声を上げた。
「サツキは……知っていたんですか?全部。
イツが仲間だったことも、彼らが悲劇の先の人間だったことも。」
決まっているじゃ無いか。
条件に合う人間を選び、合理的に仕留める。
昔から私はそうやってきた。
彼に頭の弱点を聞き、その心の傷口を開けるようあらかじめ言っていた。
「……知っていたさ。イツ先生があの頭の心の弱点だった。
だから隙を作らせるように、動揺させるように仕向けた」
「じゃあなんで!イツに辛い演技までさせて倒そうとしたんですか!」
「それがイツの望みだった!頭を楽にさせてやりたい。
そう思っていたとき、私に声をかけられたんだ」
私の言葉を聞いたフレイははっとしてイツの方を見ると、彼は遠い空を見つめていた。
「……フレイ、悪いな。こんな盗賊まがいの人間のことで悩ませちまって」
「そんなことありません!
あなたはここまでギルドに入ってから、ずっと一人で抱え込んでいたんでしょう?」
フレイは首を横に振って話した。
「いや、落ちぶれていようが仲間を裏切っちまった身だ。
俺が頭達を救う方法はあれしかなかったんだ。」
「……」
「……」
私達は言葉が出せず、黙り込んでしまった。
あの頭はまともに戦っていたらとても勝てるような人じゃ無かった。
心を惑わせ、あらゆる手を使ってやっと倒せた。
イツがいなければ直ぐにやられていただろう。
「……ほら!湿っぽい話は終わりにして、金勘定でもしようぜ?
今回は本来のクエストとは別のもっと推奨レベルが高い賊のリーダー討伐も達成してんだ!
報酬は跳ね上がるぜ……?」
「先生がそう言うのなら……構わないとも?
ええっと、そのクエストは確か……」
「150万オウル、ですよ。推奨レベルは40くらいでしたからね。
イツもレベル30でしたよね?なら全員のレベルアップが見込めますね」
馬車の上で繰り広げられる計算をしている間に、日は沈んで真っ暗になっていた。
ランプをつけて、私達は帰路に着く。
「はい、確かにクエスト達成の印、頂きました。
ここまでの大型クエストですと、少々時間が掛かりますので、また明日いらっしゃって下さい。」
街に戻った私達はギルド受付へ行きクエスト達成の手続きを完了した。
「じゃあ、また明日な」
私達はイツと別れ、食堂へ行った。
「モーモー丼、お待ち。」
前の世界と似たような食べ物があるけれど、微妙に名前が違うものが有るんだよなあ。
転生者の人たちがふざけて伝えたんだろうな。多分……。
「ねえフレイ」
「なんですか?」
フレイは牛丼を食べながら話した。
「私達、これで旅に行けるんだよね?」
「ええ。金銭面ではもう問題は無いですよ。ただ……」
「ただ?」
「明日のギルドでどうなるか、ですね」
「それって……どう言うこと?」
「ふふ……お楽しみ、です」
うーん……フレイにしては含みのある言い方だな……。
明日何があるんだろう?
翌日
私達はギルドの前に来ていた。イツが来るのを待っていたのだ。
「遅いですね、イツ」
「まあ、待ってればくるでしょ」
そんなことを話しながら待っていると、道の遠くから大荷物を持ったイツが見えた。
「おーい、へへ、悪いな。荷物纏めるのに長引いてよ」
なんの荷物だ……?
「なんでそんなに大荷物を?」
「盗賊の者ってバレる前にこの国から逃げるのさ。
まあ、ギルドで金貰ってからじゃなきゃ意味ねえけどな」
「なるほどねえ。じゃ、入ろっか」
そう言いながら私がドアを開けると、こめかみの横を通って高速で何かが突き抜けた。
「よう!俺がお前らのテスト担当、ビリーだ!よろしくな!」
目の前には片手を帽子に、もう片方の手で銃を構えた男が立っていた。
な、なんだあこいつ……?
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