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第六百六十二話 死と生

 今、彼はどんな感情を抱いているのだろうか。

 俺にそれを知る術は無いが、一つ言い切れることがある。


 これは芦名にとって、確実に____


「何のつもりだ、てめえ……?」


 ____予想外だ。


「どうしたもこうしたも無い。俺はあんたからスキルの使い方を教えてもらえないなら、ここで死んでも構わないと言っているんだ」


 情感も言葉の溜めもなく、淡々と俺の口から言葉が紡がれていく。

 芦名は俺をジッと見据え、怪訝な顔をしていた。芦名から見れば、今の俺は先程までの執着がまるで無い。俺の心を揺さぶり、話に決着を着けようにもその糸口が掴めないのだろう。


 無理も無い。実際、そうなのだから。


 人は、生きるか死ぬかどっちが良いと聞かれたら大抵は生きる方が良いというだろう。空想を描いて、死ねば何もしなくても良いだの楽になれるかもしれないだの考える事は有るかもしれないが、死に直面した時にその上辺は剥がれ落ちる。本能がそういう物だからだ。結局やはり死にたく無いと、生きたいと、そう思ってしまうのだ。


 当然俺も、その二択なら生きる方を選ぶ。

 だが、意味の無い生と死を迫られた今、死に直面していない俺は死を選ぶつもりだ。きっと俺は死を味わう時間も無いままこの世から消え去るか、もしくは取り返しのつかない状態になってから後悔するというのが関の山だ。


 だから今、死ぬ事を恐れていない。スキルを使えないまま生き続ける方がずっと恐ろしいのだ。


 だから今ここで死ぬというのは、俺にとって最上の選択だ。それに何の恐怖を覚える必要があるのだろうか。


「……」


 芦名は、沈黙していた。地面をずっと眺めて、目を伏せている。

 先程放った言葉に続けて、俺は更に言葉を放つ。


「教えてくれないなら教えてくれないで構わない。ただ、俺が死ぬだけだ。スキルを使えないで生きていくならそっちの方がずっとマシなんだ」


 そう言葉にしたときだった。

 芦名が、伏せていた目をこちらに向けた。


「何でそこまでして、スキルに執着する?」


「……人を、助ける力だから」


 唐突な質問に一瞬面食らってしまったが、なんて事は無い。ただ思ったことを言えば良いだけのことだった。


「何故人を助ける?」


 しかし、立て続けに芦名は問いを繰り出す。

 今度はもう無いだろうと踏んでいたために、先程よりも驚く時間が長引いた。加えて、その答えがパッと思いつかない。


「…………困っている、から……」


「お前は困っている奴らを今まで全員助けてきたのか? 違うだろ。だったらなんで今になってそんな必死になっているんだ?」


「……それ、は……」

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