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第六百六十九話 スキル失敗?

「……」


「……? おい、どうした。とっととスキルを使えって言ってんだ」


「…………た」


「あ?」


 俺はか細く声を発していた。

 俺の声が聞き取れないのか、芦名は怪訝な顔をして聞き返す。


 俺の手の内にさっきまで確かにあった、あの感触。

 それが、今はどこにも無い。


「俺が出したマナがどっかに行ったぁ! スキル発動する前に、無くなったんだ!」


「はあ……?」


 芦名はもっと分からなくなったとでも言いたげな表情をするが、俺にはこれ以上何も言えない。

 だって、言葉の通りの事が起きてしまったんだ。身体から出したマナはスキルになるはずなのに、俺のマナは忽然と姿を消してしまった。


「……まあ、待て。慌てんな。岩になんか変化が起きているはずだろ。目に見えない形のスキルなんざ幾らでもある」


 そう言って芦名は、マントの中に手を突っ込むと温度計を取り出して岩に当てる。

 温度計が指した温度は、十五度。


「……熱くもなく冷たくも無え。普通の温度だな……。いや、いやいや、何かしらの形で発動している筈だ。概念系はまあお前の感じからして無いが……付与か生成のどっちかだろうな」


「特に何かが出て来ている様子は無いが……」


「いや、透明な物質が出来ているのかもしれねえぞ。もしそれ操れるっつう能力なら、色々できるはずだ」


 芦名の言葉になるほどと合点がいくのと同時に、頭にそれを操る光景が思い浮かんだ。

 見えない壁を作って相手を阻んだり、仲間を守ったり……。


 そんな能力を手に入れられると思うと、胸が踊る。

 しかし、そんな最中ふと現実に帰ると。


「……え、っと……うーん……」


 芦名が地面を見ながら歩き回っている。

 

「……芦名?」


「……無えな。何の感触も」


 気まずそうに、芦名は苦笑いしながら顔を向けた。


「あああぁぁああ! やっぱり俺はスキルを使えないんだ! 一生このまま何も出来ずに過ごすんだあぁ!」


 そう叫びながら、俺は地面をのたうち回る。

 最早希望のかけらもない。頼みの綱の芦名でさえ解決できないのでは、いよいよ俺の冒険も終わりだ。


「待て待て! そう悲観するな! ……しかし、なぁ。確かにお前の言う通りスキルは発動してなさそうだな。マナを上手く出せていなかったとかか……? つっても感触って言うぐらいなら感覚は分かってるはずなんだが……」


 芦名はそんな事を言いながら切り株に座り込む。考え事を始めたようで次第に泣き喚く俺には興味を示さなくなっている。

 俺の方も三分もすれば喚くのにも疲れて来て、地面に顔面を擦りつけて身体を投げ出していた。


 

 しばらくして、芦名が岩を半分ほどマントに突っ込んで立ち上がった。


「……まあ、また明日だ。ここで頓挫するとは思っていなかったが、マナさえしっかり出せればスキルは発動する。いずれはどうにかな____」


 そうして、芦名が歩き出そうとしたその時、彼の足が地面の上を滑った。

 彼の足元ぐらいしか見ていなかった俺には本当にそれぐらいにしか見えなかった。地面がいきなりぬかるんだのかと仰天して立ち上がる。


 だがそこで、俺はその全ての光景を目の当たりにした。


 いきなり転んで目を丸くしている芦名。そして何より、その芦名のマントの先には、岩がまだ残っていた。

 全てを飲み込むはずの芦名の『無限』に、物が引っ掛かっていたのだ。

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